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戦国異伝

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第百九十三話 高天神からその七

「我等は」
「はい、残念ですが」
 鳥居もいるが彼も家康に言うのだった。
「大久保殿の言われる通り」
「うむ、わかっておる」
 家康もこう二人に返した。
「我等はこの度の戦ではな」
「主に戦うのではありませんな」
「主に戦うのはな」
「あくまで織田家と武田家ですな」
 鳥居はこの事実を言うのだった。
「やはり」
「そうじゃ、しかしこれでな」
「徳川は助かりました」
「ならばよい」
 家が保たれれば、というのだ。
「この戦国の世、それではな」
「ですな、それでは」
「我等は織田家と共に武田と戦う」
 その二十万の大軍と共に、というのだ。
「そうして生き残るぞ」
「畏まりました、それでは」
「今よりですな」
「主な家臣達と共に織田殿の本陣に向かうぞ」
 そうして、と言う家康だった。
「それからじゃ、共にな」
「戦に向かいますか」
「共に」
「そうしようぞ、その後はな」
 武田との戦の後はというと。
「どうなるかじゃが」
「この戦に勝ってからですな」
「それは」
「うむ、とりあえずはこの五十万石を守り」
 そして、というのだ。
「後は増えればよいか」
「そうなりますか」
「それが我等ですか」
「まあ百万石なぞ」
 例えとして言った言葉だ、大身として。
「思えぬわ」
「当家が百万石ですか」
「それはやはり」
 大久保も鳥居もだった、家康の今の言葉には思わず苦笑いになってそのうえで家康に応えた。
「ありませぬな」
「どう考えても」
「我等がそこまで大きくなるとは」
「流石にそれは」
「ないかと」
「そうじゃ、ないわ」
 家康も笑って言うことだった。
「我等は長い間三河すらどうにもならなかった」
 その国一国もというのだ。
「だからじゃ」
「そうしたことは望まずに」
「地道にやっていくべきですな」
「このまま生き残ることを」
「そのことを考えて」
「そういうことじゃ、ではこれからな」
 信長のいる織田の本陣に行こうと話してだ、そうしてだった。
 家康と主な家臣達は黄色の具足と陣羽織という徳川の色の身なりで織田の本陣に入った、青い中の黄は確かに目立った。 
 そして家康は信長の前に頭を下げた、だが信長は笑って家康に言った。
「ははは、よいわ竹千代」
「拝謁はですか」
「そうじゃ、わしと御主の間柄ではないか」
 それ故にというのだ。
「そこまではよいわ」
「いえ、そういう訳にはいきませぬ」
「織田の本陣に入ったからか」
「吉法師殿も岡崎やこちらの本陣に来られた時は頭を下げられるではありませんか」 
 信長も礼を守っているのだ、そのことを言うのである。 
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