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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第九十三話 秘められた力

 ハラオウン家でのフェイトの今後の話がまとまった時間。
 士郎の家ではアリサとすずかが、士郎とリインフォースと共に夕飯を楽しんでいた。

「ご馳走様でした」
「ご馳走様。こんなおいしい和食久々にいただいたわ」
「お粗末さま。
 喜んでもらえたら何よりだよ」

 士郎が用意したのは旬の鰤。
 刺身に、照り焼き、あら汁、さらに旬の野菜を使った天ぷらである。

「食後のお茶はどうする?
 紅茶? それとも夕飯にあわせて緑茶にするか?」
「お茶は後、片付けぐらい私達でするわよ」
「うん、士郎君は座ってて」
「はい、士郎はこの館の家主なのですから少し休んでいてください」

 アリサとすずか、リインフォースは士郎を座らせて食器を片付け始める。

 士郎もこう言われてはすることがないので、おとなしく座っておく。

 座ったまま、キッチンで仲良く片づけをする三人に視線を向ける。

 リインフォースはアリサとすずかとそれほど話す機会はなかったが、ギクシャクすることなく、仲良く話しながら片付けをしている。
 穏やかな平穏な日常。

 それがどれだけ尊いものか、また簡単に壊れるものか身をもって知っている。

 そして、今回士郎がアリサとすずかを呼んだのはその平穏に亀裂を入れるものになりかねない。

 だが力が、素質があるならば知っておいたほうが良い。
 運がよければ知らずとも平穏に暮らせるかもしれない。
 しかし、力は力を引き寄せる。

 その時、素質だけでは足りない。
 知識を得て、制御できねば防げない。
 無論、士郎は守るつもりだ。

 だが誰かを守ることがどれだけ難しいのか知っているが故に目を逸らすわけにはいかない。

 リインフォース達の片づけが終わり、熱い緑茶で喉を潤す。

「じゃあ、来てもらった本題に入ろうか」

 士郎の言葉にアリサとすずかは湯飲みを置き、士郎を見つめる。

 リインフォースもある話があるからアリサ達が来ることしか聞いていないので、士郎の話の内容は知らない。
 そのため、アリサとすずかと同じく士郎に視線を向ける。

「今日来てもらったのはアリサとすずかの素質についてだ」
「素質って、私とアリサちゃんが、なのはちゃん達みたいな魔法使いになれるって事?」

 すずかの言葉に士郎は首を横に振る。

「アリサとすずかは、なのは達のような魔導師は難しいと思う。
 なのはがユーノと会った時、なのははユーノの声を聞いたらしいが、二人は聞こえていないようだしな」

 士郎の言葉にやっぱりとわずかに肩を落とす二人だが

「だが……それだと説明がつかないことがある」

 最後の一言に首を傾げていた。

「俺やなのは、フェイトの正体の知るきっかけになった事を覚えているか?」
「きっかけって、あの結界とかいうのに私とすずかが取り込まれちゃったアレでしょ?」
「そうだ。
 あの時に張られた結界、封鎖領域に魔導師でもないアリサとすずかが取り込まれてしまった。
 当然、アリサとすずか以外の人達は取り込まれていない。
 だが二人はさっきも言ったように魔導師の素質は難しい。
 ならば魔導師の魔力の源であるリンカーコアではなく、魔術師としての魔術回路があるために結界に取り込まれた可能性が高いと俺は思っている」

 目を丸くして驚くアリサとすずか。

 実を言えば、士郎はこのことに最近思い至ったのではなく、二人が結界に取り込まれた時から考えていた。
 しかし、士郎が行動に移さなかった理由は二つ。

 一つは魔術師の管理局での立場である。

 管理局が持つ魔導という技術に新たに見つかったとされる魔術。
 互いに不可侵という約束だけで新たに魔術師が見つかれば、約束を反故にし強硬な手段に出ないという保証はない。

 だが士郎が嘱託ではあるが、管理局の中に入っている。
 管理局にすれば魔術を知るチャンスであると同時に未解明な技術が内部にあるというリスクを伴っている。
 そして、管理局に被害を与えるだけの実力を士郎は持っている。
 それが故に強硬な手段の抑止力になる。

 二つ目は二人の意思の問題である。

 魔術師が見つかれば管理局は勧誘なり、何かしらの動きがある。
 当然、アリサとすずかに魔術回路があるとわかれば、管理局は行動を開始するだろう。

 二人が非日常の世界に足を踏み込むというならば管理局で嘱託なりの形で、知識を与え、守れば良い。
 だが、二人が今の日常を望むのならば、管理局へ二人の魔術回路の情報を遮断しなければならない。

