魔法少女リリカルなのは~とある4人の転生者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第11話 聖人来る
「ということがあった」
「ふ~ん、そんなことがねぇ…あ、これが件の?」
「そうだ。これが聖痕」
あの事件の翌日、学校の休みの一日を利用して庵治戸まで来ている。聖痕がどういったものなのか俺は生憎と把握できていない。なのでハルに頼んで検査してもらうことにしたのだ。
「じゃあとりあえず調べてみるからそこで横になって」
とハルが指した検査用のベッドに横になる。それと同時にベッドごと動いてスキャナーらしきものに通される。
「どうだ?」
「…わかんない」
「へ?」
「…時間をかけて調べれば多分いくらかは分かるんだけど。サクヤもこの後用事があるみたいだし今はなんとも」
「そうか」
もっと詳しく調べたいところだが…この後の用事も重要だしな。
「ごめん」
「いや、いいさ。また今度ゆっくり調べればいいことだし」
「まあ、しばらくはそんなにゆっくり出来そうもないけどね」
「だな」
かく言うこの後の予定もその一つである。それは…
………
……
…
「ごめんください」
とある家の門の前に俺はちぃさんに連れられてきていた。しばらくするとその門が開き30くらいの男性と共に見知った顔が俺達を出迎えてくれた。
「こんにちは、サクヤ君」
「どーも、昨日ぶりだなトウカ」
トウカも俺の話は聞き及んでいるようで、心配そうにしている。大丈夫だと笑って返すと、男性のほうに向き直る。
「お久しぶりですね元治さん」
「直接会うのは3年ぶりだったね千秋君。うわさを聞く限りお転婆なところはまったく変わっていないようだ」
やはりというか、なんというかちぃさんはトウカのお父さんと知り合いらしい。話を聞く限りずいぶん前からの知り合いのようだ。と思っているとトウカのお父さんが俺に目を向ける。
「君が東堂朔也君だね。娘から話は聞いているよ。私は神崎家現当主、神崎元治だ」
「こんにちは。トウカにはいつもお世話になっています。それと今日は自分のために時間を割いていただきありがとうございます」
「別に気にすることはないよ。この町の人の問題は私の問題でもあるからね」
俺が頭を下げると、気にしないでいいと笑って返した後、「しかし…」と呟いて俺のことを見てくる。
「千春君によく似ているね君は。尤も目はお父様譲りのようだが」
「そうでしょうか?」
子として親に似ていると言われるのもまんざら悪い気はしない。
「そうだよ。さて、立ち話もなんだ。中に入ってくれ」
元治さんが背を向けて着いてくるようにと示す。
「お邪魔します…?」
中に入ろうと門をくぐった瞬間、空気が変わったような気がして辺りを見回す。
「あ、サクヤ君大丈夫?」
トウカが俺の様子に気がついたのか尋ねてきたので疑問を口にしてみる。
「問題ない。ただ空気が変わったような気がして…」
「それは結界だよ」
「結界?」
「そう。家は異形が入ってこないように鬼祓いの結界を張ってあるの。多分サクヤ君の感じた違和感もそれだと思うよ」
「なるほど。さすがは退魔師の家ってところか」
「ふふ、それほどでもないですよ」
と雑談を交わしていたら目的の部屋に着いたようで通される。そこには神崎家の人であろう方々がいた。
「まあ、座ってください」
「失礼します」
と、机をはさんで神咲家とは逆側にちぃさんと並んで座る。
「元気そうで何よりね。薫、那美ちゃん」
「ええ、この間はご迷惑をおかけしましたがこの通り感知しました」
「とは言っても、お医者さんからは激しい運動はまだ止められてるんですけどね」
先に待っていた二人にちぃさんが声をかけた。二人とも知り合いのようだ。
「薫、那美。積もる話もあるだろうが、まずは本題に入ってしまおう」
「「はい」」
お姉さん方も談笑をやめて真面目な顔つきになる。
「今一度確認するが千秋君、彼…朔也君が聖痕をその身に宿したと言うのは事実かな?」
「ええ。朔也」
「はい」
あまり見せるのは好きではないが、仕方がない。胸に刻まれた聖痕を見せると全員が息を呑んだ。もういいかと視線でちぃさんに問いかけると首肯が帰ってきたので再び服の中にしまう。
「事実のようだな。この件は既に教会の連中に伝わっているのだろう?」
「ええ、その通りです。聖痕を宿した事件にはレオンハルト特務審問官もおりましたので」
「そうか。まあ、あの男は教会連中の中でも比較的まともな部類だ。人でなしの代行者が出張ってこない分まだマシだろう」
「彼の話では教皇にも強引に引き込む意志はないとのことですが、それよりも問題なのは」
「『星辰の七王(アストラル・セブンス)』か」
ため息混じりに元治さんが彼らの名をはく。
