ボスとジョルノの幻想訪問記
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紅の十字架 その④
ボスとジョルノの幻想訪問記 第27話
紅の十字架④
弾ける弾幕。閃光と光線。次々と飛来する赤白青緑。普段のレミリアなら避けることは出来たはずだ。
だが、今の彼女はかなり動揺していた。愛するたった一人の妹が死に、しかもその死体が透明な人形となって襲いかかってきているのだ。
禁弾『スターボウブレイク』。確かに、何度も何度も姉妹喧嘩の中で見てきたスペルカードだ。避けるのに一苦労する。色ごとに弾速が違っていて、特に私は青色の弾を避けるのが苦手だ。フランドールが好んで使う、彼女にしては綺麗な弾幕。
それを今、敵が我が物顔で使っている。さも当然のように、武器にして私に攻撃する。妹がいなくなった動揺もあるが、敵に対する怒りの方が大きかった。
右肩に被弾すると、右腕が吹っ飛んだ。流石は私の妹の弾幕だ。攻撃力は申し分ない。そういえば久しく姉妹喧嘩などしていなかった。皮肉にも、これが最後の姉妹喧嘩になるかもしれない。
「・・・・・・」
アリス・マーガトロイドはなるべく声を発さないようだ。自分の位置を敵に教えるようなものだからだろう。
フランドールの弾幕を回避しているつもりだったが所々被弾してしまっている。アリスの方に注意が向いて、うまく回避に集中できていない。左足が消し飛んだ。
だが、すでに右腕は回復している。翼さえ傷付かなければ飛翔には問題ない、と思っていた矢先に右翼がもげた。
私は地面へと落下した。落下している途中、弾幕の何発かが命中した。どこに当たったかは痛すぎて覚えていないが、地面に当たったときには右腕しか残っていなかった。
・・・・・・いつの間にかかなり不利になっていた。たとえ魔理沙やフランドールのスペルを使えようとも、アリスごときに後れを取るはずがないと思っていた。無論、左腕両足両翼をもがれた今でも思っているし、私がこんな場所で死ぬはずはないと思っていた。きっとフランドールでも同じことを思うだろう。
――――だって私は吸血鬼――――。
「――――そうよ」
アリスが地面に落ちた私に向かって声をかけた。馬鹿め、折角透明なのだから大人しく黙っておけばいいものを。
しかし、アリスは構わずに話を続ける。
「貴方の妹も今の貴方と同じ目をしてたわ。まさか自分がこんなところで死ぬはずがない、と。だから彼女は死ぬまで勝てる気でいたし、誰にも助けを求めようとはしなかった」
どうやらアリスはフランドールを殺したときの話をしているようだった。非常に不愉快だ。
「だからフランドールは死んだ。私に殺されて、魔理沙の『オトモダチ』になれた。他の誰にも、その死ぬ瞬間を看取られもせず、ただ、孤独に、死ぬはずがないと思いながら、無惨に」
それはそうだろう。フランドールは誰かに助けを請うなんてことはしないし、そもそも誰かに助けられるほど弱くない。
「誰もが劇的な死を迎えられない。私や魔理沙も、ただのその辺の男に殺されたし、貴方の自慢の妹は誰にも見られず、一切の描写もなく、いつの間にか死んだ」
そうだ、フランドールはそういう子だった。無邪気で、私以外には心を開かず、常に一人で戦っていた。そういうことを好んでいる節もあったし、だから一人で死んだのだろう。
フランドールは気付かれないうちに死んだ。
「でも、安心して? 死んだ彼女は魔理沙の幸福に役立つし、彼女自身もきっと幸福だから」
――――その時の心情はきっと今の私みたいに――――。
無念だったんだろう。
「――――『キラークイーン』、第二の爆弾」
私は残っている右腕を挙げて『キラークイーン』を出す。その右拳はただの拳ではなく、爆弾の戦車。
アリス・マーガトロイド。お前の体には声が肉声であることから血が通っているのは分かった。つまり、お前は死んだと言っているが復活して『まだ生きている』。人形ではなく、アリスはまだ透明なままの人間だ。
だとしたら、奴の透明化した人形を操るという能力を止めるにはこの方法しかない。
「・・・・・・狙いはッ!! 貴様一人だッ!!」
『キラークイーン』の腕から放たれたソイツはドクロの顔を模しており、下部にはキャタピラが着いている。銀の戦車ならぬ、爆弾戦車。
「アリス、貴様が人間だとしたらそれはつまり貴様には『ある』ということだ・・・・・・」
私の冷えきった体とは対照的にッ!!
