力持ちは難しい
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第二章
「それですね」
「おっ、わかるか」
「それが俺達の仕事ですから」
こう答えるのだった。
「やりますよ」
「そういうことだな。ただ」
「ただ?」
「メタルさんはな」
その彼がとだ、店長はここで少し困った顔になって凌に話した。
「プロでしかも悪い人じゃないけれどな」
「それでもですか」
「いや、メイクしてておアネなのはいいんだよ」
一番問題ではないかと思えるその部分は、というのだ。
「それはさ」
「あのことがですか?」
「タイプ以外の人には声をかけないから」
「織田裕二さん以外にはですか」
「ああ、あの人みたいな男性以外にはな」
興味がないというのだ、少なくとも凌ではないことは確かだ。
「それはいいんだよ、紳士だしな」
「確かに礼儀正しいですね」
こうした意味でもメタルはよかった、シェフとしての礼儀作法も身に着けているまさに正真正銘のプロフェッショナルなのだ。
「あの人は」
「ああ、それでもな」
「いや、それでもって」
「そのことはまたわかるよ」
これから、という口調での言葉だった。
「そのことは」
「そうですか」
「そのうちな」
「左様ですか」
凌は店長が今言っている意味がよくわからなかった、この時は。しかし副店長として仕事をしているうちにだった。
凌も伊達に若くして店長を務め実績を出していた訳ではない、仕事は出来る方だ。しかも自ら動き何でもする。まず自分で動くタイプだ。
それでバイトの子の仕事も手が空いていれば手伝っていた、そしてそれはメタルの仕事にも及んでいた。
食材を運ぼうとする、店に届いたそれを。だが。
ここでだ、メタルが彼にこう言って来た。
「あっ、駄目よ」
「えっ、駄目って」
「貴方一人じゃ駄目よ」
トラックから食材を運び出し店の倉庫に入れる時にだ、メタルは凌にこう言うのだった。
「悪いけれどね」
「駄目って」
「もう一人、バイトの子で手の空いている子を呼んできてくれるかしら」
「今ちょっとバイトの子は」
全員だった。
「手が空いていなくて」
「ならいいわ、私一人でやるから」
「そういう訳にはいかないですよ」
凌はすぐにメタルに返した。
「だって今手が空いているのは俺だけですから」
「それでもよ」
「それでもですか」
「そう、貴方だけではね」
やはりこう言うメタルだった。
「無理よ。シェフ見習の子達を呼ぶから待っていて」
「いやいや、仕事は早くしないと」
それも確実にだ、凌のこの考えは強い。
「ですから」
「言っても聞かないのかしら」
少しむっとした顔になってだ、メタルはその凌に言った。
「貴方って人は」
「そういう訳じゃないですけれど」
「そういう人は身体でわかることになるけれど」
「身体で?」
「そこまで言うのなら運んでみたらいいわ」
その食材を、というのだ。
「貴方一人でね」
「勿論そうしますよ、それじゃあ」
凌はすぐに足元に置いてあったジャガイモの箱を一つ両手に取った、こうした運び入れも店ではよくあり仕事だ、少なくとも前のハンバーガーショップではいつもしていた。
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