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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第十話  魔術サイドとの邂逅

「貴方はいつもそうなのですね」

 学園都市の正門前で待つこと1時間ほど、その間に土御門さんから義妹の良さについて延々と聞かされていたのだが、横からそれをさえぎる声が聞こえた。

「ねーちん、元気そうで何よりだにゃー」

 土御門さんが親しそうに挨拶をする。当然、相手は予想通りの神裂さんである。その後ろにはタバコをふかしている不良神父ことステイルも居る。

「ええ、貴方も元気そうで何よりですが、そちらは?」

 神裂さんが俺のほうをちらりと見やる。

「ああ、紹介するぜい。学園都市内での俺の仲間になった、神代騎龍だ」

「初めまして、神代騎龍です。よろしくお願いします」

 土御門さんに紹介されて、神裂さんとステイルに向かって挨拶をする。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むよ」

 神裂さんは丁寧に挨拶を返してくれたのだが、ステイルはなんか見下(みくだ)しているような感じで挨拶を返してきた。まぁ、身長差がかなりあるので物理的に見下(みお)ろされてるのも要因の一つかもしれないが……。

「これからねーちん達の活動拠点に案内するにゃー」

「分かりました、お願いします」

 土御門さんがそのまま正門ゲートのほうへ歩き出すと、神裂さんやステイルがついて行く。俺はその3人の後をゆっくりと歩き出す。

 神裂さんとステイルの手続きは高々数分といったところで、俺と土御門さんも身分証の提示のみで手続きは終了した。

「それじゃあ、出発するぜい」

 車に全員が乗り込み、土御門さんがそう言うと車は静かに動き出した。どうやら運転手の人も気をつかって運転しているようだ。走り出してから30分ぐらい経っただろうか、途中高速道路なども使いながら到着したのは近代的ビルの建ち並ぶ場所だった。俺に分かるのはここが第7学区ではないということぐらいだ。

「こっちだぜい」

 土御門さんが入っていくのはその近代的ビルの一つ、とてもアパートとかマンションといった類のものではない。中にはロビーやフロントのような場所も見受けられるが、かといってホテルというにも印象が全然違う。この雰囲気をどう伝えればいいのか分からないが、あえて言うならば『アンダーグラウンドなオークション会場の入り口』というのが俺のイメージでは一番しっくりくると思う。

 俺がキョロキョロと中を見回している間に、土御門さんはフロントで黒服の男性と話をしていた。土御門さんが二人を紹介したらしく、黒服の男性は二人にカードのようなものを渡している。

「こちらがカードキーとなっておりますので、無くさないようにしてください」

 黒服の男性が二人に説明しているのが聞こえてくる。

「それではお部屋にご案内させていただきます」

 黒服の男性が歩き出すと三人がそのままついていくので俺も慌てて後を追う。エレベーターホールで三人に追いつき、エレベーターが来るのを待っている時、何だか後ろから視線を感じたのだが、振り向いてみても付近には誰も居なかった。

「そいつも俺の連れだぜい」

「そうでございましたか」

 後ろの方に気を取られていたので気付かなかったが、どうやら黒服の男性は俺のことを『迷子の子供』だと思って帰らせようとしていたようだ。

 エレベーターで6階へ上がり、曲がり角の多い通路を歩き、一番奥の扉の前に到着した。

「こちらでございます」

 ホテルと言うには部屋の配置とかがおかしいような気もするが、やはりホテルということなのだろう。カードキーで部屋の鍵を開け全員が中に入ると黒服の男性が「それでは、ごゆっくりどうぞ」と言って出て行った。っつか、あの黒服、どう見てもSPかマフィアにしか見えない。

「すげぇ」

 思わずつぶやく。部屋の中は何というか……豪華で広かった。政治家とかが会談を行い握手しているのを撮影する場所みたいだ、と言えば分かりやすいだろうか。学校の教室よりはもう少し広いだろうという部屋で、下の絨毯もかなりふかふか、中央に置いてあるテーブルは(けやき)の一枚板だろうか、その両側には長くて大きなソファーが置かれていて、上座である一番奥のソファーは一際高級そうに見えた。