「今のところは動きは見えませんが事が露見するのは時間の問題だと思います」
「それはつまり遠くない未来、この海鳴に七王やその眷属たちがやってくるということか。比較的穏健な『剣姫』ならまだいいが…」
「『炎帝』や『戦王』が出張ってくることは考えたくないですね。特に『戦王』が来訪したらこの町はひとたまりもない」
どんどん空気が悪いほうへと向かって行ってる気がする。それほどまでに状況は悪いのか。
「尤も王自ら出てくることは早々ないだろうが、眷属の幹部が出張ってくる可能性はあるだろうな」
「そうなった場合応戦することになりそうですけど…」
「でも、最近は七王のうちの『女王』が『道化師』と小競り合いを起こしているって聞きましたが」
「ええ、その通りよ薫。現在ロシアで『女王』の配下と『道化師』の配下が戦争中。多分その二つの軍勢のほうはしばらく動かないと思うけど…」
あくまでも希望的観測なのかちぃさんの言葉はあまり歯切れがよくない。
「やはりどこかが手を出してくることに変わりはない、ということか」
「ええ。厄介なことになるかもしれません」
「なに、元々この土地はそういう(・・・・)所だ。今更だよ」
「…わかりました」
ちぃさんはまだ何か言いたそうだったが元治さんが目でこの話はもうここまでだと語っていたようで素直に引き下がった。
その後、しばらく談笑をしてその場はお開きになった。
~翌日~
神咲家における非公式会談の翌日、一日休日をはさんで学校のある平日。
「いってらっしゃい、朔也」
「じゃあ、行ってきま…す?」
学校に行こうと思って扉を開けたら、
「ああ、ここですね兄さん。案内ご苦労様です」
「すまない。俺にはコイツを止められなかったよ」
銀髪の男女がいた。男の方はは見知った人物でこの間の件で一緒だった神父それに加えて10代前半くらいの銀髪の少女だった。
「って、どうしたんですかレオ神父!?」
一番問題だったのは男のほう、レオ神父がぐるぐる巻きに縛られていることだった。
「それは「ややこしくなるので兄さんは黙っていてください」フゴォ!」
「や、あんたの行動が一番ややこしくしとるわ!」
銀髪の俺よりいくらか年上の少女に蹴り飛ばされて悶絶する神父…不憫だ。
「ああ、アナタが。どうも私教会所属の聖人(・・)マリア・ブロウニングと申します。この度死にぞこないのジジ、いえ教皇をおどしてペーパー未満ド素人以下聖人のあなたの護衛兼調教に参りました」
「はぁ?」
「言葉も分からないんですか?いえ、それくらいは許してあげましょう。私は寛容ですからね。そもそも犬に言語の理解を期待してませんでしたから」
という言葉と心底馬鹿にしたような少女…マリアの態度に、
「こ、コイツ…」
めちゃくちゃ神経を逆なでられてキレる寸前まで来ていた。
「あら、情けない。この程度我慢できないのですか?ああやはり犬なだけはありますね」
「(ピクピク)」
「いかん、朔也。コイツの言葉に耳を貸すな…」
「お黙りなさい」
「フゴ!」
またしてもシスターに撃沈される神父。憐れな。
「で、なんの用だよ一体?」
「驚きました」
と言って本当に驚いたような顔をするマリア。
「なにが?」
「犬だと思っていたら鳥だったんですね。これには私もビックリしました。褒めてあげます。よしよし」
「鳥頭って言いたいんですかねぇ!?」
またしても、マリアが驚いたような顔を…
「って、もういいわ!!いつまでやるんだよ!」
「うるさい犬ですね。よく吼える犬はしつけがなっていない証拠。駄犬という称号を差し上げましょう。謹んで受け取るといいでしょう」
「素だったんだ!?」
もともとこういう人だったのかよ!
「こいつはこういう奴だ…」
「それよりも、早く行きますよ」
「いや、俺学校だから!」
といって横を通り抜け…アレ?体が動かない!?まさか…
「フィッシュ。ふふふ、逃げられるとでも?」
振り返ると何も持っていない手で『何か』を手繰り寄せるようにしている笑みを浮かべるマリア。
「あの、だから学校が…」
「安心なさい」
と、マリアが懐から紙切れを出してくる。なになに、休学許可証…
「…」
「きちんと学校には休学届けを出しておきました。これで2年間ほど修行に費やせます」
「…」
「ああ、ご安心を。勉強の方もわたしがきっちり教えて差し上げますので。マンツーマンです。嬉しいでしょう」
「うそだろ…」
【東堂朔也:海外留学により『休学』】
「というわけで行きますよ」
「オイ!?」
「返事を聞いたところで変わらないので無駄な努力をする必要はありませんよ駄犬」
「イヤ、人の話を聞けぇええええええええ!」
この後東堂朔也が再び海鳴の地を踏むのは2年のときが過ぎ去った後だった。
なお、出立から帰還までの彼の旅程を知る者は誰もいなかったという。
ページ上へ戻る