戦国異伝
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第百九十二話 大返しその六
「越前の北ノ庄城まで下がることになる」
「そこまで下がるのも手ではありますな」
明智はここであえて信長に言った。
「出過ぎたお言葉ですが」
「いや、その通りじゃ」
信長は明智のその言葉をよしとした、そのうえでの言葉だった。
「それが一番安全じゃ」
「北ノ庄まで下がることも」
「あの城は完成しており籠城すればまず安心じゃ」
例え上杉謙信が攻めて来てもというのだ。
「大きな城じゃ、兵も多く入れられるしな」
「しかしですか」
「うむ、ここはあえてな」
「金沢まで進み」
「あの城で守ってもらう」
「加賀自体を」
「そうじゃ、猿夜叉にしか頼めぬ」
このことはというのだ、上杉を相手に守ることは。
「ここはな」
「では」
「うむ、猿と小竹は山陰に進めている兵達を連れて安土まで戻る」
そしてだった。
「猿夜叉は浅井の家臣達と共に早馬で金沢城まで進み」
「そこで北陸の兵を集め」
「上杉を防ぐのじゃ」
そうせよというのだ。
「北陸はこれで止める」
「そして、ですか」
「まずは武田じゃ」
彼等だというのだ。
「安土まで急いで戻りじゃ」
「そうしてですな」
「岐阜から尾張、そして」
ここでだ、信長は一旦言葉を止めた、そのうえで再び言うこととは。
「そこから三河に入りじゃ」
「徳川殿をですな」
「お助けしますな」
「武田は前と同じじゃ」
先の戦の時と、というのだ。
「まずは竹千代を攻めて来るわ」
「そして横腹の憂いを絶ち」
「そのうえで我等ですな」
「領内には入れぬしな」
それに、というのだ。
「徳川家も滅ぼさせぬ」
「だからこそ急ぎ、ですな」
「安土に戻るのですな」
「爺は岐阜に移ってもらう」
平手はそこだというのだ。
「そこで武田に備え我等が武田と戦う時は兵糧等を送ってもらう」
「岐阜より」
「そうしてもらいますか」
「うむ、そして毛利との和睦が成ったが」
しかし、と言うのだった。
「万全の安心は出来ぬ」
「その毛利の備えもですか」
「必要だと」
「三郎五郎に早馬を送れ」
信広、彼のことも言うのだった。
「大坂から姫路に移ってな」
「そこで、ですか」
「毛利への備えをですか」
「それに当たらせる、備前の宇喜多もな」
彼もだというのだ。
「備えさせる」
「そうしてですか」
「毛利の動きを封じ」
「そうして我等は東に向かう」
「そうしますか」
「後ろに何かあってはまずい」
それ故にというのだ。
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