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戦国異伝

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第百九十四話 長篠城の奮戦その八

「その時は」
「任せたぞ」
 軍勢も、そして家もというのだ。
「もっともわしは死ぬつもりはないがな」
「はい、御館様は戦の場で死なれることはありませぬ」
 このことを言ったのは四男の勝頼である、今は諏訪家を継いでいる。
「決して」
「そう言うか」
「はい、何があろうとも」
「御主達がおるからな、それに」
「それにとは」
「わしは後詰にもう一人置くつもりじゃ」
 信玄自身以外にも、というのだ。
「それはな」
「はい、それは」
「幸村、頼むぞ」
 ここでも幸村に声をかけたのだった。
「御主にも務めてもらう」
「その時はですか」
「わしと御主なら大丈夫じゃ」
「そう言って頂けますか」
「御主は攻めても守ってもよい」
 そのどちらもだ、最高のものがあるというのだ。
「それ故にな」
「後詰もですな」
「その時も御主に頼むぞ」
「有り難きお言葉、それでは」
 幸村は感銘の言葉でだ、信玄に応えた。
「必ずです」
「やってくれるな」
「はい、神仏に誓って」
 これが幸村の返事だった。
「そうさせて頂きます」
「それではな、では今宵はじゃ」
 信玄は飯を食ってから言った。
「寝ようぞ」
「よく寝て、ですな」
「そのうえで」
「織田の戦は早い」
 朝早くからだ、行われるというのだ。
「だからな」
「今のうちに、ですな」
「眠りに入り」
「明日の朝は早い」
 それで、というのだ。
「今から寝て戦に入るぞ」
「朝飯もですな」
「それも食う、干飯をな」
 それを食って、というのだ。
「朝はな」
「そうしてですな」
「腹を膨らませたうえで」
「戦じゃ」
 それだった、やはり。
「そして夜は酒を出すぞ」
「祝いに、ですな」
「勝ちの」
「茶も用意するのじゃ」
 これもだというのだ。
「織田信長の為にな」
「そういえば織田信長は茶を飲みませんでしたな」
 内藤がにやりと笑って信玄に言って来た。
「ですから茶を愛していると」
「そうじゃ、だからな」
「茶もですな」
「その様じゃな」
「だからですな」
「あの者には茶じゃ」
 酒ではなく、というのだ。
「それを用意するぞ」
「さすれば」
「ではこれより少しな」
 信玄はここまで話してだ、あらためて家臣達に言った。 
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