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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-8 74層攻略
  Story8-4 デュエル決着

第3者side


彼氏とは対称的に、セットしておいたアラームがけたたましく鳴り響き、音で頭を揺さぶられた彼女は目を覚ました。

自室の寝室でボーッと仰向けのまま天井を仰いでいると、上に持ち上げられた瞼が重みを増し、再び光を遮断しようとする。

「ん〜〜〜〜」



いっそのこと二度寝でもしようかと考えたが、今日は朝から迷宮区の探索が予定に入っているのだ。

寝過ごして他の三人(特に彼氏)に迷惑かけたくない。



「よいしょっ!」

少しだけ反動をつけてうずめていた顔を枕から離し、寝具から勢いよく起き上がる。身体にかかっていた布団が肩から落ちると、そこにはパジャマ姿のフローラがいた。








起き上がって最初にしたのは着替えることだった。

一瞬だけ下着姿を露わにするが、ここは彼女の自宅であり、この場にいるのは彼女だけ。なんの気兼ねもなく、いつもの服に身を包んだ。

「お腹空いたなぁ……」

リビングのテーブルに、パン・サラダ・ミルクを用意し、席に着くと手を合わせて食事を取り始める。

「いただきまーす」

パンを口に運ぶ。サラダを食べる。





「ご馳走様でしたっ」

皿が空くと手を合わせ、誰にでもなく食事の終了を告げ、もう一杯分だけミルクを注いで一息ついた。

ふと、タンスの上にあるペンダントへ目を移す。オレンジのペンダントは、16歳の誕生日に彼氏からプレゼントしてもらって以来、ほぼ毎日装備するようにしていた。


壁にかけた水色の片手細剣、ドリームスピナー。
タンスの上においた、彼氏からのプレゼントのリボン、アイテム名ブロッサムベール。

これらはすべて、彼氏との思い出を持つ大切な品。
それを想うだけで、思わず頬が緩む。








時刻を確認すると、単独で集合場所へ向かうには少し早いが、みんなの状況をフレンドリストで確認した。

――キリト君とシャオン君は分かるけど……アスナ早いなぁ〜

アスナの現在地は74層の街カームデットを示していた。どうやら早々に家を出ていたらしい。


キリトに早く会いたい、などという都合のいい解釈をして自己解決するが、そんなアスナの気苦労をフローラが知るのは、カームデットに降り立ってからである。

フローラは装備品にブロッサムベールを加えていつもの髪型にすると49層リフレインのホームを出た。
















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆













場所は変わって74層カームデット。



緊迫した空気の中。

街中でデュエルと言う事もあり、あっという間にギャラリーも集まってきた。



このデュエルをする場所は街中でも転移門前の広場。
これから冒険に行くためには必ず通る場所だ。
デュエルをするのは数少ないソロプレイヤーの1人であるシャオンと血盟騎士団のメンバー。
観客からすれば魅力的なカードだ。


『ソロのシャオンとKoBメンバーがデュエルだとよ!』


観客のその一言が始まりだった。
街中に広がっていき瞬く間にこの場に各種のプレイヤーが集まっていたのだ。


場が一斉に沸く。
普通のデュエルは友人同士の腕試しで行うのが一般なのだ。


このような険悪なムードにまでなり、かつデュエルまでこじれる事を知らない観客達は更に沸いた。
指笛を吹き、歓声も一段と高くなっていった。


そんな緊迫感の中。

「……」

シャオンは完全に意識を切り替えていた。

――シャオンは今、仲間の為に、剣を握ってる。誰かを守りたいっていう、強い意志があいつにはあるんだ


キリトはそう感じていた。













シャオンとクラディールの間にはぴんと張り詰めた空気が流れて、時間だけが過ぎていった。


カウントが0になったと同時にDUEL!!の文字が弾け、ほぼ同時に2人は地面を蹴って距離をつめた。


クラディールの初動スキルは両手用大剣スキル突進技〔アバランシュ〕だった。

生半可なガードでは推し負けてしまい、受けることが成功したとしても衝撃が大きすぎて優先的に反撃に入れず、避けても突進力で距離ができる為、使用者に立ち直る余裕を与える優秀な高レベルの剣技だ。












それはあくまで『モンスター相手』であれば……だ。




シャオンはそれを重々承知だった。
基本セオリーで勝てるほど対プレイヤー戦『DUEL』はあまいものじゃない。


シャオンは同じく上段の神速剣スキル突進技〔メテオレイヴァー〕を選択していた。


技同士が交錯する軌道。
本来ならば、技同士の衝突はより重いスキル、武器が優先され、軽い方は当然弾かれダメージを負ってしまう。

それも、敗北を喫するに十分なダメージだろう。








だが、この時点でシャオンが狙っていたのはクラディールでは無かった。


クラディールはこの時、勝利を確信していたのだろう、下衆びた笑みを浮かべ喜々と剣を振り下ろしていたが、この時のシャオンの速度は、初速でのそれを遥かに凌駕していた。

クラディールは目で追うことは出来なかったようだが、シャオンはその軌道のまま、剣をクラディールの大剣の刃ではなく横腹に命中させ、そこからクラディール本体に当てた。



武器と武器の衝突がもたらすもう1つの現象。


それが武器破壊である。


キリトがその高等技術を最も早い時期に会得している。

シャオンも、その技術をキリトから受け取っていた。




アスナは息を呑む。



それと同時に、すれ違い様になっていたクラディールとシャオン。
その表情は先ほどより一変していた。
シャオンは何も変わっていない。だが、クラディールは違った。わなわなと震えている。
その手に持つ剣は根元からポキリと折れており、そのまま硝子片となって砕け散っていたのだ。

