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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-3 転機の連続
  Story3-12 生きた証

シャオンside


モミの巨木はワープの先、ねじくれた姿で静かに……圧倒的な存在感を放ちつつ立っていた。


他に樹の殆ど無い四角エリアは……積もった雪で真っ白に輝き、全ての生命が死に絶えていた平原に見えた。

そして……視界の端の時計が零時になると同時に……何処からともなく鈴の音が響いてきて、その音に誘われるように梢の天辺を見上げた。


漆黒の夜空、光が伸びていた。


それはよくよく眺めて見ると奇怪な姿をしたモンスターに引かれた巨大なソリらしい。

「今までで一番最悪なサンタクロースだな?」

強く柄を握る。

「……耳障りだな」

キリトも同様だった。



その奇怪な姿をしたモンスターは、サンタを思わせる巨大なソリから飛び降りてきた。


ズズン!!




盛大に雪を蹴散らして着地したのは背丈がゆうに3倍はあろうかと言う怪物だった。

その姿は顔の下半分からは捻じれた灰色のひげが長く伸び、下腹部にまで到達している。

サンタを思わせる成り立ちだが、あまりに醜悪に修正されていた。



「悪いが………用事があるのは、お前にじゃない」

「ああ……さっさと出してもらうぞ!」






闇夜の白い世界に写る、黒と蒼……クエスト開始を待たず、まるで特攻するように走り出した。














◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
















俺の知る限り……一番の激戦だった。

確かに、年一のBossと言っただけのことはある。

何回も変わった攻撃パターンを俺の速さで避け、キリトに見せる。

キリトは正確な攻撃でBossを攻撃していく。




多分全プレイヤー中最高の始動速度を持つ俺と、全プレイヤー中最高の反応速度を持つキリト。


かなり……ダメージは受けたが、討伐には成功した。








お目当てのアイテムはキリトにドロップしたようだ。

拍子抜けするほどあっけなく現れた。


≪還魂の聖晶石≫と言う名だった。

「キリト……」

キリトはその宝石をワンクリック。

ポップアップメニューからヘルプを選択し、解説を読む。


「テツオ……ササマル……ダッカー……サチ……ケイタ……」




キリトは呟く。

呟いたのは、多分…………失ってしまった嘗ての仲間の名だろう。



次の瞬間……

キリトの表情に絶望が写された。





俺は、馴染んだフォントで簡素な解説が記されているその画面を凝視した。

「後から付けたな……これ」


『このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して〈蘇生:プレイヤー名〉と発生する事で、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ10秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生することができます』


『およそ10秒間』と言う一文。


アバターが四散してからナーヴギアがマイクロウェーブを発して生身のプレイヤーの脳を破壊するまでの時間だろう。


「…………茅場……晶彦……」

人の感情を弄んで…………お前はそれを『ゲーム』だと割りきる。

ふざけるな…………ふざけるなよ……!

「絶対に俺の剣で斬ってやる」

ピコーン

俺のメニュー欄のスキル欄にnewの文字があった。


その名前は……『神速剣』熟練度がすでに少しあった。

キリトの援護をしたとき……見知らぬ感覚を覚えたのは……知らず知らずのうちにソードスキルを使っていたのだろう。


俺の…………三つ目のユニークスキル。









そこでキリトの方を見る。

ふらふらしていた。


「キリト…………」

「シャオン…………俺は死にたいよ…………」

「…………」

「いっそのこと…………俺が生きていなければ…………」




「本当にそう…………思うのか?」

「?」

「『生きていなければ』『死にたいよ』

そんなのお前が逃げてるだけだろ」


キリトはそこで俺の胸ぐらをつかんだ。

「何も知らずに…………!!」

「ああ、知らないよ、何も。

お前がどれだけの絶望を味わったかなんて、俺は知らない。でも…………死んだやつにとらわれて前も向けないんじゃあ……そんなのお門違いだ」

「誰が前を向いてない……だ…………死んだやつにとらわれている……だ…………何も分からないお前がつべこべ言うな!!」

「分からなきゃ言っちゃいけねぇのか!


お前は逃げてるだけだ! 死んだっていう事実から!

お前が死なせたその事実は! これから先もずっと変わらない!

けど! その事実を記した過去の意味は、お前自身にしか変えられないんだよ!

そんなに死んだやつのことを思うんなら! お前が生きて! そいつらの『生きた証』をお前の記憶に残せよ!

それだけの責任も持てないなら…………話は別だがな」

キリトを俺から引き剥がす。

「帰るぞ」

「………………」

キリトは、頷くと……共にその場を離れた。
















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
















そして……クラインたちのいる場所へと戻った。

森の中に、聖竜連合のメンバーはおらず……クラインたち風林火山のみだった。

そのリーダークラインのみがHPを俺達に劣らずほどに減っている様に見えた。

かなり、疲弊もしているようだ。



きっと…………仲間を背負い、1対1のデュエルで決着をつけたんだな。


クラインは、俺たちの帰還に……心底ほっとしたように一瞬顔を緩めていたが……

キリトの表情を見たんだろう…………直ぐに口元をこわばらせた。

「おまえら………」

割れたような声で囁く。

キリトは、クラインの膝の上に聖晶石を放った。

「……それが蘇生アイテムだ。過去に死んだ奴には使えなかった。次にお前の目の前で死んだ奴に使ってやってくれ」

まるで、1人で決めているかのような口ぶりだが……

「お前が…………助けられる奴を、助けてくれよ」


クラインはこらえ切れなかったようだ。

希望が打ち砕かれた…………キリトがそんな表情をしているのだ。




「ッ……お前ら……絶対……絶対生きろよ……!最後まで……生きてくれェェ……ッ!」




泣きながら何度も生きろと繰り返すクライン。

膝から崩れ落ち……その場で繰り返す。





今の俺ら…………少なくともキリトにはクラインのことを考える余裕はなかった。



俺らはそのまま、街へと戻っていった。















Story3-12 END 
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