魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第66話 最終決戦
前書き
こんにちはblueoceanです。
今回投稿する前に大体前の5話を流しですが読み直し、何点か修正しました。内容は特に変更ありませんが、またちょくちょく直しは入れていくとは思いますので何かとご了承下さい………
それと終わりが見えてきました。予定では70話で終われるかと思います。後少しになりますが、これからもよろしくお願いします!!
「さて、戦う前に色々と疑問があるだろうから答えてあげようか」
いざ戦闘と行こうとした直後にクレインがそんな事を言い出した。
「何のつもりだ?」
「そんなに警戒しなくて良い。私としても後は君を何とかすれば後は重傷の2人に止めを刺すだけだ。まあただの気まぐれさ」
「………」
そんなクレインの態度に俺は警戒を解けない。たしかに色々と聞きたいことはあるが、それ以上に何かを狙っているのが明らかだったからだ。
「さてどうする有栖零治?」
「………分かった、俺も何点か聞きたいことがある」
どっちのしても罠があるのなら必ず使ってくるだろう。だったらあえて話をしてみてクレインの様子を伺うのも悪くない。
『油断しちゃ駄目よ』
「分かってる」
エリスに念を押され、俺は口を開いた。
「先ず一つ目、クレインがわざわざこの部屋で呼び出して戦っていたのはこの部屋に仕掛けがあるからか?」
「その通りだよ」
「仕掛けって言うのはあの高威力の魔力の槍、そして加奈のフォースフィールド」
「大正解。槍の方は一応グレイブフォールと言うが、まあ2つともこの部屋でしか使えない技さ」
この部屋で………仮にそうだとしても何故使えたのか。どちらもかなりの魔力量を使うだろうし、何よりクレインは俺の時にフォースフィールド、桐谷の時にはグレイブフォールをかなり使っていた。とても奴にそれほどの魔力があるとは思えない。
「その顔で大体想像できる。何処にそんな魔力量があるとか疑問に思っているのだろう?確かにあれほどの攻撃を続けるのなら神崎大悟並みの魔力が必要だろう。因みに私は一応リンカーコアを持っているがC位だろうね」
「だったら………」
「君はもう勘付いているんじゃないかい?」
クレインに言われ、先程不思議に思っていた事を思い出した。ゆりかごの中で何故この部屋でAMFを使わないのか………?
「いやそうか、使わないんじゃない、使えないんだ!!」
「何をだい?」
「AMFだ!!この部屋全体に魔力があり、それを利用しているからAMFが使えない……違うか?」
「正解だよ有栖零治。一つ付け足すとするならば、この部屋の魔力は聖王の起動キーと一緒であり、それが停止すれば供給されていた魔力が止まる」
「と言うことは………」
「聖王を奪われ、更に私は槍と盾を失ったって訳さ」
そう苦笑いしながら困った様子で語るクレイン。正直胡散臭い。
だがその話が本当ならばバルトさんとなのはは無事、ヴィヴィオを助け出せたようだ。
『でも一旦動きが止まった後、確かに槍もフィールドも使ってなかったわ。加藤桐谷に止めを刺そうとした最後以外はね………』
ホムラの言う通り確かにいきなり戦闘方法を変えた。故に桐谷も警戒していた。
しかし使ってこない中優勢で一気に攻め、止めを刺そうとした瞬間に狙われた。大技である以上対応できない場合が多いが、桐谷の場合も例外では無い。
「あそこで避けられていれば私の負けだったね。本当に残念だ………」
この態度から見ても嘘を言っているようにしか見えない。だがわざわざ口に出して言う必要があるのかも謎だ。
言ったところで俺が信用するとはクレインも思っていないはずだ。
「一体何がしたいんだお前は………!!」
不思議な行動をするクレインにイライラが募ったのか、怒りを込めた口調になってしまった。
「言ったはずさ、私は興味のある事を試したい。このゆりかごでどれほどの世界が壊れていくのかをね。その為に必要な物は全て使う。犠牲もやむなしだ。科学には付き物だしね。………まあと言っても私の場合は全く気にしないんだが………」
