戦国異伝
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第百九十四話 長篠城の奮戦その二
「そしてじゃ、他の者達はな」
「殿と共にですな」
「織田家を」
「そういうことじゃ、ではよいな」
こう言ってだ、馬場は攻めることは諦めてだった。
城を囲んだままにしておくことにした、奥平は城の外の彼等を見てこう言った。
「攻めるのを止めたか」
「どういうつもりでしょうか」
「これは一体」
「うむ、ここはな」
奥平はここでも兵達に話した。
「次の戦に備えておるのじゃ」
「次といいますと」
「やはり」
「殿が率いておられる軍勢とですか」
「戦う為に」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「ここはな」
「ううむ、では」
「殿と武田信玄がですか」
「再び」
「そうなる」
まさにというのだ、家康と信玄が直接干戈を交えることになるというのだ。先の三方ヶ原の時の様にである。
「しかしな、今度はな」
「殿もですな」
「敗れませぬな」
「殿は今度は勝たれる」
そうなるというのだ。
「間違いなくな」
「そうですな、殿は二度同じ過ちは犯されませぬ」
「それ故にですな」
「武田も倒し」
「そのうえで」
「そうだ、そしてだ」
そのうえで、というのだ。
「我等は生き残ることが出来るのじゃ」
「ようやく武田という重しをですか」
「我等は感じずに済むようになりますか」
「これまで常に怯えてきましたが」
「それが」
「戦に勝ちな」
そして、というのだ。
「そうして後は楽になる」
「畏まりました、それでは」
「その為にも」
「我等が生き残る為にも」
まさにその為にであった。
「若しまた敵が来たならば」
「戦いましょう」
「そして耐えきりましょうぞ」
「ではな」
奥平もまだ油断していなかった、攻めは終わったとはいえ敵がまだ城を厚く囲んでいるからだ。そうしてだった。
馬場の挑発にも乗らず籠城を続けた、そして。
ある時だ、馬場は城の者達に対してこんなことも言って来た。
「降れ!もう来ぬわ!」
「何が来ぬのじゃ!」
すぐにだ、奥平が彼に問い返した。
城の正門の傍の櫓の上からだ、馬場に対して言い返した言葉だ。
「殿は間も無く来られる!」
「その徳川殿が来られぬのじゃ」
馬場は奥平を見据えて告げた。
「ここにな」
「何故そう言える」
「決まっておる、敗れるからじゃ」
それ故にというのだ。
「我等にな」
「武田の軍勢にか」
「我等が殿には誰も勝てぬ」
信玄、彼にというのだ。
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