「・・・・・・なっ、真っ直ぐこちらにッ!?」
戦車はアリスだけが持つ『あるもの』に反応して、突進する。もちろん、アリスは自分の場所は正確に把握し切れていないだろう、と思っていたため迷いもなく突っ込んでくる戦車に面食らった。
名前は『シアーハートアタック』。
「シアーハートアタックだッ!! 貴様の体温を追跡するッ!!」
血塗れの体を起こして私は高らかに宣言した。
体温、というよりこの場で最も高温なものに突っ込む習性があるシアーハートアタックは標的を察知すると必ず爆破するまで追い続ける。最初からこの手を使わなかったのは、元から吸血鬼は体温が低いがアリスも人形ならば自分に向かってくる恐れがあるからだ。人形には血が通っていない。つまり体温がない。だが、アリスの声を聞く限りあれは肉声だ。つまりアリスだけはまだ人間だという証拠。
そしてッ!! アリスだけが人間だというのなら、アリスがいくら人形でシアーハートアタックを止めようとしてもアリス自体を爆破するまで止まらないッ!!
「コッチヲミロォ~!」
シアーハートアタックは一切の迷い無くアリスのいる方向に突き進む。
「・・・・・・戦車というのなら」
ズガガガガガッ! と地面を削るような勢いでキャタピラを回す爆弾戦車。
だが、アリスは至って冷静だった。すぐに踵を返し、魔理沙を抱えて壁に足をかけた。
「壁には上れないはずッ!!」
二歩、三歩、四歩と壁を掛け上がるアリス。彼女は『リンプ・ビズキット』の影響で上下の区別が無くなっている。よって壁にも天井にも自由に立つことが出来るのだ。
だが、レミリアは逆に微笑んだ。
彼女のシアーハートアタックが空や壁に逃れるくらいで無効になるのなら『弱点はない』などという肩書きはかけない。
「これは初めて言うが・・・・・・、――――我がシアーハートアタックに弱点はない」
「!?」
「コッチヲ・・・・・・ミロォォ~~ッ!」
アリスが壁を掛け上がるが、シアーハートアタックはそれを追撃するかのように勢いよくジャンプしたッ! まさか戦車がジャンプをするとは思わなかったアリス。レミリアには見えないが彼女は確かにヤバイ、という風に目を見開いた。
「木っ端微塵に砕け散れッ!!」
「――――そうはいかないッッ!!」
と、アリスは自身の切り札でもあるスペルカードを切る。
「完成体『ゴリアテ人形』」
彼女の切ったスペルはかつて氷の妖精に一度だけ試作段階で使ったことがあり、最後は力を制御できずに爆発した『人形を巨大化させる』スペルである。巨大化した人形はどういう種類であれ、一律して『ゴリアテ』と(ゴツい)名前を付けられ、両手には二本の巨大な剣が握られる。
巨大化させたのは手元にあった上海人形だが――当然、ゴリアテになっても透明のままである。一見では何が起きたかレミリアには分からなかったが、明らかに巨大な何かによってシアーハートアタックの進行が妨げられた。空中でジャンプしていたこともあってゴリアテに当たったシアーハートアタックは簡単に弾かれ地面に落ちる。
地面に落ちたシアーハートアタックはすぐに再びアリスを目指し突撃しようとする。それを見たアリスがゴリアテを操って足でそれを踏みつける。
「ぐっ、これだけ質量差があって・・・・・・止めるのが精一杯だなんて!」
「・・・・・・コッチヲミロォ~」
だが、戦艦のようなゴリアテの踏みつけでもシアーハートアタックはひしゃげることなく、進撃を続けようとする。それを見たレミリアは、まだ行ける、奴にはシアーハートアタックを止める術はない! と確信する。
ぐぐぐぐぐぐ・・・・・・、とゴリアテは片足に全体重をかけてシアーハートアタックを押さえ込もうとするが止まる気配がない。
「と、止まらないッ!! マズイ、が・・・・・・」
と、アリスはギラリとレミリアの方を睨んだ。そうだ、これが『スタンド』による攻撃ならば、元を断てばいいだけの話ッ!!
