戦国異伝
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第百九十四話 長篠城の奮戦その六
「柵で突っ込むことを防ぎ」
「そして、ですか」
「そのうえで」
「鉄砲じゃ」
これを使うというのだ。
「これまでの戦以上にな」
「しかし殿」
森長可が驚きを隠せない顔で信長に言って来た。
「二十万の兵に四万の鉄砲は」
「これまでにない多さじゃな」
「ここまで多いとは」
「しかしそれだけ集めてもな」
「武田相手にはですか」
「それだけでは勝てぬ」
二十万の兵と四万の鉄砲だけでは、というのだ。
「そして今柵を築いておるがな」
「この柵だけでもですか」
「勝てませぬか」
「うむ、勝てぬ」
到底というのだ。
「だからもう一つ策がある」
「策が、ですか」
「見れおれ、その策も使ってじゃ」
二十万の兵と四万の鉄砲、そして柵に加えてというのだ。
「必ずな」
「勝ちますか」
「全てを使って武田を倒すのじゃ」
「左様ですか」
「では待つぞ」
信長は川岸に沿って築かれていく柵の中からその川の向こう側を見据えながらそこから来るであろう武田の軍勢を見据えていた。
「これよりな」
「はい、では」
「明日ですな」
「そうじゃな、武田は明日来る」
「誘き出すことも考えましたが」
竹中が言って来た。
「後ろの城を狙うなりして」
「そうじゃな、しかしな」
「武田は自ら来ております」
「自ら兵を率いてな」
そして、というのだ。
「我等と戦うつもりじゃ」
「左様ですな」
「その通りじゃ、ではな」
「武田とここで最後の戦ですか」
「まずは武田じゃ」
やはりまだ来ぬ武田の軍勢を見据えて言う信長だった。
「そして武田信玄を倒し」
「そのうえで」
「武田信玄か、面白い男じゃ」
信長もだ、相手のことを考えてにやりと笑った。
そしてだ、こうも言うのだった。
「わしの片腕としようぞ」
「殿の、ですな」
「天下を治める為の」
「あの男と上杉謙信じゃ」
彼もというのだ。
「二人共死なせるにはあまりにも惜しい」
「それ故に」
「死なせずに」
「生きてこそ華がある」
この言葉も出して言う信長だった。
「それでじゃ」
「是非、ですな」
「あの男もまた」
「わしの家臣とする」
絶対に、というのだ。
「武田の家一つをな」
「毛利と同じく」
「そうされますか」
「そうじゃ、そうするのじゃ」
信長の考えはこうだった、そうしたことを言って。
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