垂れ目でもいい

　愛乃はこの日夏樹と共に野球を観に行った、そうして試合を観ていると。
　阪神打線は完璧に沈黙していた、一点も取れない。先発投手は好投して一点に抑えているがそれでもだ。
　その一点が取れない、それでだった。
　試合は阪神にとって辛い状況だ、愛乃はその試合を観つつ夏樹に問うた。
「この試合が、よね」
「阪神の試合だよ」
「ピッチャーはいいけれど」
「その分打線が打たないんだよ」
　今の様にというのだ。
「この通りな」
「凄いわね、全然点が取れる気がしないわ」
「打線がここぞって時には沈黙するのが阪神なんだよ」
「日本ハムと違うわね」
「中田くれないか？」
　ここでだ、夏樹は愛乃にこんなことを言った。
「阪神にな」
「それではいそうですかって言うと思う？」
「やっぱり無理だよな」
「当たり前でしょ、助っ人取りなさいよ」
　これが愛乃が言う解決方法だった。
「日本ハムだってそうしてるわよ」
「取ってて普段は打ってくれるんだけれどな」
「今は、っていうのね」
「この通りだよ」
　今の試合のままだというのだ。
「打ってくれないんだよ」
「それはまた大変ね」
「全く、辛いな」
「こうした試合もあるって考えたら？」
「そうだな、こうした試合はいつもペナントのここぞって時になるけれどな」
　だから中々優勝出来ないのだ。
「そういう風に」
「そうしようか」
「そうよ、それで勝ったらね」
　その時はどうかというと。
「お祝いしましょう」
「お祝いかよ」
「飲みに行ってね」
　そうして、というのだ。
「楽しもうね」
「お祝いにか」
「今日巨人負けたわよ」
　携帯でチェックするとその通りになっていた。
「それで阪神が勝ったら」
「首位入れ替わりか」
「そうなるわよ」
「だからこそ余計に勝ちたいよな」
「それで勝ったらよ」
「ああ、優勝だよ」
「それは飛躍し過ぎでしょ」
　首位になっただけでそうなるのは、というのだ。
「幾ら何でも」
「いや、このままな」
　首位になればというのだ。
「ずっと首位を守るからな」
「クライマックスでも勝つのね」
「巨人にだけは負けるか」
　阪神ファン独特の言葉が出た。
「メイクミラクルだのメイクドラマだのないんだよ」
「汚い言葉よね」
　どんな言葉でも巨人が使うと汚い言葉になる、それは巨人という球団の存在自体がダーティーだからである。
「実に」
「御前も巨人嫌いか」
「小笠原のことは忘れないから」
　絶対に、と言う愛乃だった。
「まあもう小笠原いらないけれどね」
「戻って来るな、か」
「もうガッツはいないわ」
「じゃあ今いるのは何だよ」
「カッスよ」
　只の残りカス、粗大ゴミだというのだ。
「コーチでもいらないから」
「それはまたきついな」
「だってお金で巨人に行ったのよ」
　それならというのだ。