「狂ってる………」
「だからこそ君達は私をマッドサイエンティストと呼ぶのだろう?」
何を言っても聞くわけがない。分かってはいたが実際に本人から聞くとクレインの好きにしてはならないと心から思う。
しかし何故だがその答えに疑問を抱いていた。
「もういい………最初から俺のやる事は同じだ。お前を倒し、この事件は終わりだ」
しかしそれは戦闘をする際には関係の無い事。
「いいよ、最後の勝負だ有栖零治………」
クレインは不敵な笑みを浮かべながらそう答えたのだった………
扉の前に鎮座する巨大なボールの様なブラックサレナ。その姿は仮であり、本当は翼を広げた時こそが本来の姿であった。
そしてその状態こそ、他のブラックサレナをも圧倒できる砲撃が発射された。実際ヴィータを追ってきたブラックサレナ達は全員を巻き込み破壊した。
「………マジかよ」
咄嗟の判断でグラーフアイゼンから手を離し、懸命に横っ飛びした事で間一髪難を逃れられたヴィータ。ただし、バリアジャケットのスカートの端は砲撃に晒され、消し炭になっていた。
「パンツ見えないよな………」
この状況下で的外れな事を言っているのは分かっているが、確認せざるおえなかった。
「さてと、どうするか………」
あの砲撃が連射出来るかどうかも分からない、更に発射までのスピードも同じだ。
「だけど突破口も見えた………あの中身が見えた時に攻撃すれば………!!」
ただし、既にツェアシュテールングスフォルムを発動させ、技を出す為に魔力もある程度込めてしまった。
疲労しているヴィータにとってもはや無駄に出来ない量であり、中枢部で使う分を考えればここで再度やり直すわけにもいかなかった。
(どうする………?)
暫くの間後ろから増援が来ることは無くなった事で多少ゆとりが持てるヴィータだったが、状況が進展したわけでは無い。
(2つ考えはある。このままツェアシュテールングスハンマーで翼ごと潰す方法………これで通れば一番良い。………私の一番威力ある攻撃だけど、果たして本当にあの防御から一撃で倒しきれるか………後は………)
もう1つの案を考え、身体が震えた。まさかに諸刃の剣とも言える案で肉を切らせて骨を断つ戦法だった。
覚悟はしていたが、あの砲撃があるとなると躊躇してしまう自分が居た。
「だけどそれしかないか………」
念には念を入れておかなければもし、失敗すればこの戦いに勝利は無い。追い込まれながらも決して諦めない顔でヴィータは覚悟を決めた。
「やってやる………!!」
ヴィータは再びレーザーで攻撃を始めた敵の攻撃をかいくぐりながらタイミングを計る。
(あの翼が広がるまで耐えないと………)
ヴィータの考えはこうだ。
翼を開いた瞬間、相手の砲撃よりも早く、ツェアシュテールングスハンマーで攻撃する。単純でありながら強固な翼が無い無防備な状態の敵に一番効果的な攻撃だった。
だが、相手の砲撃がどの程度のスピードで発射されるのかが問題だった。先ほどはツェアシュテールングスフォルムを展開しきったと同時に翼が展開され、直ぐに発射された。そうなるとそのままにしてあるグラーフアイゼンを掴み、開いたと同時に攻撃に移らなければならない。かなり難しいタイミングだ。
(まさにコンマ数秒の勝負………!!)
だけどやるしかなかった。これしかもうヴィータには残されていない。
「さあ早く砲撃を撃って来な!!」
煽りながら攻撃を懸命に避ける。デバイスも無いため、受ける際はバリアジャケットの甲冑頼りになってしまう。
「ぐっ!?」
レーザーが背中に直撃し、声が漏れるが、それでも動きを止めずに避け続ける。
「まだか………?」
そう呟きながら相手の様子を伺う。………と言っても相手がどのタイミングでチャージが完了したかなどヴィータに分かるはずも無く、完全に感頼りだ。
「当たるか!!!」
そんな中でも決して諦めなかった。
そして………
(!?敵の攻撃が弱く………誘ってるな)
明らかに先ほどまでとは攻撃の頻度が落ちていた。
直ぐには攻撃には移らず、わざと隙を作っている様にヴィータは思えた。
(だけどこっちにとっても好都合だ!!)
