騎士道衰えず
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第六章
第六章
そうした彼等の奮戦を見てだった。イギリス軍のパイロット達も言うのだった。
「おい、あいつ等頑張ってるな」
「そうだよな。思った以上にな」
「負けても。まだか」
「まだやれるんだな」
「あいつ等がやってるんだ」
そのだ。祖国を降伏させられた彼等がだ。果敢に戦うというのならだというのだ。
今祖国を守る彼等はだ。どうかというのだった。
「やってやるか」
「というかやらないとな」
「俺達も勝つ」
「絶対に勝つからな」
こう言い合ってだ。そうしてだった。
彼等もドイツ軍に向かいだ。同じ戦法で戦うのだった。するとだ。
「メッサーシュミットの航続距離ならな!」
「少し待てばどうということはないぜ!」
その航続距離を衝いてだ。メッサーシュミット109を倒していく。
そして他の敵機もだ。同じだった。
「メッサーシュミット110は運動性だ!」
「護衛のないスツーカなんてドン亀だぜ!」
「ハインケルは下からだ!」
「そうすれば勝てるんだ!」
彼等もだ。戦い方がわかりだ。ドイツ軍を恐れなくなった。
「無敵って思われたドイツ空軍もな!」
「無敵じゃないか!」
「俺達の勝てる相手だ!」
「俺達の国は守れるんだ!」
このことがわかったのだ。それならばだった。
彼等は恐れなかった。恐れなくなった。確かに戦局は困難な状況だ。だがそれでもだ。彼等は大空で勇気を以て戦い続けるのだった。
そのことはだ。チャーチルの胸にも入った。彼は今は爆撃を避け防空壕の中にいる。上からの振動の音を聴きながらだ。彼は言うのだった。
コンクリートの部屋は味気ない。殺風景である。彼はその中で葉巻を吸いながらだ。軍人達に話すのだった。
「彼等は戦ってくれているな」
「はい、果敢に」
「戦ってくれています」
「昼も夜も」
「我が国のパイロット達だけではない」
彼等だけではないとだ。チャーチルはここで言った。
自分の机に座り葉巻を吸いながらだ。彼は話すのである。
「他の国のパイロット達もな」
「確かに。彼等もです」
「見事です」
「母国を失ったというのに」
「それでもまだ戦うのですから」
「ああして」
「しかもだ」
それだけではないとだ。チャーチルの言葉は続く。
「彼等のその戦いを参考にして我が国のパイロット達も戦っている」
「そうですね。敵機の個々の機種に合わせて」
「そうして戦っています」
「私もあれは考えていなかった」
彼にしてもだというのだ。
「数が増える位にしか思っていなかった」
「はい、それは私もです」
「私もです」
軍人達もそれぞれこう話す。
「しかもあまりあてにはしていませんでした」
「旧式の機体しかありませんでしたし」
それで最新鋭のドイツ軍の相手になるかどうかだ。甚だ疑問だったのだ。
「敗れた国の者なぞ」
「どれだけのものかと思いましたが」
「嬉しい誤算だ」
チャーチルはこうも言った。
「非常にだ。そしてだ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「彼等の様な者がいればだ」
その戦う他国のパイロット達のことだ。
「彼等の国は蘇るかもな」
「ドイツに勝ちですか」
「そうなると」
「確かに国力や技術は重要だ」
そうしたものがあってこその戦争だ。これは事実だった。
「しかし。それ以上にだ」
「心ですね」
「それですね」
「国を護り戦おうという心がなければどうしようもない」
そうだというのだ。チャーチルは強い目で言うのだった。
「例えば国を売る様な性根の人間に国力や技術を与えても駄目だな」
「それを国を売る為に使います」
「間違いなくです」
「しかし国の為に戦う者ならばだ」
そうした人間ならだ。どうかというのだ。
「果敢に戦ってくれるな」
「そういうことですね。つまりは心ですね」
「重要になるのは」
「そういうことになる。彼等にはその心がある」
祖国は降伏し旧式機に乗っていてもだ。それでもだというのだ。
そうしたものを見てだ。チャーチルは今言うのだった。
「それで最後に勝てない筈がない」
「そうなりますね」
「つまりは」
「そうだ。そうなる」
チャーチルは確信と共に話すのだった。
「今はどれだけ辛くともな」
「では我々もですね」
「ここで踏み止まりですね」
「彼等が戦っているのだ。我々が遅れを取ってどうする」
そうした話にもなった。
「だからだ。戦うぞ」
「はい、それでは」
「何としても」
こう話してだった。彼等も戦うのだった。
英国の戦いはイギリス軍だけが戦っていた訳ではなかった。他の国の騎士達も戦っていたのだ。例え祖国が降伏しても戦いそうして最後は勝利を手にした。これは歴史にある通りである。
騎士道衰えず 完
2011・4・28
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