先輩の傷
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第七章
「今のところはね」
「先輩が仰らない限りは」
「来るなとか」
「そうしたわ、これが正解かどうかはわからないけれど」
それでもだというのだ。
「とりあえずはね」
「わかったわ、じゃあね」
「とりあえずはそれでいったらいいわ」
「後は先輩次第よ」
「あの人が由紀にどう仰るかよ」
「そうするからね」
由紀はそのまだ迷っている、正解を見付けていない顔で友人達に言うのだった。そしてそのうえでだった。
慎と一緒に登下校を続けた、その中で。
由紀が慎のことを知って一月程経った頃にだ、慎は下校の時にこの時も自分と一緒にいる彼女にこう言った。
「なあ」
「はい」
まさかと思いながらだった、由紀は慎に顔を向けて応えた。
「何でしょうか」
「これからもな」
「これからもですか」
「俺は何も言わないけれどな」
それでも、というのだ。
「このままでいいからな」
「このままで、ですか」
「ああ、登校の時も下校の時もな」
その両方の時でというのだ。
「いいからな」
「こうしていていいんですか」
「俺は何も言わない」
このことは変わらないというのだ。
「このままな」
「それで私も」
「あんたもこのままでいたらいい」
「じゃあそれでいいですね」
「俺は何言われてもいいしな」
もう、とだ。最初に言葉の中にこれが付いたものだった。
「あんたさえよかったらな」
「私はいいです」
由紀はその慎に笑顔で応えた。
「先輩がそう仰るのなら」
「そうか」
「はい、それじゃあ」
「これからもだな」
「お願いします」
笑顔で言う由紀だった。
「これからも」
「大学はな」
「先輩大学進学されるんですか」
「エスカレートで行くからな」
「大学のキャンバス高等部の隣ですし」
「若し俺が大学に進めて通学出来たらな」
それが出来たら、というのだ。
「このままでいいからな」
「じゃあ先輩大学はそのまま進んで下さいね」
「そうするからな」
「私もこのままいますし大学も」
由紀もというのだ。
「先輩と一緒にしますので」
「そうしてくれ、このままでいい」
慎は前を見ながら由紀に言った。
「今のところはな」
「今のところはですか」
「先なんてわからない」
やはり前を見つつだ、慎は言っていく。
「どうなるかな、けれどな」
「今はですね」
「このままでいい」
「暫くの間は」
「暫くが何時までかはわからないがな」
それでもというのだ。
「このままでいいと思う」
「じゃあ私も暫くの間は」
その彼の横でだ、微笑んで言う由紀だった。
「これで」
「そうするんだな、あんたも」
「そうさせてもらいます」
にこりとわらって応える由紀だった、そうしてだった。
二人はそのまま一緒に登下校を続けていった、それからだった。
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