 そのためにも管理局が間違っても二人の情報を手に入れることを防ぐ必要がある。

 だからこそ今日まで士郎が行動を移すことはなかったのだ。

「だから二人のことを調べさせてほしい」
「……もし魔術回路があったらどうするの?
 私達も管理局で一緒に働くの?」

 アリサの言葉に士郎は首を横に振る。

「二人の未来だ。
 素質だけで決めさせるようなことはしない。
 管理局に所属するもよし、素質を伸ばしながら今の日常を送るもよし、魔術に関わることなく今まで通りの日常を送るもよし。
 好きに選択をしてほしい。
 どちらにしろ魔術回路の有無を調べてからだが」

 二人は覚悟を決めたように静かに頷く。

「肩の力を抜いて楽にしていてくれ」

 二人の後ろに回り、はじめにアリサの背中に手をあて、解析を行う。

(予感は当たっていたな。
 やはり魔術回路がある。
 本数は一、二、三……二十か。
 アリサの両親も魔術師ではなかったが意外と多いな)

 意外なほどアリサの魔術回路の多さに内心驚きながら、続いてすずかの背中に手をあて、解析を行う。

(すずかは一、二、三……十七。
 アリサよりは少ないが魔眼持ちか、さすが吸血鬼、夜の一族だな。
 こうしてみると魔導と魔術の違いはあれど特殊な素養を持つ者同士惹かれあったところもあるのかもな)

「もういいぞ」

 士郎はすずかから手を離し、椅子に座りなおす。

「予測通り、二人とも魔術回路を持っていた。
 だがこの前話した通り魔術にはかなりのリスクを伴う。
 その上で聞きたい。
 二人はどうしたい?」

 アリサは士郎の言葉にすずかの方へ視線を向けると、同じタイミングでアリサに視線を向けていたすずかと視線があう。

(お互い、覚悟は出来てるわよね)
(うん、士郎君の話を聞いた時から)

 アイコンタクトで言葉を交わし、頷きあい

「覚悟なんてあんたの話を聞いた時にとっくにしてるわよ。
 私はあんたについていく。
 絶対に置いて行かせたりしないんだから」
「私もだよ。
 もう覚悟は出来てる。
 士郎君についていくよ」

 アリサとすずかの揺らぎや迷いのない真っ直ぐな瞳。

(この瞳をした女性に勝てた記憶がないな)

 元の世界でも真っ直ぐ揺らぎのない強い思いを秘めた瞳で見つめられたことがあった。

 あの時、士郎はその瞳から逃げた。
 だが同じ道は、過ちは繰り返さない。

「ありがとう、アリサ、すずか」

 二人の思いを士郎は静かに受け取る。

「魔術を使えるようになるには準備が要るから年明けに準備しておくよ」
「このことってなのは達には?」

 アリサの言葉に士郎は首を横に振る。

「基礎となる準備ができるまでは管理局にも伝えないから、しばらく黙っていてくれるか」
「了解」
「うん、わかった」

 その後も少し、年が明けてからの話をして

「もうこんな時間だから、迎えを呼ぶよ」

 アリサの執事である鮫島さんを呼び、士郎とリインフォースが二人を見送る。

「士郎。デバイスの件や今回の魔術の件など、かなり予定が詰まっています。
 くれぐれも無理をし過ぎないように」
「ああ、わかってる。
 さあ、俺達も休むとしよう」

 士郎は夜の空に浮かぶ月を見つめる。

 正直に言えば、アリサとすずかを管理局に、非日常の世界に踏み込ませてしまう事にまだ士郎は迷っていた。

「これで……一人じゃなくて、誰かと共に、この選択でいいんだよな」

 この選択が正しいのかなんて答えは当然ない。
 それでも

「最後まであの子たちを信じて傍にいなさい、か。
 そうだな。ついていくといってくれたアリサとすずかを信じて進んでみるよ」

 今度こそ、月に背を向け士郎は屋敷に向かって歩き始めた。
 その背中を月は優しく照らしていた。 
 

 
後書き
更新のために最終チェックしていたのに、下書き状態から公開に変更するのを忘れていたセリカです。

というわけで予定より一日遅れですが。更新です。

さてアリサとすずかの素質の話になります。
原作通り、魔法や魔術関係にかかわらせないことも考えてのですが、sts編あたりの登場回数がほぼなくなってしまうので、魔術師側で参加となりました。

さて更新はこのまま三週間ペースで行きます。
次回は3/9辺りにお会いしましょう。

ではでは 
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