「独逸人形、露西亜人形ッ!! それに京都人形!!」
アリスが声をあげるとどこからともなく「DEUUUUUUTSCH・・・・・・」「RUSSIAAAAAAANNN!!」「JIPAAAANNNGUUUU!!!!」と唸り声のような、鳴き声のような、暗く引き延ばした重い声が響いた。
アリスは魔法糸による操作ではなく『スタンド』能力によって人形たちに命令していた。
「そこの吸血鬼の血と目を抉り出し、人形に変えてしまいなさいッ!!」
そんなアリスの命令はもちろんレミリアは予期していた。
「人形程度・・・・・・この右腕だけで十分よ! 悪魔『レミリアストレッチ』ッ!!」
自分ではおそらくこれ以上無い程のカリスマセンスを放つスペルカード名を叫び、まだ再生途中の両足と左腕で地面を掴み右手を振りかぶる。右腕に力の全てを集め、筋肉を収縮させ――一気に放つ。
「UUUURRRRRRYYYYYYYY!!!」
ザシュッッ!!!
自分の周囲を薙払い、人形たちは凶悪な爪の一撃によって脆くも崩れさった。
「まだ、・・・・・・まだこんな力がッ!!」
アリスはもはやシアーハートアタックの侵攻を遅らせるのが精一杯のようだ。レミリアの予想外のタフさに次第に追いつめられていく。
「ギギギギギギ・・・・・・コッチヲ・・・・・・ギギギギギギギィィ」
ギャルギャルギャルルル! とキャタピラを無茶苦茶に回転させゴリアテの足裏から脱出しようとするシアーハートアタック。
「ミロォォ~~~!!」
ゴリアテも何とか踏ん張り、レミリアの予想していた時間以上にシアーハートアタックの攻撃を遅らせていた。
だがついにゴリアテの拘束から脱出する。シアーハートアタックは拘束を抜け出し一目散にアリスの方向めがけて突進しようとするが――――。
「うぐぐッ・・・・・・ご、ゴリアテッ!!! ソードも使いなさいッ!!」
アリスはゴリアテを糸で操り、二本の剣で自分の足裏の踏みつけから出ていこうとするシアーハートアタックを叩きつける。
ズガッ、ガガンッ!!!
「――――うまく剣で軌道をずらしたか・・・・・・しかし、我がシアーハートアタックはそんなチンケな刃で真っ二つになるほど貧弱じゃあないッ!!」
地面に二本の剣で押さえつけられ再びシアーハートアタックは動きを遮られるが――――
パキィィンッ! と、高い音を発しながらゴリアテの握っていた剣の刃が二つとも砕け散った。
「――――なッ・・・・・・や、刃が折れた・・・・・・?」
鋼鉄製の刃が折れるなんて事態を全く想定していなかったアリスにもう打つ手は残されていなかった。
「コッチヲミロ~!!」
今度のシアーハートアタックはジャンプはせずに、凶悪なキャタピラを乱回転させて壁を抉りながら登ってきた。
「そんなッ!! 壁を、壁を垂直に上がってくるなんて、考えられないィーーーーッ!!!」
「貴様等も壁とか天井とか立ってるでしょうに・・・・・・。まぁ、いい。食らえッ! 『キラークイーン』第二の爆弾ッ!!」
ズギャギャギャガガギャギャガガと派手な破壊音を上げながらシアーハートアタックはついにアリスの目と鼻の先まで到達するッ!!