「さて、このサロンをねーちん達の活動拠点にしてもらうにゃー」

 土御門さんがそう言いながら長いほうのソファーに座った。って、ここはサロンだったのか……いや、それ以前にサロンってどういったものなんだろう。日焼けサロンっていうのは聞いたことがあるんだけど……。

「こんな場所を用意してもらって本当に良かったのですか?」

「もちろんだにゃー」

 神裂さんとステイルは土御門さんが座った反対側のソファーに座った。

「神代も座るといいぜい」

「あ……はい」

 土御門さんに言われて俺も土御門さんの隣に座る。

「それじゃー、改めて紹介するぜい。魔術師のステイルと……」

「おいっ! 土御門!!」

 さらりと魔術師発言した土御門さんを慌ててステイルが制止する。

「大丈夫だぜい、こいつは魔術の方面も知っている」

「そ……そうなのか?」

「はい。とは言っても、……こちらの魔術に関してはこの前聞いたばかりですが」

 ステイルに聞かれて答えるが、一瞬「この世界の」と言いそうになってしまった。まぁ、ごまかす必要はないのかもしれないが……。

「で、こっちのねーちんが聖人だにゃー」

「成人? あー、ちょうど二十歳(はたち)ってことですか」

 いきなり聖人を理解してるのもおかしな話だと思ったので、取り敢えず当たり前にボケてみた。

「わっ……私はまだ十八歳だっ!」

「あ、そうなんだ」

 パッと見では二十代半ばぐらいだと思っていたので、逆にビックリだった。

「簡単に説明すると、聖人っていうのは、生まれた時から凄い能力を持ってる人のことだにゃー」

「そういうことですか」

 一応、土御門さんのざっくりした説明に納得しておく。

「しかし土御門、この少年にどうして魔術のことを教えたんだい?」

「そうです土御門、学園都市の人間に魔術のことを教えるなどと、何を考えているのですかっ!」

 ステイルの発言を切っ掛けに、神裂さんはテーブルの上に片膝をついて土御門さんに詰め寄った。

「ま……待つにゃー。こいつも一応魔術師なんだにゃー」

 二人に追い詰められてか、土御門さんがいつも以上ににゃーにゃー言ってるような気がするなぁ。

「本当ですか?」

 土御門さんに詰め寄っていたこともあって、こっちを向いた神裂さんの顔はちょっと怖かった。

「ええ、まぁ」

「だが、能力開発を受けると魔術はほぼ使えないだろう?」

 俺が神裂さんに答えるとステイルが確認してきた。

「しかしこいつの魔術は使えるんだにゃー」

 俺の代わりに土御門さんが答える。

「どういうことですか?」

「アレイスターが言っていたんだぜい。こいつの使う魔術は俺たちの魔術とは成り立ちが違うんだとさ」

 詰め寄ったままの神裂さんに、アロハシャツの胸元を掴まれたままで土御門さんが説明する。

「成り立ちが違う? 確かに色々な魔術の形式は存在しているが、能力開発を受けても魔術が使えるという形式は、まだ発見されていないのではなかったのかい?」

 ステイルがタバコに火をつけながら尋ねる。学園都市正門前で出会ってから今までに多分一箱以上は吸っているのではないだろうか。

「それがだにゃー……まー、何というか……」

「この世界の中で言えばそうなのかもしれません。ですが俺は別の世界から来た次元転移者なので、使えるのはこの世界の魔術ではなく別の世界で覚えた魔法や魔導や魔道なんです」

 土御門さんが言いにくそうにしていたので、俺が二人に説明する。土御門さんがそこまでしゃべったということは、少なくともアレイスターの前で言ったことぐらいはしゃべっても大丈夫ということだろう。