ヴィータの行動は早かった。餌に食いついた魚の様に真っ直ぐグラーフアイゼンへと向かう。
それと同時に相手の翼が動いた。
(やっぱり!!)
相手の行動が読め、ヴィータも急ぐ。
グラーフアイゼンを掴むと同時に翼は大きく開いた。
「勝負!!!」
後はどちらが速いか。
「ツェアシュテールングスハンマー!!」
「………!!」
カートリッジの薬莢飛び出た後、互いの攻撃が相手へと向かって行った………
「エリス、アーベント」
『分かったわ零治』
戦闘を始めるにあたって、俺はラグナルフォームからアーベントに変わった。
クレインの言う事は信じられないが行動に変化があったのは事実であり、ならば試してみようと考えた結果でのアーベントである。
「!?なるほど………確かに攻撃が通らないと分かってすぐに変えていたね」
「お前の言う事は全く信用出来ないからな。試させてもらうぜ!!」
手に持ったパルチザンランチャーで牽制の意味も込めてBモードを連射した。
「おっと!!」
最初こそステップで避けていたクレインだが、避け切れないと分かった瞬間、盾を展開し、防御しながら攻撃を避けていた。
「こんなものかい?」
「まだまだ!!」
防御に徹するクレインを攻撃に移れないようにクレインの周りを回るように魔力弾を飛ばすBモードと砲撃を繰り出すEモードを繰り返し連射し続けた。
「ぬうっ………」
これにはクレインも回避を止め、身体全体を覆うように盾を張った。
「いつまで耐えられるのかな?」
「?何故お前がそのセリフを言う!?」
「分からなければそれでいい。私としても気が付かれれば少々面倒だからね」
クレインの言葉の意図は分からないが、何か罠のような物がある事が分かった。
………しかしそんな簡単に口に出すだろうか?
『今は戦闘に集中した方がいいわよ、でないと加藤桐谷の二の舞になるわ』
「………ああ、分かってる」
ホムラの言う通りだ。クレインの考えはともかく、こっちが押していることは間違いない。フォースフィールドを使わず、自分で展開した盾を使っている所から見ても、使えないかはともかく、そうポンポン使えないのは確かな様だ。
「………よし、ここはフルドライブで一気にカタをつける!!」
『分かったわ零治!!』
「フルドライブ!!」
自身の魔力を一時的に全開で開放する。
「………?」
その時何か違和感の様なものを感じたが大した事は無いだろうと気にしないことにした。
パルチザンランチャーもブラスターに変わり、全身の赤いラインが青へと変化した。
「くっ………!!」
フルドライブしてる間にクレインは距離を詰めて、再び高速で連射されないようにと向かってきた。
「遅い!!」
しかしクレインが俺の元へと来る前に先程と同じくらいの距離を一気に取った。
『パルチザンブラスターEモード!!』
大きくなった銃身から繰り出される砲撃はランチャーの時よりも比べ物にならない程の魔力の密度を誇り、威力も数段アップしている。
「恐ろしいね…!!」
クレインは先程と同じ様に盾を展開して攻撃を防いだ。しかし先程とは違うのが、正面の攻撃を防ぐのに必死になっている事。
パルチザンブラスターの砲撃が優位にたっているのだが、それ以上に気になることがあった。
「フォースフィールドを使ってこない………」
『本当にもう使えないのかしら………?』
「だとしたらこのまま一気に………!?」
その時、俺の身体に電流が走った。
「なっ………!?」
いきなり身体全体が重く感じる。
『零治!?』
『どうしたの!?』