「ば……ばかな」

そう一言だけ呟いて。

「武器破壊っ!」

「狙っていたのかよ……」

歓声もそれと殆ど同時に沸き起こった。
この武器破壊と言う現象は少なからず知っていたがその確率は異様に低く、実際に狙ってできる様なモノではない。



それが、一定のアルゴリズムで動くモンスターなら兎も角、様々な思考を持つプレイヤーとなれば尚更のこと。
アスナはこの光景には驚きを隠せない。


――あいつ、当てた後で狙いを変えた……あんなの、シャオンにしか出来ないな……


シャオンのスピードがあってこそできる武器破壊からの一撃。


改めて、シャオンのスピードを知った時だった。

シャオンは軽く剣を振ると、

「クリティカルヒットにはならなかったか…………

あんたが武器を変えて仕切りなおすのなら、付き合うけど…………そんなんじゃ何回やっても俺には勝てないよ」

ひざまづく様に伏しているクラディールにそう言うが、まるで聞く耳を持たなかったようですぐさまウインドウで新たな武器を持ち直す。

「うおおおおお!!!」

そのままの勢いで、シャオンに切りかかろうとしたが、

ガキィィィン


割って入ったアスナがその剣を弾き飛ばした。


それを呆然と見ていたクラディールは、

「あ、アスナ様、ち、違うんです! これは、ヤツが何か汚い手を! 武器破壊も何か仕掛けがあったに決まってるんです! でもなければ私が薄汚いビーターなんかに」

「クラディール」

アスナが低くはっきりとした口調で話す。

「血盟騎士団副団長としてより命じます。これより、護衛の任を解任。別命があるまで本部にて待機。

以上」

はっきりと伝えるその姿に先ほどまでの姿はもう無い。
有無を言わさぬ迫力もあった。

「な、なんだ……と…………」

クラディールはわなわなと身体を震わせる。
はっきりと突き放す言葉を言われ、もう何も言えなくなってしまったのだ。
ただ、口元だけは僅かに動いている。


恐らくは百通りの呪詛であろう言葉を口の中でブツブツと呟きながら、キリト達を見据えた。
予備の武器を装備しなおし犯罪防止コードに阻まれるのを承知の上で切りかかる事を考えているに違いない。

だが、クラディールは辛うじて自制すると、マントの内側から転移結晶を摑み出した。

それを握力で砕かんばかりに握り締めたそれを掲げ、「転移、グランザム」と呟き、その場から姿を消した。















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
















カームデットに到着したフローラの眼前で最初に映ったのは、何人かの人だかりだった。ただし、もう祭り事は終わったかのように人々は散っていき、人の小さな集まりはすぐさま霧散していった。

「フローラ、遅かったな」

転移した彼女に気付いたキリトが声を掛ける。少し離れてシャオンとアスナもいるのだが、どこか様子がおかしくみえた。

「みんなが早いんだよ〜。待ち合わせの時間までまだ余裕なのに」

「そういう意味じゃなくて、もうちょい早ければ面白いものが観れたのに、って意味だよ」

「面白いもの?」

「シャオンがアスナの護衛とデュエルしてたんだ」

護衛とはつまり、両手剣使いのクラディールだ。

ギルドの中ではまだ新しいメンバーに分類されるが、最強ギルドに所属できるぐらいなので、レベルも実力も申し分ない。

「なんでシャオン君とその人が?」

「そいつが『アスナの護衛』っていう名目で朝から家の前にいたんだ。シャオンがそれに怒って、たった今シャオンがデュエルに勝って追っ払ったんだ」

「い、家まで? 朝から?

うわ…………」

フローラは思わず身震いし、鳥肌が立った。

護衛といっても、家まで押し掛けるのは任務の範囲に含まれていない。血盟騎士団の護衛任務に変質者的側面は一切なく、それはあくまでクラディール個人が行った行為だ。

「それはちょっと……」

「俺やシャオンもビックリした」

「ア、アスナは大丈夫?」

フローラはアスナに呼び掛ける。

「うん。大丈夫」

「一応ヒースクリフに報告した方がいいんじゃない?」

「えぇ。それとデュエルの件も含めて報告するつもり。ごめんね、余計な心配かけて」

「ううん、気にしなくていいよ」

少し疲れた様子のアスナだったが、いつもの調子に戻ったようだ。同じギルドの団員を前にしていたというのもあり、気を張っていたのかもしれない。

「さて! それじゃあシャオン君、今日は息抜きさせてもらうわね。フォワードよろしく!」

「は!?」

ギョッとするシャオンをよそに、アスナは彼の肩を軽く叩いた。

「それじゃあ、今日は男の子二人に頑張ってもらおう〜!」

「フローラまで?!」

「こいつのせいで俺巻き添え喰らったんだけど」

「キリト、すまん……」

「明日は私達がやってあげるから!」

「ねー?」

「「えぇ~~!?」」

男二人の叫びは届かず、アスナとフローラは肩を並べて迷宮区へと歩き出した。
















Story8-4 END 
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