「なっ!」

「本当ですかっ!?」

 普通に考えればどう見ても頭のおかしいいわゆる『電波』な発言をした俺に、信じられないという感じの視線を向ける二人。

「ああ、恐らく嘘ではないと思うぜい。俺も最初は半信半疑だったんだが、実際本当に目の前で魔法を使って見せられたからにゃー」

 そんな二人に土御門さんが説明したのだが……、それって絶対あのライティングの魔法のことだよね。まぁ、確かに、土御門さんの『目の前で』魔法を使って見せたんだけど……。

「そういうわけで」

「なっ!!」

 俺は超能力を使って、テーブルの上に居る神裂さんを持ち上げ、そのままソファーに座らせた。

「今のが超能力です。能力としてはサイコキネシスのレベル4、一応重量で言えば1tぐらいのものまでは持ち上げることができますよ。それで次に魔法ですが、土御門さんに見せたのと同じやつでいきますね」

 そう言うと俺は土御門さんにアイコンタクトし、両手を胸の前あたりで合わせた後、両方の掌をそれぞれステイルと神裂さんに向けた。

「ライティングっ!!」

 対象は俺の両方の掌、土御門さんに向けた時はちょうど50%に威力を落としたライティングだったが、今回は片方に50%ずつ振り分けたので持続時間ゼロの最大光量で発動させた。

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

 どうやら二人ともまともに見てしまったようだ。以前の土御門さんと同じで、しばらくは視力が戻ってこないだろう。しかし、神裂さんの「きゃっ!!」という悲鳴が聞けたのは、もしかしたらなかなか聞くことができないレアな経験かもしれない。そして土御門さんはちゃんと目をつむっていたようで、俺のほうを見ながらニヤニヤしていた。

「な……何てことするんですかっ!!」

 先に声を上げたのは神裂さんだ。なんだか反応が土御門さんの時とほぼ同じような気がする。まぁ、土御門さんは語尾が「にゃー」だったはずだが。

「それが神代の魔法だにゃー」

 まだニヤニヤしながら土御門さんは二人を見ていた。

「いや、さすがにこのビルが消滅してしまうような魔法を使うわけにはいかなかったので、取り敢えず俺の使える無害で分かりやすい魔法を使ってみたんですけど」

「なにっ!?」

「なっ!」

「ちょ……ちょっと待て! このビルが消滅するだとっ!? そんな魔法まであるのか!?」

 俺の言葉に全員が驚いていた、その中で俺に確認をしてきたのは土御門さんである。本当に驚いているらしく、いつもの言葉遣いではない。

「あー、ちょっと言い過ぎました。でも2~3発あればこのビルぐらいは消滅させられると思いますけどね」

 と、訂正を入れてみたのだが実は嘘である。本当はこの学園都市くらいの大きさならクレーターにできる魔法が存在するのだ。だが、このビル一つでこれだけ驚かれているのだから、それを言うのはさすがにやめた方がいいだろう。

「そうなると土御門、もしかしたら魔術サイドは彼を危険因子と判断するかもしれません。その時はどうするのですか?」

 神裂さんが土御門さんに真剣な表情で問いかける。確かに神裂さんが言うような可能性もあるにはあるのだ。ってか、学園都市をクレーターにできる魔法が使えますなんて言った日には、魔術サイドどころか全世界から危険因子と判断されかねないな、多分。

「さすがに俺もそこまでとは思ってなかったからにゃー。今はまだ考えてないとしか言いようがないぜい。まー元々は、こいつの存在が魔術サイドに知られた時に、学園都市が魔術行使できる人間を隠していたと思われることを避ける為、ねーちん達にこいつのことを知っておいてもらうのが目的だったんだからにゃー」

 どうやら俺の魔法を調べるとか魔術を教えてくれるとか以前の問題で、学園都市側と魔術サイドがぶつかり合わないように、土御門さんも色々と調整を苦労しているようだ。ってか今回、土御門さんに苦労させてるのは俺の存在なんだけど……。

「俺が使っているのはこの世界の魔術と関係ない魔法とかなんですけどねー」

 まさかビル一つを破壊できる魔法だけでこれほどとは思ってなかった為、少し後悔しながらつぶやいた。ビルを破壊すると言えば、三沢塾が魔術で攻撃された時って、魔術を発動させる為に3333人が必要だったんだっけ。それが一人で出来ちゃうとすれば確かに危険因子……というか脅威にはなるな。