エリスとホムラが心配してくれるが、今度は頭痛も襲ってきて俺は思わず攻撃の途中なのに地面へ降りてしまった。
『大丈夫零治!?』
『しっかりして!!』
「ああ………何とか大丈夫だ………」
と返したが正直強がりだ。フルドライブを解いたがそれでも変わらない。
「やっと来たか………やれやれ、ここまで時間が掛かるとは思えなかったよ」
「何のことだ………?」
やっと頭痛も取れてきたが、未だに身体の重さ、そしてだるさが残っている。それも戦いに支障をきたしそうな程。
今は少しでも時間が欲しかった。正直気休め程度だろうがそれでもマシになることを信じて。
「君のその身体についてさ。まさか本来の身体の所有者では無いホムラがあんなに長く戦闘し、更に切り札であった神速の多様、これほどまで酷使していて全く支障は無いと思っていたのかい?」
「だ、だが俺の身体の負担は先輩のレアスキルの効果で………?」
「先輩のレアスキル?何の事を言っているのか分からないけど、急速回復こそ、最も身体に負担のかかる行為だよ?………要するに自身の治癒能力を強制的に上げている訳だからそれを何度もしてれば当然負担が増えていくさ。………まあ実際に調べた訳じゃ無いからハッキリと断言出来た訳じゃ無いけど間違いじゃ無かったみたいだね」
「それじゃあお前は俺がこうなるタイミングを待って………」
「そう、だから君を後回しにして加藤桐谷との戦闘を優先した」
零治自身自分の身体の影響を考えていなかった訳ではない。
実際神速について確認もしたし、ウォーレンの残してくれたスキルも万能では無いと思ってはいた。実際今まで戦えていたし、神速さえ控えていれば問題ないと思っていた。
「クソッタレ………!!」
ここに来て大きく追い込まれてしまった。
戦闘不能では無いが、アギトとユニゾンしておそらく何時もの50%程の動きしか出来ないだろう。その上大きい威力の技も使い所を考えなくてはならない。
「さて、これ以上回復させる義理もないし、さっさと終わらせてもらうよ」
「零治!!」
「アギト!!」
俺の様子を見てアギトが慌てて飛んできてくれた。
『ユニゾンイン!!』
アギトがユニゾンしてくれたおかげでまだ身体が重いがそれでも立ち上がって予想よりかはいつも通りに近い形で戦闘できるようになった。
アギトがいなければこの時点で終わっていた………
『これは!!零治どういう事だ!?』
「説明している余裕がない………悪いが付き合ってくれ………!!」
『わ、分かった』
戸惑いながらも返事をしたアギトを確認して俺は構える。
「ユニゾンして負担を減らしたか………だけどいつまで持つかな………?」
そう言いながらゆっくりと近づいてくるクレイン。
この状態では少しのダメージも命取りになる。いつも以上に慎重になってしまった。
………だからこそ、クレインにとって好機となってしまった。
「先ずはこれだ!!」
双銃を展開し、ひたすら魔力弾を飛ばしてくるクレイン。
「エリス!!」
『なんちゃってプロテクション!!』
その魔力弾1つ1つの威力は少ない。だが量で攻められ動きと止められてしまえば防御能力の低いこのフォームでは止めを刺されてしまうだろう。
だからこそ、俺はプロテクションを張りながら足を止めず動き続けた。
(くっ………!!)
やはり身体が重い………いつもよりも動かない身体は別の人間の身体を使っているのではないかと感じるほど、違和感を感じる。
(それとも一度身体から離れたからこそ、想定以上に感じているのか………?)
