炎王龍異聞
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プロローグ
緊急クエスト発行【炎王龍テオ・テスカトルを討伐せよ】
ハンターギルドは長年、炎龍山を棲家としてきた炎王龍テオ・テスカトルの討伐を決断する。
派遣されたのは4名のG級ハンターだ。
いずれも猛者揃いであり、ギルドは必勝の確信を持って彼らを送り出した。
戦いは苛烈を極める。
鉄をすら融解させる高温の爆炎が戦場を焼き尽くし
深紅の粉塵が舞うやいなや、引き起こされる爆撃
強靭な四肢をもっての破壊的な突進
怒りを乗せた咆哮は歴戦のハンター達ですら死を覚悟せざるを得ない威圧を内包していた
だが対するG級ハンター達とて並みの戦士ではない。
G級とは選ばれたものにのみ与えられる称号だ。
数多のモンスターを屠り、幾度もの死線を乗り越えた者だけがG級を名乗ることを許される。
≪波濤≫の二つ名を持つ妙齢の女性ハンターは、疾風の如き迅さで炎王龍の連撃をかいくぐり、薄く氷を纏う二刀を叩きつけた。その舞踏のような身のこなしから繰り出される連続攻撃は途切れることなく続き、寄せる波の如く次々に繰り出される斬撃は炎王龍の肉体を創傷で塗れさせる。
≪魔笛≫の二つ名を持つ筋骨逞しい壮年の男性は刺々しくも美しい狩猟笛を掲げ、戦場に勇ましい音色を響かせる。音色は力を持ち、波動となって戦場をおおいつくし、ハンター達の魂を奮い立たせた。
≪破断≫の二つ名を持つ見目爽やかな青年は、鈍色の剛剣に氷気を纏わせその全身に渾身の力を籠めた。やおら赤色の闘気が迸り、烈迫の気合いと共に魔剣ダオラ・ディグニダルを炎王龍の剛角に叩きつける。
降り下ろされた魔剣の軌跡は大気を凍てつかせ、砕氷諸共に王の冠を叩き砕いた。
≪弓聖≫は、見よ。彼女の放つ矢が纏ううねり狂う水流を。極限まで研ぎ澄まされた集中力により撃ちだされた其れは炎王龍が纏う龍炎を貫き、かの者の肉を抉り飛ばした。
戦いは次第にハンター達が支配していき、追い詰められる炎王龍。
4人のハンターはここで勝負を決すべく傷ついた王へと殺到する。
だがここで彼らは慢心したのだろうか?いや、違う。
炎王龍の決死の覚悟が、百戦錬磨の猛者共のそれを上回ったのだ。
刮目せよ、王が王たる所以を。
魂の咆哮と共に、炎王龍の傷ついた体が光に包まれていくではないか。
刹那起こる超新星の誕生の如き大爆発。
破壊を伴う光の奔流が渦を巻きハンター達を呑み込んでゆく。
≪波濤≫はそれをまともに受け、四肢が吹き飛ばされ、全身を超高熱の爆炎で炙られ一瞬の内にその命を落とした。
≪魔笛≫、≪破断≫もまた炎の洗礼を浴びる。
≪弓聖≫のみがその災禍を免れるが、彼女は共に死線を潜り抜けてきた仲間達のあまりの惨状に言葉を失う。
そして炎王龍は
最期の力を振り絞ったのだろう、もはやその命は尽きようとしていた。
彼は最期に自らを破った者達を一瞥し…ゆっくりとその体を大地へと横たえた。
戦いは終わったのだ。
≪ハンターギルド報告書≫
炎王龍との戦闘により、G級ハンターの1名が死亡、2名が意識不明、残る1人は命に別状はないものの、深く沈みこみ、この精神の傷を癒すためには長期の療養を必要とする。
なお、討伐された筈の炎王龍の死体は、後日ギルドが回収に向かうものの死体は何処にも無く、周辺を捜索するも原因は不明。
戦場と思われる場所には砕かれた炎王龍の剛角と尾が確認できたものの、体部分は発見できず。
引き続き捜索を継続する…
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炎王龍の死体は何処へ消えたのか?
それはギルドが、ハンター達の誰もが想像もしない場所であった。
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≪彼≫は死に瀕していた。
王の証たる剛角は無残にも砕かれ
一振りで堅牢な巨岩すら粉砕する強靭な尾は切り飛ばされ
王の紅とまで呼ばれた彼の見事な肉体は創傷に塗れ
――我はこのまま死ぬのか
――奴等は強かった
――ならば佳いだろう
――願わくば、生まれ変わる先でも
そこで≪彼≫の意識は途切れる。
薄れゆく意識の中、彼は死の最果てに光を見た。
炎王龍テオ・テスカトルはこの日を境に炎龍山より姿を消す。
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