「そうだとしても、そういう魔法が使えるお前さんの存在自体を危険因子だと判断されかねないにゃー」

 土御門さんも困ったようにつぶやく。

「けど、その魔法については彼が自分で言っているだけだろう」

「そうですね、確かに私たちは彼がその魔法を使う場面など見ていません」

 意外にも助け船を出してくれたのはステイルだった。神裂さんもそれに続き、土御門さん達の話し合いにより、取り敢えずのところは俺が言っているだけということになった。

「さて、これからは俺とねーちん達で話し合わなきゃいけないことがあるんでな、魔術サイドの問題なんでお前さんには先に帰ってもらいたいんだが」

「あー、はい、分かりました」

 多少大変なことが有りはしたものの、神裂さん達に俺を紹介するという目的は達成している。これから先は多分魔術サイドの関係する話、特にインデックスに関しての話し合いが行われるのだろう。

「あー、それから、運転手は個人的な用事があるから今日はもう車が出せないらしいぜい」

「あら、そうですか。まー、大丈夫ですよ。それでは失礼します」

 俺が扉に向かって歩き出しとところで土御門さんから声をかけられる。しかし、まだ昼過ぎで日も高いから、特に問題はないだろう。

 ビルから外に出てみると結構暖かかった。この辺は来たことのない場所なので、少し通りを歩いてみようと歩き出したのだが、何か気になる気配がいくつか後ろからついてきている。

 気配自体を感じ始めたのはビルの中、ロビーを歩いている辺りからだったはずだ。その時は、フロントの従業員からも少し不審な目で見られていたので、その気配自体を特に意識はしなかったのだ。しかし、ビルを出てしばらく歩いてもついてきているし、角を曲がったところでもついてきている。ついでに看板の前で立ち止まってみると、その気配も立ち止まる。

 どうやら俺を尾行しているのだとは思うが、この辺は高級そうな店やビルが建ち並ぶ区画で、捲くことも裏路地に誘い込むようなことも出来そうにない。というか、俺にはこの辺りの土地勘がないのだ。

 取り敢えず、俺が尾行される理由というものを考えてみる。俺がこの学園都市に来てからまだ3週間経ってない、知り合いと言えば土御門さんをはじめとするグループの人達と、あとは神裂さんやステイルぐらいのものである。あ、あとアレイスターも一応知ってはいるか。他には黄泉川さんが俺のことを知っているはずで、風紀委員177支部の面々は俺のことを郵便局強盗の被害者の一人として知っているかもしれないが、会話をしたこともないし知り合いになったというわけではない。逆に会話をしたことはあっても、ファミレスとかコンビニの店員やセブンスミストの店員は、知り合いという範疇に入らないだろう。

 今挙げたメンバーの中では黄泉川さん辺りが一番可能性が高いだろうか、とはいっても生体データ識別反応では該当者が居ないので、黄泉川さんだとしたら何かで俺のことを怪しいと思って、アンチスキルの尾行をつけさせたという感じだろう。だが、今のところ俺は暗部としての活動をしていない。というか今日、神裂さんとステイルを迎えに行ったのが初仕事だ。それを考えるとアンチスキルが俺を尾行する理由というのも思いつかない。

 もしかしたら神裂さんやステイルと一緒に居た、ということで尾行されているのかもしれない。そうなると魔術サイドの人間の可能性も出てくるが、神裂さんやステイルに尾行をつけるならともかく、俺にまで尾行をつけられるほど魔術師陣営の人間が学園都市内に居るとは到底思えない。実はかなりの人数の魔術師が学園都市に入り込んでいる、ということがあったりするのだろうか。

 歩きながら30分ぐらいは考えただろうか、結局答えなど出てくるはずもなく、かといって放置するのも気持ち悪いので、俺は行動に出ることにして人通りの少ない道路で立ち止まったのである。
 
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