「何を考えているんだい?隙だらけだよ!!」
いつの間にか目の前に居たクレインから斧が振り下ろされた。
「くそっ………!?」
受け止めればその威力に身体は大きく揺さぶられるだろう。だったら………
「うおっ!?」
斧を刀で受け止めようとして、そのまま引きながら斧を自身から別の場所へと受け流した。
「受け流し………!!なるほど、確かにこれなら衝撃は緩和するから負担は少ないね!!」
「そう簡単にやられるか………」
とは言ったもののこの方法もそう何回も使えないだろう。今実際にやってみてそう感じた。
「今度はこっちから行かせてもらう!!魔神剣!!」
刀を振るいクレインに向かって衝撃波を発生させた。
「何だいこの攻撃は?」
向かってくる衝撃波の前に呆れた様子で斧を地面へ突き刺した。
ドドン!!と大きな音と共に地面にめり込む斧。その衝撃波と魔神剣の衝撃波が互いにぶつかり合い相殺されてしまった。
(威力は普段の60%程度………技もいつも通りって訳にはいかなそうだ………)
魔神剣が通用しない事は分かっていた。本来の目的は別にある。
(これは本当に追い込まれたな………)
今の状態で付け入る隙があるのなら戦闘経験が全くと言っていいほど無いクレインの隙を突くこと。そしてその上今の状態でダメージが与えられること。両方とも該当すればいくらでも勝つ算段はついた。
しかしその経験の無さを補うデータと瞬時に利用するクレイン。もはや熟練の相手と言ってもおかしくはない。
フォースフィールドが無くなり、防御の面では低下したのは確実そうだが、そのダメージを与えるまでいけるかも厳しい。
「それじゃあどんどん行くよ!!」
今度は両手に剣を展開し、完全に攻撃重視と言った具合に攻め込んできた。
「くっ!?」
刀と鞘で攻撃を防ぐがやはり身体がついてこない。
「どうしたんだい?何時ものスピードは見る影もないね!!」
「この………!!」
スピードが落ちているのが分かっていて双剣で俺に合わせているように戦っている。
………腹が立つが、怒りを抑え、チャンスを伺う。
(油断している内に………最悪でも条件を同じにしたいが………)
正直無理をしてやっとと言った状態だ。その無理も失敗は許されない。
(相手は武器を自由に変化させて展開できる。守らせずに直接攻撃するなら………)
そう考えながら少しずつ少しずつ距離を取る。
「防戦一方だね!!」
クレインは楽しそうに攻撃を続ける。その顔は科学者の顔では無い、心から戦う事に酔いしれている様に見えた。
(まだ、まだだ………)
そんな中でも俺はじっと耐えていた。クレインはそのまま調子に乗って攻め続けている。
だが、それこそ数少ない逆転の機会を得られるチャンスでもあった。
(攻撃が単調になってきている………)
今の状態でも見切れるような勢い任せの攻撃に俺はわざと苦戦している様に仕向ける。
後はタイミングを計って………
「これで終わりだよ!!」
右手の剣を振り上げた所を見て、俺は行動に移った。
「なっ!?」
クレインの振り上げた剣は通常よりも高く上がっていた。恐らく強い一撃をと無意識に力が入ったのだろう。
俺はその隙を突き、転移でクレインの目の前から消えた。
「魔王炎撃波!!」
炎を纏った刀身で敵を薙ぎ払う様に斬り付ける技。これであれば万全な状態でない今でも充分にダメージを見込める筈。
『零治!!』
「がっ!?」
しかしその刀身は相手を斬り裂く事は叶わなかった。
「………まあそうだよね、無闇に攻撃出来ない、それでいて少ない攻撃回数で確実に相手を倒さなくちゃならない。そうなれば自然と相手の虚を突いての不意打ち。そして有栖零治の場合はそれは転移で行う。分析通りだ」
何もしていなかった左手の剣が向かって行った俺へと向けられ、危うく串刺しになるところだった。
それでもバリアジャケットを軽く斬り裂いており、本当にギリギリのタイミングだったのが伺える。
『危なかった………』
「助かったホムラ………」
ホムラが声を掛けていなければ確実に剣に突き刺さっていた。
