突然ですが、嫁ぎ先が決まりました。
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6、ふっふっふっ。さあ、マリー観念しなさーい
煌びやかな宝石を付け、優雅にドレスを着こなし、上品に微笑む。それが社交界における基本だ。
笑うときは静かに、口元を隠して、常に微笑みを。
決して感情を見せてはいけません。相手に情報を与えてはいけません、とミヤコは教育係に何度も言って聞かせられた。守ってもらうだけではなく、そうやって自身でも自分を守りなさい、と。
「ようこそ。よくお越し下さいました」
次々と挨拶に来る招待客を相手にミヤコは微笑みを浮かべ、いち姫として粗相のないように対応する。
公爵、公爵婦人、その息子・娘と何人も何人も……。
「あーーっ!! もうっ!!」
主な主賓の招待客との挨拶を終わらせ、ミヤコは部屋へ一旦下がっていた。
「疲れたぁ〜」
着ていたドレスを脱ぎ捨て、肌着だけになると三人掛けの広いソファーへ崩れるように座り込んだ。
「ミヤコ様、はしたないですよ」
「いいじゃない、マリー。着替え中なんだから誰も通さないように言ってあるし。マリーが内緒にしてくれればバレないしー」
それとも誰かに言う?と下からマリーを見れば、諦めたように息を吐いて肩を竦められた。
「……言うわけないじゃないですか。私はいつでもミヤコ様の味方ですし、ミヤコ様の評判が下がるようなことは決して致しません」
「ふふっ、ありがと」
本来であればきっと誰であろうと本当の感情は見せてはいけないのだろう。
でも、マリーは幼い頃出会い、ミヤコが初めて自分で選んだ侍女なのだ。だから、マリーの前ではこうして甘えられるし、素の自分が出せる。
「さて、と。そろそろ着替えましょうかねー」
この後のことを考えて、辟易しながらもそろそろ時間が迫っているし、しょうがない、と重い腰を上げる。
先程は主賓への挨拶だったので動きにくいドレスを着用だったが、次着るものは違う。少しでも動きやすいようにされた、それでも品を損なうことのないデザインのものだ。
「ねぇ、マリー?」
こちらに背を向けて、ミヤコのドレスを用意しているマリーに声を掛ける。その背に向けてミヤコは口の端を吊り上げて笑う。
「はい、なんですか?」
マリーはまだ振り向かない。
ミヤコは笑みを深くして続けた。
「出来る限りの協力、してくれるんだったわよね」
これは確認なんかじゃない。確信であり、絶対だ。
「なんですか、改めて勿論ミヤコ様がお疲れなご様子でしたらすぐに休憩を挟んで……」
マリーが振り返る。
そして、その先にあったミヤコの表情を見て己の失言に気が付いたようだ。でも、もう遅い。
「やだぁ、どうしたのマリー? 顔が強ばってるわよ?」
うふふ、なんて笑って見せてもマリーの表情は緩まない。じりじりと迫るミヤコと反対にマリーはその分だけ遠ざかろうと後ろへ下がる。
「……っ!」
マリーの背中が壁に当たる。
「ふっふっふっ。さあ、マリー観念しなさーい」
どこかの悪役のような台詞を吐いて、ミヤコがマリーに迫る。
「ひっ……!!!」
マリーの叫びは無情にもミヤコの手の中に消えていった。
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