戦国異伝
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第百九十二話 大返しその二
「このわたくしが懲らしめ」
「そうして、ですな」
「武田と共に」
「わたくしの両腕として天下を治める力となってもらいます」
謙信もこう言うのだった。
「甲斐の虎もまたあの資質を正しく使ってはいませんが」
「幕府に逆らう二人の奸臣を懲らしめ」
「能臣としますか」
「公方様も戻って来て頂きます」
謙信もまた義昭を忘れてはいなかった、幕府も。
「そのうえで、です」
「天下を正す」
「そうされますな」
「その通りです」
こう家臣達に言うのだった。
「そしてその用意は出来ました」
「さすれば今より」
「都に」
「出陣です」
謙信も高らかに言った。
「これより天下を正す戦をはじめます」
「はっ、さすれば」
「我等も」
謙信もまた五万の大軍を率いて上洛をはじめた。上杉の黒い軍勢もまた動いたのだった。
彼等の動きはすぐに小田原にも伝わった、氏康はそれを聞いて静かに言った。
「武田二十四将、上杉二十五将もじゃな」
「はい、全てです」
「出陣しました」
二十八将達が氏康に答える。
「織田に向けて」
「戦を挑みに行きました」
「遂に、ですね」
「両雄が動きましたね」
「そうじゃな、しかしじゃ」
ここでだ、氏康は言うのだった。
「この戦それでは決まらぬ」
「武田と上杉の出陣だけで」
「決まりませぬ」
「それは、ですか」
「まだ、ですか」
「織田も愚かではない」
それで、というのだ。
「すぐに兵を戻しな」
「毛利との戦は」
幻庵が氏康に問うた、甥である彼に。
「どうなるでしょうか」
「叔父上はどう思われるか」
「織田が勝ちまする」
そうなるとだ、幻庵は氏康にまずはこのことから話した。
「そしてそのうえで」
「東に兵を送り」
「おそらく武田も上杉も幾ら攻めても」
例えだ、どれだけ上手くいってもというのだ。
「金沢城や織田の盟友徳川家は容易に抜けぬでしょう」
「そこで足止めを受け」
「織田の主力が戻り」
「あらためてじゃな」
「戦になります」
こう氏康に言うのだった。
「本格的な」
「織田と武田、上杉の」
「それぞれ」
そうなると言うのだ。
「兵の数では織田が有利ですが」
「兵の強さでは武田、上杉が上」
「予断は許しませぬ」
つまりどちらが勝つかわからないというのだ。
「どの家も将帥が揃っていますし」
「それ故に」
「三つの家で勝ち残った家が天下を握りますが」
「どの家かはわからぬか」
「はい、そして我等は」
北条家はというと。
「天下を望んでいませぬ故」
「望むのはあくまで関東」
そこを握ることだった、それが北条家ひいては氏康の狙うものだった。それはかなり達成されてもきている。
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