「しぶといね………」
「浅はかだったか………だが、次はこう上手く行くとは思うなよ?」
完全に強がりだった。
転移からの不意打ち、それこそ今出来る攻撃の一番友好的な手段だったと言える。
そしてクレインも実は冷静に戦っていた事、これこそ致命的とも言える。戦闘経験の無いクレインは攻め続ければ単調になるだろうと考えていたがそれは完全に誘いだった。よくよく考えれば複数の武器を扱う以上、それにあった戦い方を実践でやらなくても勉強してくるのは当たり前だ。
(もはや完全に追い込まれた………良い手段が思いつかない………)
そう思うが顔には出さない。例えそうだったとしても負けるわけにはいかない。
『………私に考えがあるわ』
そんな時、クレインに聞こえないほどの音量でホムラが俺に声を掛けてきた。
『一体何を………』
『黙って聞いて………私を信用できないと思う。だけどこれならクレインも予想外で対応出来ないはずよ』
そう言ってホムラは俺達に説明を始めた………
ヴィータと防御型のブラックサレナの互いの攻撃。
結果的には砲撃は発射されてしまった。
「はあああああああああ!!」
しかしヴィータのグラーフアイゼンも目前まで迫っていた互いの攻撃がぶつかり合う結果となった。
そこからは単純に力勝負。
「負ける………か!!!!」
回転したグラーフアイゼンが砲撃の中を押し進んでいく。ヴィータも歯を食いしばって勢いに負けず、押し進める。
(絶対に負けない………!!)
最早全力だった。後先を考えている余裕も無い。
「貫け!!!!!」
そしてヴィータの一撃が押し始める。砲撃も長くは続かず、威力が弱まって来たのだ。
「これなら行ける!!」
勝ちを確信し、この勢いのまま突き進む。
「………!!」
しかし相手が予想外の行動に出た。
(翼を畳み始めた!?)
広げていた翼を再び閉じはじめたのだ。意味の無い行動に一瞬気を取られそうになるが、直ぐに切り替え、攻撃に集中した。
「終わりだ!!!」
とうとうヴィータの攻撃が砲撃を突き破り、相手へと迫った。
そしてそれと同時に………
「えっ!?」
翼がヴィータを逃がさない様にと自分の方へと押し始めたのだ。
「ま、まさか!!」
気づいた時には遅かった。既に一撃は決まっており、ブラックサレナ自体は崩壊寸前だ。
だが翼だけはその後起こる爆発から部屋を守るようにと閉じようとしている。
「や、ヤバい!!」
逃げようとするが、攻撃による反動と翼の勢いにヴィータは上手く逃れられない。
「くっ………!!」
逃げる事を諦めたヴィータは咄嗟にシールドを張り、自分の守りを固めた。
そして………
大きな音と共に、ヴィータ爆発に巻き込まれたのだった………
「えっ!?………今の音は爆発?」
「ライ、どうしたのですか?」
「何か爆発の様な音がしたの!!」
通路を進み、丁度複数の分かれ道に差し当たった時、不意にライが叫んだ。
「我は聞こえなかったぞ?」
「私も………」
「ううん、絶対にあった!!確か………こっち!!」
夜美と優理の言葉も聞かず、さっさと進んでしまうライ。
「ライ待って!!………私達も行きましょう!!」
「良いの?ライを信じて?」
「ライの動物的感は信じてもいいだろう。それに我等には他に手がかりが無い、闇雲に探すよりはマシだ」
「夜美の言う通りです、もしかしたら誰かと合流できるかもしれません、行きましょう!!」
そう言って3人は先を行くライに付いて行くのだった………
「うっ………!!」
気が付いたヴィータはゆっくりと身体を起こす、全身傷だらけで、バリアジャケットもボロボロになっていた。
「アイゼン………」
近くにあった自身のデバイスを掴む。
グラーフアイゼンもボロボロで動いては居るがチカチカと弱々しく点滅している辺り、かなり限界のようだ。
「もう少し、付き合ってくれ………」
グラーフアイゼンを持ち、足を引きずりながら進む。
「ここを開ければ中枢部………」
ドアを懸命に押し、痛みに耐えながらゆっくりとドアを開ける。
