ひねくれヒーロー
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いくら遅くても季節はずれになることはない
急いで結婚する必要はない。結婚は果物と違って、いくら遅くても季節はずれになることはない。
byトルストイ
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いくら遅くても季節はずれになることはない
◆◇◆マダラ◆◇◆
油女シュロに背負われて帰路に着く巫子の姿を眺め、安著する
死なずに済んで良かった
もし、暴走したまま死んでしまっていたら
碌に対処できないまま放置していたと、邪神に知られてしまえば
オレ一人だけじゃない、オレ全員(・・)が殺されるところだった
絶対的強者には逆らわず、ただ追従する事が生存の秘訣
だからと言って予想外の事態にまで、邪神の意を汲むわけにはいかない
木々のざわめきが邪神の嘲笑いの様に聞こえ、思わず頭を振る
子供か大人かわからぬあの笑い声が、恐れと真実を与え続けるあの神の声が
全ての真実を与えたあの声が、己を縛り付ける
巫子の暴走前に死んでいった自分の中の一人のように、オレは成らない
なんとしてでもあの巫子を幸せにして解放される
そのためには、やはりあの女が邪魔だ
世界の修正役としてオレの計画すらも邪魔するあの女、まじらずシナイ
戦争で疲弊していく民の心にジャシン教を与えようとしても、あの女が和平へと導いていく
救いを望む者にジャシン教の存在をほのめかしても、奴の言葉に救いを見出す者がいる
特に派手な動きもないのに、少しずつ蓄積されていく救いがオレ達の介入すら阻んでいく
何が世界だ
何が修正役だ
あのなれの果てにこうも蹂躙される世界など、このまま壊れていけばいい
抜け殻も共有も罪悪感も好奇心も喪失も情念も怨恨も自嘲も
与えられる記憶にすがって生き続ける奴ら全て、壊れていけばいいのだ
無様にあの女も死んでいけばいい
視界の隅で油女シュロが転んだ
巫子は落とされず、背負われたままでいた
簡単に死んでしまうあの巫子を、あのままにしておいていいのだろうか
強引にでも、こちらへ連れてくるべきではないか
何かに感づいた大蛇丸が、巫子への調査を進めているというのに
温い木の葉にいさせたままで良いのだろうか
三本目の尾は、巫子の体を守る役目を持たない
あの尾は記憶を引き出してしまう恐れがある
邪神は巫子が思い出すことを恐れている
だからこそ一旦回収し、手元に戻ってきたときに封印し直す手はずだったというのに
やはりあの女が関わると計画は乱されるばかり
賢狐の象徴たる二本目も、三本目と合わされば我らの手に余るものとなるだろう
早いうちに最後の尾を見つけ出し、封印し直さなければならない
巫子に黒炎を操れるようになってもらわなければ
少年四人が鬼事の様に走り出す姿を眺めながら、人知れず溜息をつく
何も悩み続けていても状況は変わらない
今は地陸を排除できたことを最上としよう
いずれ地陸と同じように修正役たるまじらずシナイも排除して見せる
気配を消したまま樹上から走り去る
子供特有の甲高い笑い声がいつまでも耳に残った
◆
「納得いかねえ、うん」
「えー・・・いきなりどうしたんですかセンパイ」
先に火の国から離れさせていたデイダラの元へ向かえば、いきなり不平を言われてしまう
一体どうしたことか
「今回の任務!
なんでオイラがちまちま逃げ回って囮役しなきゃなんないんだよ!
しかもお前メインだし!後輩の癖に、少しは先輩を立てやがれ、うん!」
「だって今回はボクの封印術がないとダメでしたしー・・・
ほら地陸とかいう大物やれたじゃないですか、さすがデイダラ先輩!強い!」
正直オレ1人でもよかったんだが、邪神はデイダラがお気に入りだから、もしもに備えてだ
後輩の失敗を庇う傾向にあるからなこの男
封印や地陸の排除に失敗していたとしても、この男に庇われればそう酷い目には合わされない
「・・・死体持って帰れなかったから賞金に換金できないんだぞ・・・うん?」
「・・・角都さんの激怒する様子が安易に思い浮かぶっす・・・」
サイフ役を自称するだけあって角都の金銭感覚はしっかりしたものだ
だからといってオレや他の者にもその感覚を押し付けるのは如何なものか
「あぁやだやだ、ただでさえ粘土代でぐちぐち五月蠅く言われてるのによ・・・」
愚痴るその後ろ姿を眺め、この男は何処の世界でも変わらないものだと感心する
月隠れでも異端児の世界でも水影満月の世界でも、なれの果ての世界でも変わらないものがある
◆◇◆シナイ◆◇◆
木の葉へ帰還して数日後
コンは相も変わらず入院し、シュロも短期入院した
なんでも胃に穴が開いていたとか・・・意外と胃が弱かったらしい
今回の任務失敗に(一応書類上任務成功扱いなんだが・・・)色々思う所があったらしく、経込んでしまったようだ
寺から着いて来たソラも検査入院、特に問題はないらしいが自棄になっている傾向が見られるため監視も兼ねて入院させられている
地陸のことを聞きにアスマが何度も病院を訪れていることから、自棄もすぐに治まるのではないかと期待している
しばらくぶりにペインやカカシ班と任務をこなし、報告書片手に火影邸に訪れる
・・・ペインとカカシはサクラに引っ張られて甘栗甘に連行されました
甘味をたらふく奢らされている事だろう
可哀想なサイフ達、虚空に向かって手を合わせた
「シナイちゃん!」
後ろから呼ばれ、聞き覚えのある声に思わず心臓が高鳴る
「イカリ・・・どうした?」
せめて頬の血痕を拭ってくれ
すごく怖い
そんなんだから夜中に遭遇したくない人間(シュロ調べ)トップスリーに入るんだぞお前
ちなみに夜中に遭遇したくない人間ランキングは大蛇丸、イビキ、イカリの順である
師弟でランクインしやがって・・・ケッ
「?
