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地連のおじさん

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第五章


第五章

 彼の名前は尾久久光。一流私立大学で柔道部に入っている。就職先に迷ってそれで自衛隊を受けてみようと思っているのだという。動機はいささか弱く感じた。しかし来てくれるという人間を拒むという発想は自衛隊にはない。従って取るべき行動は一つであった。
「凄いですね。幹部候補生学校ですよ」
「全くだ」
 彼が去ってからだ。二人は事務所の質素なソファーに向かい合って座ってインスタントコーヒーを飲みながら話をしていた。
「それもうちだなんて」
「とにかくここはな」
「はい、そうですね」 
 三曹は真剣そのものの顔で頷いて二曹の言葉に応えた。
「ここはですね」
「何としても自衛隊に入ってもらうぞ」
「できれば幹部候補生に」
「御前が担当しろ」
 二曹はすぐに三曹に告げた。
「いいな、御前がだ」
「私がですか」
「ああ、御前まだ一人も来てないよな」
「ええ、残念なことに」
「じゃあ御前が担当しろ」
 こう彼に言うのである。
「受かったら御前の評判になるからな」
「いいんですか?それで」
 三曹は彼の言葉を聞いてだ。目を少し丸くさせてそのうえで問い返した。
「私が受け持って」
「俺はもう一人合格してもらってるからな」
「けれど二曹の場合は空自さんの方でしょ?いいんですか」
「いいんだよ、そんなことは」
 気さくな笑みを浮かべて彼に告げるのだった。
「御前が受けろ。いいな」
「すいません、それじゃあ」
「さて、それじゃあな」 
 二曹は笑顔を満面のものにしてさらに言う。
「あの大学生には何があっても自衛隊に入ってもらわないとな」
「そうですね。まずは過去五年分、いえ八年分の幹部候補生の問題集といい公務員の問題集をプレゼントして」
「おい、そんなに勉強してもらうのか!?」
 二曹は三曹の今の言葉を聞いてだ。目を丸くさせて問い返した。
「八年分とか。本当にか!?」
「いや、やっぱりそこまで勉強しないと合格しないでしょ」
 三曹は平然とした顔で驚いている二曹に対して話した。
「幹部候補生ですから」
「だからか」
「私も曹候補学生になるのに勉強しましたし」
「御前等頭で入るからな」
 二曹が言った言葉は事実であった。曹候補学生、今は一般曹候補生となっている。彼等は下士官への昇進が一般入隊と比べてかなり短期間で保障されている。その為テストも難しくそれにより入るからこう言われているのだ。
「そうなるか」
「まあ頭のことは置いておきまして」
 その曹候補学生出身の三曹が話していく。
「やっぱり勉強しないと受かりませんから」
「それはそうだな」
「一般幹部候補生合格してる三尉ともお話して」
「あの人もか」
「念入りにバックアップしていきましょう」
 何が何でも彼に入隊してもらうつもりになっていた。
「これから。それでいきましょう」
「よし、わかった」
 二曹は今度は確かな顔で頷いた。
「それならな。俺も協力するぞ」
「えっ、でも担当は私じゃ」
 三曹は彼の今の言葉を受けて目をしばたかせる。尚自衛隊では階級が下である場合は自然と敬語になり一人称も『私』と謙るのである。
「二曹じゃないですよ」
「だから細かいことはいいんだよ」
 また気さくな顔に戻って話す二曹だった。
 
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