「もう少し……もう少しで………」
普段であれば何かく開けられる扉がとても大きく重い扉の様に思えた。油断すればすぐに気を失いそうなほど、ヴィータもダメージが大きかった。
「あと少し………これで!!」
そんな中でもヴィータは最後まで諦めず押しきった。
「後は………えっ?」
ふらつく身体ながらグラーフアイゼンを構え、最後の攻撃へと移ろうした時だった。
「何……で?」
ヴィータが見た光景は何もない真っ白い部屋だけだった。ゆりかごの中枢部らしきものもなければ何か重要そうな物も無い。
「そ、そんな………」
何とか保っていた緊張の糸が切れ、そのまま倒れこむ。
「わ、私はクレイン・アルゲイルの…掌で遊ばれていただけだったのか……?」
そう思うと涙が溢れてきた。
もう何も出来ない、無力な自分が不甲斐なくて自然と溢れていた。
「ごめんはやて………」
後ろからこっちに向かって来る音を聞きながらヴィータは静かに目を閉じていった………
再び一方的な展開となった。
「ぐふっ!?」
鳩尾に膝を入れられ、下がりそうになった顔を無理矢理上げ、追撃にと拳を繰り出したクレインを止めた。
「やるね………だけどどんどん行くよ!!」
こちらの状態などお構いなしと言った具合に拳と蹴りの連打を浴びせてくる。
あの後クレインは俺に対して限界までいたぶる事に決めたようだ。手甲と足による攻撃に切り替えてきた。
「ぐっ……この!!」
相手のスキを突いて鞘で振り払う。………が、その隙も誘いだった。
「がふっ!?」
避けられ無防備の腹部に拳を連打してきた。正直呼吸も苦しくなってきた。
『ファイヤウォール!!』
「!?おっと!!」
いきなり現れた炎の壁にぶつかりそうになるクレインだったが、炎の壁を目の前にして止まり一旦距離を取った。
「危ない、危ない……ユニゾン状態だったのを失念していたよ。……しかし防御に移る余裕あったんだね」
クレインの言う通りアギトは俺の身体を現状のまま保つのに精一杯であり、俺も防御に移れるとは思っていなかったのである。
「助かったよアギト」
『いいって。それよりも準備出来たって』
「………ああ分かった」
そう言われ、再び構え直す。チャンスは一度きり、失敗は許されない。
「………何をするつもりかは分からないけれど、遊びは終わりにしようか」
油断出来ないと感じたのか、手甲から今までで一番利用している双剣へと変えた。
「行くよ!!」
俺よりも早くクレインが駆け出した。双剣による流れるような連撃にまたも終始押され気味となってしまう。
「どうしたんだい?これじゃあ防戦一方だよ?」
そう言いながら俺へと斬りかかり、返事をする前に右腕を軽く斬り付けられてしまった。
「しまっ!?」
痛みで力が抜け、右手に持った刀を手放してしまった。
「貰った!!」
そんな俺に容赦なく攻め立てるクレイン。
「くっ、あっ………」
最初の攻撃は鞘で防げたが2回目は耐え切れず弾かれてしまった。
手ぶらになり、バリアジャケットも消えてしまった。
「呆気ない幕切れだね。武器も無ければバリアジャケットもない。何か企んでいたみたいだけど何も出来ずに終わりだね!!」
「くそっ………」
「それじゃあ………崩竜残光……何!?」
クレインが技を繰り出そうと動いた時だった。
零治の肩の上から刀がクレインに向かって伸びてきた。
「ぐっ!?」
バリアアーマーで守られているクレインだが、入った場所が悪かったのか右肩にアーマーを貫いて突き刺さった。
「零治!!」
刀を突き刺した本人、人間の姿に変わったエリスが叫んだ。
「ああ!!ホムラセットアップ!!」
突き刺さった刀を掴み、零治の姿がラグナルフォームと同じバリアジャケットに変わる。しかし持っている刀は赤が基調となったものだった。
(ぐうっ…痛みが……!!)
「行くぞホムラ!!」
『ええ!!』
俺は刀を抜き、クレインに斬りかかった………
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