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垂れ目でもいい

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第一章

                     垂れ目でもいい
 緑川愛乃は普段はそうではない、しかし。
 メイクを落とすとだ、はっきりしている筈のその目が。
 垂れ目になる、小さなその目が見事に垂れている。それで小さい鱈子の様な唇を悲しくさせて周りに言うのだった。
「私の目ってね」
「垂れ目っていうのね」
「そう言うのね」
「これがね」
 こうだ、職場の仲間達に言うのだった。自分の部屋で休日前のパジャマパーティーに興じる前にである。
「私は嫌なのよ」
「そう?愛乃ちゃん可愛いじゃない」
「そうよね」
 同僚達は愛乃にこう返すのが常だった。
「綺麗にまとめたその髪とかね」
「いいじゃない」
 首筋までだ、赤をかけた髪をストレートにしている。白い肌と相まって実によく似合っている。
「スタイルだってね」
「脚綺麗じゃない」
 今はパジャマのズボンに包まれているがそうだというのだ。
「全体的に可愛くてね」
「悪くないわよ」
「私はそうは思わないの」
 だが愛乃はこう返すのだった、その口を暗いものにさせて。ついでに言うと背は一五一程で小柄と言っていい。
「目がね」
「垂れ目が嫌なのね」
「そう言うのね」
「そう、はっきりした目になりたいの」
 絶対に、というのだ。
「大きくてね」
「目、ねえ」
「じゃあ整形?」
「整形したいっていうのね」
「考えてるわ」
 実際に、というのだ。
「この目が嫌だから」
「そこまで悩んでるのね」
「整形までって」
「それはかなりね」
「真剣に悩んでるのね」
「そうなの、お金はあるから」
 その分は貯めているというのだ。
「だからね」
「本当にそうしたいのね」
「嫌だから」 
 自分のその目が、というのだ。
「その為にもって考えてお金貯めてるし」
「そこまで考えるのならね」
「愛乃ちゃんの問題だしね」
「私達から言うことじゃないしね」
「本人のことだから」
 それで、というのだ。
「自分で決めてね」
「よく考えてね」
「そうしてね」
「慎重にね」
「慎重には考えてるわ」
 実際にとだ、愛乃も返した。
「私にしても」
「整形はやっぱり大きいからね」
「どうしてもね」
「そう、考えてるから」
 決定はしていないというのだ、そうした話をしてだった。
 愛乃はこの日は職場の同僚達とパジャマパーティーを楽しんだ、この時は自分の目のことを忘れていた。
 だが完全に忘れていた訳ではない、やはり目のことはいつも気にかけていた。それでどうしようかと考えていた。
 その彼女にだ、職場の同期である皆口夏樹が声をかけてきた。夏樹は愛乃に明るい声でこう声をかけた。
「なあ、今日暇か?」
「暇だったらどうっていうのよ」
 これが愛乃の返事だった。
「一体」
「夜野球観に行かないか?」
「野球!?」
「阪神対横浜な」
「あんた阪神ファンよね」
「ああ、だからな」
 阪神の応援を一緒にしようというのだ。 
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