花に散り雪に散り
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第一章
第一章
花に散り雪に散り
昭和二十年一月の帝都東京。靖国神社は一面の銀世界だった。
その雪達を見ながら。二人の若者がたたずんでいた。
二人共海軍士官の服を着ている。その彼等がだ。
白い雪の中でだ。こう話していた。
「奇麗なものだな」
「全くだ」
一人、社久作がその雪を手に取った。するとそこからすぐにだった。
雪は手の中で消えていく。そうして何もなくなる。その雪を見て。
もう一人、純名五郎も言う。
「こうしてすぐに消えるがそれもまた」
「いいものだ」
「雪は出ては消える」
純名もだ。その雪を見ながら話す。純名は太い眉を持ち精悍な顔をしている。それに対して社の顔は穏やかだ。しかし二人共だ。
その雪達を見ながらだ。共に話すのだった。
「大西中将のお話は聞いているな」
「特攻隊か」
「そうだ、それだ」
まさにそれだとだ。純名は社に話した。
「それについてどう思う」
「閣下が言っておられる通りだ」
社はこう純名の言葉に答えた。
「あれは兵法の外道だ」
「そうだな。ああしたことをするまでということは」
「終わりだ」
社は靖国のその大きな社を見ながら述べた。
「敗れる何よりの証だ」
「そうだな。しかしだ」
「国破れて山河在りだ」
社は自然にこの言葉を出した。杜甫の詩の中にある言葉だ。
「敗れてそれで終わりではない」
「皇国はまだ生きる」
「敗れ。それからだ」
「そうだな。敗れる皇国が連中に何を見せ」
「それがどう敗れた後の皇国に生きるかだ」
「ではどうする」
純名は社に問うた。
「貴様はどうする」
「俺か」
「貴様も俺も兵学校の頃から戦闘機乗りを目指した変わり者」
兵学校の士官は多くが艦艇を希望する。それが一番出世するからだ。
しかし彼等はあくまで戦闘機を希望してだ。そうして今実際に戦闘機乗りになっていた。そのうえで愛機を駆り戦場を駆け巡っていたのだ。
その彼等がだ。今話しているのだ。雪の靖国の中で。
「それならばどうする」
「特攻隊か」
「その兵法の外道にだ」
純名は強い顔で社に問うていく。
「貴様はどうするつもりだ」
「俺は」
一呼吸置いてからだ。社は純名のその問いに答えた。
「行くべきだと思う」
「そうするのか」
「皇国は敗れる」
それはもう否定できなかった。どうしても。
しかしだ。それ以上にだというのである。
「だが。我々の心を見せてだ」
「これからの皇国の礎を築くのだな」
「敗れてそれで終わりではない」
とにかくだ。社はこのことを強く意識していた。
「それからもあるのだからな」
「そうだな。それではだな」
「俺は特攻隊に入る」
社は今言い切った。
「そして皇国臣民の心を連中に見せ」
「皇国を護る鬼となるか」
「この靖国に戻る」
まさに今彼等が見ているだ。靖国神社にだというのだ。
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