「コッチヲミロォ~~~!!!!」
シアーハートアタックが白い光を放つ――――。
* * *
ジョルノと妹紅の迅速な処置によりパチュリーと咲夜の応急処置は完了した。だが、咲夜の右目はジョルノであっても治せないようで(複雑な人体パーツの修復はまだジョルノの医学知識では不可能だった)、残りの傷はフランドールの能力に任せる、という結論に至った。
「じゃあ、私は咲夜さんを。二人はパチュリー様とドッピオを運んで脱出しましょう!」
美鈴は目を覚まさない咲夜を抱えて二人に言った。
「・・・・・・異論はないな。ジョルノ、私がパチュリーを抱えるからお前はドッピオを頼む。ホラ、男だから」
妹紅のその一言にジョルノはむっとして
「何だか疑われてるっぽいですが、僕はドサクサに紛れて女性の体を触るなんてことはしませんからね」
「・・・・・・念のためだ」
とにかく、ジョルノがドッピオを。妹紅がパチュリーを。そして美鈴が咲夜を背負って紅魔館を脱出するということで。
「いいですか。今のところ館内にそこまで敵はいませんが・・・・・・一つ忠告しますね」
部屋を出ようとしたときに美鈴は二人の方向を振り返って忠告する。何事か? と思っていると。
「厨房はヤバいです。絶対に厨房のドアを開けたりしないでくださいね」
ちなみに厨房は一階の階段付近にあります、と美鈴は付け加える。
「紅魔館の構造上、外に出るには厨房の前を通らざるを得ないようだが・・・・・・開けるなってことは何かがいるのか? その中に」
「いえ・・・・・・実際に中は見ていませんが・・・・・・。と、とにかく厨房前を見れば分かると思います」
美鈴の説明は曖昧だったが、美鈴自身、アレをどう説明すればいいか分からなかったのだ。
「――――行きましょう。お嬢様たちがもう待ってるかも」
美鈴は部屋のドアを開けて廊下を走る。二人もそれに続いて走った。紅魔館の廊下はどこかに敵が潜んでいそうな気配が漂い、非常に不快な雰囲気だった。それは美鈴もどうやら同じらしく、知らず知らずの内に走るペースが速まっていく。
そのペース。蓬莱人の妹紅にとってはそこまでキツくは無いがただの人間のジョルノには少々堪えた。
「ちょ、っと・・・・・・! は、速いですよ二人とも!」
流石に人間を一人抱えて全力疾走が続くわけもなく、次第にジョルノのペースが落ちていく。
「! おい、美鈴! 速いってよ、待とう!」
妹紅の言葉に先頭を走っていた美鈴が歩を止めた。それを見たジョルノはほっと息をつく。良かった、二人に置いて行かれたらもしかすると敵に囲まれたときに大変だった。
だが、美鈴が足を止めたのは妹紅が呼び止めたという理由ではなかった。
「――――ッ!!」
「おい? どうしたんだよ、美鈴――――あ・・・・・・」
美鈴がただならぬ雰囲気で階段の下を見ていた。何事かと思っていた妹紅は同じように美鈴の視線の先を見ると黙った。
「・・・・・・はぁ・・・・・・ど、どうしたんでしょうか? 二人とも立ち止まって・・・・・・」
ジョルノは頑張って走っていたがまだ美鈴の所にたどり着いていなかった。二人が声も出さずに同じ所を凝視しているが、一体何が?
ようやく追いついたジョルノは息を切らしていた。やはり妖怪と人間では体力面で大きく差があるな・・・・・・。帰ったら体力でも鍛えようかな、と思っていたジョルノ。だが、二人と同じように視線の先を見ると、表情が一変する。
「・・・・・・あの」
「・・・・・・おい美鈴。あれって・・・・・・」
「・・・・・・い、いや、わ・・・・・・私がレミリアお嬢様の部屋に行くときは・・・・・・まだ・・・・・・」
「お前がさっき行っていた『見れば分かる』って・・・・・・いや、見ても分からんぞ」
妹紅は視線はそちらに釘付けにしながら美鈴に尋ねる。
「・・・・・・や、ヤバいですね。これは・・・・・・」
三人の視線の先は――――厨房。
だが、ドアが開いていた。いや、驚くべき所はそこじゃあない。
少なくとも三人が二階の階段上から見える一階の廊下は全て、5センチほど浸水していた。
「・・・・・・『血の海』」
三人の内誰かが呟いた。誰が呟いたかは誰も覚えていない。ただただ、眼下に広がる血で浸水していた一階の様子に息を呑むことしか出来ずにいた。
第28話へ続く・・・・・・
* * *
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