| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【銀桜】4.スタンド温泉篇

作者:Karen-agsoul
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3話「面接の基本はまず挨拶」


 死霊たちが巣食う温泉旅館『仙望郷』。その事実を知るのは銀時と新八だけ。
 二人で互いにフォローしながら何とかやり過ごしていた。
 だが温泉につかる最中にスタンドを吸ってしまった新八は、額に『呪』と刻んだ閣下と化した。さらに女湯から上がってきた神楽とお妙も同様に髪が逆立ち、目と口がつり上がった閣下となっていた。
――なんてこったァ。全員とり憑かれちまった!!
 呆気にとられる銀時を置いて閣下となった三人は部屋に戻っていく。
「ちょっと待ってくれ!!俺を一人にしないでくれぇ!!オイぃぃ!!」
 暗い廊下に一人だけになって慌てて追いかける。
 だが三人の姿はなく、どこを探しても見当たらない。
「おいおい冗談じゃねーぞ。こんな化け物屋敷一人でいられるかァ!」
 閣下になってしまったとはいえ、元は自分の知ってる新八たち。あの姿には鳥肌が立つが、一人でいるより数倍マシだ。
 銀時は暗い廊下を震える足で歩いて洋式部屋を目指した。
【銀さーん】
 いきなり名前を呼ばれ心臓が跳ね上がる。だがそれは聞き覚えのある男の声だった。
 スタンドの奇襲で意識不明になっていた長谷川だ。安心した銀時は、自分以外の生存者に会うため声がした方の角を曲がる。
「長谷川さん、無事だっ……」

 半透明の長谷川がふわふわ立っていた。

「長谷川さんんんんんんんんんんんんんんんん!?」
【そこにいたの?やっと見つけた】
 変わり果てた長谷川の姿に絶叫し、死に物狂いで銀時は床に頭を何度も叩きつける。
「すんませんすんません!マジすんません!見捨ててすんません!!」
【え?いきなりどーしたの?】
「許してェェェ!!」
 涙をまき散らしながら銀時は全力疾走して逃げる。
 だがスタンドとなった長谷川が空中浮遊して追いかけてきた。
「殺される!呪い殺される!祟りじゃああああああああ!!」
【銀さーん、待ってくれ。なんで逃げんだ?】
「何も聞こえねぇ!何も聞こえねぇ!タリラリラリラ~~~~~」
【変なんだよ。身も心も全部軽くなった感じでよ。どうなってんだ?】
「そりゃそうだろ!あんたスタンドになっちまったんだからぁぁぁぁぁ」
【スタンドってなんだよ意味わかんねーよ】
「今すぐ成仏しろォ!デスペラーード南無阿弥陀仏チチンプイプイ悪霊退散ビブデバビデブゥゥゥ!!」
 廊下の角を曲がると、銀時はとっさに目の前の部屋に飛びこんで身を隠した。
 やがて長谷川の声は聞こえなくなった。なんとか逃げきれたようだ。
 恐怖から解放され、銀時の口から何度も荒い深呼吸がもれる。
「フハハハ!我輩がUNOである」
 飛びこんだ先はちょうど女性陣の洋式部屋。閣下と化した新八たちがUNOをしていた。
 だが部屋には自分と同じ銀髪の――双葉の姿がない。銀時はビビりながらもUNO真っ最中の三人の間に無理矢理割りこんだ。
「おおおい双葉は?」
「一人で風呂に入ると出遅れて行ったぞ」
「けしからん奴だ。我輩たちとUNOをせんとわ」
「KY女は一生KYだ。ガハハハ!」
――双葉が危ねェ!
 危機を悟った兄は急いで女湯へ走る。
 恐ろしい数のスタンドが漂うあの温泉にいたら、新八たちと同じように妹もとり憑かれてしまう。
「双葉ァァァァ!!」
 銀時はスタンドたちが渦巻く露天風呂の戸を開けた。

