ひねくれヒーロー
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考えるな、感じろ
考えるな、感じろ
—燃えよ、ドラゴン—
広い野原、そよぐ風
自来也が真剣に見守る中、チャクラを練り上げ印を結ぶ
ゴクリ、自来也から大きく聞こえるほどの静けさ
大丈夫、俺なら出来る、そう何度も繰り返して臨む
「分身の術!」
薄い煙が立ちあがり、もう一人の俺が出現する————成功だ!
「やった、成功だーーーっ!
半年、半年かけて成功した分身の術!」
何故だか俺の分身は血を吐いていたがそんなの気にしない、俺も今吐血している
ようやくまともに出来た忍術、たかが初級忍術と侮ることなかれ
俺の努力が実ったんだ
分身体を消して自来也のほうへ振り返ると、泣いていた
・・・やだこわい
「・・・チャクラを練り上げるたびに、穴という穴から血を噴出しとったお前さんが・・・
ようやく・・・ようやくっ・・・」
自来也は目元を手で蔽い隠し男泣き
目元の隈取りが落ちかかっている
そんなに泣かなくても良いと思うんだがなぁ
「そんなこともあったね」
思わず遠い目で空を仰ぐ
自分自身のチャクラだけでは血を噴出してしまい、印すら組めなかったがパルコのチャクラと合わせることにより忍術の使用が実現した
リハビリも大体終わり、狐火のコントロールを覚え、次の段階へと移行した修行の初日
1週間意識不明の重体に陥ったのがもはや懐かしい思い出だ
「本当に良くやった!
・・・それでは、約束通り・・・褒美を渡そうかのぉ」
涙を乱暴に拭き取り、懐から何かの書類を取り出す
その中から1枚、それとペンを俺に渡す
えーと、何々?木の葉アカデミー編入者の氏名を記入・・・あぁ名前を書くのねって
「アカデミー!?しかも木の葉!?」
「分身の術はアカデミーレベルでは上級忍術に位置する
半分だけだが自分のチャクラも練れるようになった今のお前なら、入学いや編入させて大丈夫だと思ってな」
「俺が・・・アカデミーに・・・でも、俺勉強あんまりしてない・・・」
不安で胸が締め付けられる
そんな心配性な俺に自来也は笑い飛ばして見せる
「今までの修行で基礎は教え込んであるし、ワシの小説の誤字訂正まで出来るんだしの
アカデミー位なら大丈夫!」
頭を撫でられる
久しぶりの感覚に微かに顔が赤くなるのを感じた
懐かしい、前世の親にはこんな風にされたことなかった
思わず涙があふれ出す
「・・・自来也、その、いつもエロジジイだの変態だのどうしようもない覗き魔だのと思ってたけど・・・」
涙声になっているのが自分でもよくわかって、段々と声が小さくなってしまう
「・・・お前のぉ・・・」
少し傷ついたように肩を落とし屈んだジジイ
これだけは言わなくてはと、耳元で呟く
「あのさ・・・先生、ありがと」
本当に、ありがとう
素直に感謝したのは何年振りだろうか
神殿時代は感謝なんて形式だけだし、パルコなんか論外だった
もしかしたら転生して初めての|ありがとう《・・・・・》かもしれない
「わはははっ!お前から感謝されるなんて久しぶりだの!
さぁさ、早く書類に記入せい」
「わかってるよ!」
鞄から厚めの本を取り出して(イチャパラに非ず)下敷き代わりに使う
生年月日は10月10日で血液型はB、性別は男
ん?好きなものとかも書くのか、何に使うんだろう
好きなものは・・・うーん雑炊かな、嫌いなのは油っこいもの
前世は中華そばが好きだったんだけどな、今はラーメンとか食べると胃が死ねるね
好きな言葉は・・・「考えるな、感じろ」・・・燃えよドラゴンだったっけな
鼻歌交じりにさらさらと書きあげて行き、やがて筆が止まる
・・・どう、しよっか
「・・・何故、名前を記入せんのだ?」
訝しげに首を傾ける
そういえば、今まで名乗りすらしなかったな
「うーん、なんていうか名前、ないからねー」
後日、名前がない発言に心底胸が痛んだと語られた
神殿 チカとかどうだろうか
いや女っぽいな、うーん月野 ミコ、駄目だ女性名だ
そういや里長の名前、最初笑ったわーなんだよ|月影 乃斗《つきかげ ないと》って名前
某美少女戦士のアニメ版にそんなのいたよな月影のナイト様ーって言われてるやつ
前世の名前は使いたくないしな—、なんか踏ん切りつかないし・・・
この世界で俺を表現できるのは・・・神殿?地下?巫子?九尾?
九尾、パルコか
俺がこんな体になった原因、恨んでも、妬んでも足りない奴
・・・うらみ、ねたみ・・・
「自来也、俺のこと今日からコンって呼べ」
さらさらと書きあげ、書類を突き付ける
「・・・コン?」
目をまん丸にして問いかけられた
自信満々に笑って答えてやる
「そ、俺は今日から、ねたみ コンだ!」
胸を張り、宣言する
そうだ、俺はねたみ コンになるんだ
人柱力でも、地下神殿の巫子でもない、ただの忍者見習いのコンになるんだ!
名前があるということは胸が温かくなる
何処となく腹部も熱を持ち、思わず腹を撫でおろす
「どっから出てきた?」
「嫉妬に怨恨」
笑ったつもりだったけれど、うまく笑えていただろうか
「・・・(狐だからかと思った)」
「・・・(安直すぎるな俺)」
急に静まり返った2人の間に暖かい風が吹き抜けた
何処からか——風に乗って声が聞こえた
——おめでとう、コン——
甲高い狐の一鳴きが、あたかも人間の言葉のように聞こえたのは気のせいだったのかな
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