なんで拗ねてるのシナイちゃん
つーかやばいよ火の国」
拗ねてない
先生は拗ねてないからな
「なにがだ?」
「火の国のジャシン教信者・・・地陸が亡くなってから急激に増加してる
・・・幸いなのは他国の信者増加数がようやく止まったことかな」
「・・・頭が痛い
よし今日は飲みに行こう」
レッツゴーUターン
居酒屋へ向かって青春走りだ
「まぁ仕事終わってるから構わないけどさ
あんまり無茶しないでよ
・・・じゃ、私サイの相談乗ってくるから」
「サイの?」
「・・・シュロったら敵を増やす天才だな
イカリ御嬢さん、アイツと別れたらどうですか?だってさ」
「・・・な、なんでそんな仲悪くなってるんだ・・・」
帰り際は結構和気藹々としていたのに・・・
これから拷問だというイカリと別れて上忍待機所に向かう
カカシやペインの姿はなく、ガイもいない
紅を発見したので飲みに誘うとあっさり承諾してくれた
いきなりのお誘いに乗ってくれるのは珍しい
◆
紅と良く行く居酒屋
度数のキツイ酒が置いてあるところがお気に入りの静かな店だ
トイレに近い角の席を陣取って、お通し片手に酒を飲む
「・・・シナイ、ちょっと聞いてくれる?」
「ん?
珍しいな、相談事か?」
酒も飲まず、頬を紅潮させて身をよじらせる紅の姿が異様だ
いつもならおっさん臭くエイヒレとか齧ってるのに
「・・・ど、どうやったら・・・」
「・・・?」
茹でダコの様に赤くなる顔に、一体何事かと身構える
何度か口を噤んだあと、ようやく出てきたのはとても普段からは考えられないか細い声
「・・・告白、出来ると思う・・・?」
乙女が降臨しよった
「・・・酔った勢いに任せれば?」
「ダメよ、私の方が酒強いんだから
事に及んでも、アイツの記憶が飛んで有耶無耶になるわ」
ごめん、私が言いたかったのは勢いに任せて告白すれば?ということであって
決して酔った勢いで既成事実を作れと言うことではない
・・・私結構相談事とか乗る方だけれど、恋愛相談は初めての経験だよ
「外堀から固めて、逆に告白させるとか」
「外堀・・・三代目にこんなこと相談するの!?」
・・・相手はアスマか
一応名前伏せての相談のはずなのに、即行バレたぞ
「いや、相手の友人とか・・・親は結婚の時だろ」
紅となら反対はなさそうだけれどなぁ
むしろ賛成の方が多いんじゃないか?
紅は幻術系のエリートだし、まだ若いし、思想が偏ってるわけじゃないし
「け、け、け、けっこん・・・」
ダメだ
顔を真っ赤にしてうわ言のように結婚と呟き続けている
「さっさと告白しといたほうが良くないか?
婚期逃すぞ」
この一言が、紅を怒らせてしまったらしい
目が据わってる
「・・・アンタはどうなのよ!
アンタはカカシとガイ、どっちとくっつくのよ!」
「なにその究極の選択」
「・・・あぁ、どっちもなんとも思ってないのね・・・」
そんなチャレンジャーにはなれない
「ガイも何とも思ってないぞ、カカシも四代目が違うって言ってたし」
ん!カカシのあれは憧れだよ!もう実らないよ!って四様言ってたし
弁当食ってる背後でいきなり呟かれたから吃驚したな
「なら、あのペインとか言う奴?」
「ないわー」
自分が逃げ出すようなところに女置いていくようなやつゴメンだわー
あ、女に追い出されたのか?
「・・・アンタ恋愛したことあんの?」
「なにそれおいしいの?」
「・・・私よりアンタをどうにかしないとダメな様ね」
「私は婚期逃しても別に良いかな」
創設時代に婚期逃がしたからもう平気
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