「ああ、そうだな。お主たちが言うことも一理ある。だがいくら効能があるからって、つかりっぱなしというのはどうかと思うぞ」
 双葉は温泉につかっていた。
 彼女を囲む無数の幽霊(スタンド)たちと話をしながら。
「そんなに湯につかっていたらふやけてしまう。いや、お主たちにはふやける身体もないか」
 黒く淀んだスタンドが目の前にいるのにも関わらず、いつもの調子で皮肉をかます双葉。
――フツーに話してる!スタンドとフツーに喋ってるゥ!!
 信じられない光景を目の当たりにした銀時は、口がぽっかり開いたまま塞がらない。
「ま、私には関係ないがな。上がらせてもらうぞ」
 そう言って双葉は浴槽の岩に手をかけた。
 流れる水音と共に彼女の周りの湯けむりがスッっとひいた時――腰まで浴槽から出た妹と戸の前に立つ兄の目と目が合った。
「ん?」
「あ……」
 束の間の沈黙。
 湯けむりの中からうっすらと浮かぶ妹の裸。
 そして、うっすらと見えるふっくらした胸。



“ブホッ”

「失礼しましたァァァァ!!」
 大量に噴き出た鼻血を手でおさえ、慌てて女湯から出て行った。
 廊下で滴る鼻血を拭う。変に興奮してしまった気持ちを抑えると、先ほどの謎が銀時の頭を駆け巡る。
「ど、どーなってんだ。アイツまで取り憑かれちまったのか……?」
 だが新八たちと違って髪は逆立っていないし、口調も変わっていない。とり憑かれたようには見えなかった。
 だが素でスタンドと話していたとすると、それはそれで恐ろしい。
 頭を抱えていると突然不気味な笑い声が廊下に流れこむ。
「ムフフフフ……」
 不敵な笑みを浮かべたお岩が、廊下の曲がり角から銀時を覗き見ていた。そして不吉な微笑だけ残して、お岩は姿を消した。
「あのババァ!」
 この温泉旅館の謎を知る女将をとっ捕まえるため、銀時は闇の中を走り回る。
「ババアァァァ!!どこいきやがったァァ!!!出てきやがれェェ!!てめェ一体俺たちをどーするつもりだァァ!!新八たちを元に戻しやがれェェ!!」
 しかしどこを探しても女将の姿はない。
 代わりに現れたのは――

【クス】
 笑い声。
【クスクス】【クスクス】【クスクス】
  【クスクス】【クスクス】
 笑い声。笑い声。笑い声。
 壁に、床に、天井に、三方から這い出る無数の手。
【こいつは使えるね】
【こいつなら大丈夫だよ】
 笑いから歓喜へ変わる何百もの声。
「う、うわー」
 幾千の手が一斉に蛇の如く銀時に襲いかかり――
「兄者」

“ポンッ”

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うるさい」
 最高潮に達した絶叫は、冷めた声で止んだ。振り返ると、仙望郷の浴衣を着た双葉が銀時の肩に手を置いて立っていた。
「ふ、双葉。オメー無事だったのか。ココはヤベェ!絶対ヤベェ!!てかお前コレ見えねェの!?」
「ああ。コイツらのことか」
 壁や天井など至る所から伸びる無数の手。普通なら悲鳴を上げるものだが、双葉は平然と眺めるだけ。逆に銀時が悲鳴を上げそうになる。
「なにフツーにしてんの。驚かねーのか?怖いだろ。怖いって言え。頼む言ってくれ」
「兄者ッ」
 どこか圧力のある声。重たい空気をまとった妹の雰囲気。
 急激な変化に押され、銀時は沈黙してしまう。
 そして一瞬の間の後、彼に降りかかったのは――
「さっきの礼はきっちり返させてもらうぞ」
殺意を秘めた絶対零度の眼光。
銀時の脳裏に先刻の露天風呂の出来事がフラッシュバックする。
グラマーなボディと女の魅力がつまった豊満な胸。それでムラムラした事実を銀時は冷汗を垂らしながら撤回した。
「ちちち違げェよ!やましい気持ちじゃねェって!見たくて入ったわけじゃ……」
「わかっている。ま、今はそれ所でもないからな」
そう言って双葉は後ろを向き、つられて銀時も目を向ける。

 “パチパチパチ”
“パチパチパチ”
 “パチパチパチ”

「ハ~~イ、おめでとォ~。面接合格~」
 兄妹を出迎えるお岩と無数の手が生み出す拍手の連鎖。
 それに呼応するかのように、双葉の口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「え?」
 そんな妹とは逆に、兄の口元はひきつるだけだった。



=つづく= 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