突然ですが、嫁ぎ先が決まりました。
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1、開き直ってるんじゃないわよ!! 馬鹿父!!
突然ですが、嫁ぎ先が決まりました。
「……………………」
「……………………」
「……………ええい!! 鬱陶しいわっ!! 無言で睨んでも無駄だ。決まったものは変えられはしない」
分かっています。分かっていますとも。ですが!!
「娘の意見も聞かず、勝手に縁談を決め、その上、一か月後に、王子本人が迎えに来るから、一緒に行け、ですって!?」
開き直ってるんじゃないわよ!! 馬鹿父!!
「そうじゃなきゃ、お前なんて誰も嫁に貰ってくれないだろうが!!」
「うぐっ……!!」
それを言われてしまえば、最早何も反論出来ない。
勝った、とばかりに口元に笑みを浮かべて見てくる馬鹿父を睨み付けて、簡易な礼を取ると早々に部屋を出た。
セリア国第二王女──ミヤコ・レストラ。
彼女には様々な噂が立っている。それもミヤコ自身の振る舞いによるもので、事実も多分に含んでいる。
ミヤコはお茶をたてたり、花を愛でるよりは外を馬で駆ける方が好きだったし、ドレスで着飾るよりも動きやすい格好の方を選びたがった。
子供の頃はよく木に上ったりして遊んでいたが、いつしか注意され、無理矢理止めさせられた。
代わりにお茶やダンス、作法と習い事を増やされ、何度となく授業を抜け出したこともある。
そんな行為が噂され、ミヤコは“男勝りなお姫様”などと言われるようになり。そんな皮肉めいた名称が行き交った。
勿論、ミヤコに色恋の噂はない。
「そりゃあ、私だって恋はしたいし。結婚だって勿論したいわよ……」
何も嫁ぎたくない。と否定してるわけじゃない。
けれど、これが『私』だ。『私』を見てくれる人と一緒になりたい、と言うのはやっぱり贅沢な望みなのだろう。
「バレル国ねぇ……」
バレル国とはここ、セリア国の隣国にあたり、つい数年前に協定を結んだ国だ。
その協定を確かなものにするために、ミヤコの婚約が決まったのだ。
当然、ミヤコの嫁ぎ先はバレル国となる。
はぁ、と溜め息を吐いたところで、ノック音が聞こえた。
「はい」
「ミヤコ、入るよ」
「兄様……」
現れたのはミヤコの兄、ノエル・レストラだった。
ノエルが苦笑を浮かべて入ってくる。
「……何も言わなくていいわ、兄様。私だって分かってはいるんだもの」
そうは言っても拗ねたような物言いになってしまうのは、相手がノエルだからだろう。無条件で甘えさせてくれる兄は、いつでもミヤコの味方をしてくれた。
「ミヤコが納得しているなら、それでいい。でも、本当に嫌だと思うのなら、遠慮なく俺たちに言いなさい」
ノエルが優しい手つきでミヤコの頭を撫でながら言う。
俺たち、と言うのはノエルの双子の姉、アヤメの事を言っているのだろう。二人は歳の離れた妹であるミヤコをとても可愛がってくれているから。
「父上だってお前のことを心配してることは忘れちゃいけないよ?」
「はい」
ノエルに返事を返したところで、ミヤコはそう言えば、と切り出す。
「兄様、私を宥める為に来てくれたの?」
ミヤコを溺愛しているノエルなら、それもありだろうが、それだけではない気がしたのだ。
「あー……、本題は別なんだ」
「?」
「一週間後、パーティーが開かれることになった」
「一週間後? パーティー?」
「お前の結婚祝いを兼ねた御披露目パーティーだそうだ」
「………………兄様、」
言いたいことは沢山ある。あるけれどっ!!
ミヤコは脱力感に襲われ、うなだれる。
ノエルが軽くミヤコの肩を軽く叩いた。
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