Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
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縁は連なりて
前書き
最近肩こりがひどい。治し方おせーてー
早苗の着せ替え人形となり、帰宅後に予想通りの歓迎を一身に受けた日から一週間が経過した。
自業自得とはいえ、アクティブな格好に慣れるまでは神社で大人しくしようと判断した結果、多少はマシになったと思われる。
事ある度に諏訪子にはからかわれ、神奈子には同情の目で見られ、早苗に到っては知り合いに見せびらかしに行こうと、何かに付けて私を外に連れ出そうとしてきた。
後悔先に立たずとはよく言ったものだが、早苗に悪意がない以上私が彼女をどうこうする権利はない。
だが、もし次があるとするなら―――その時は目を離さないようにしよう、そう固く心に誓ったことは語るまでもないだろう。
「そういえば最近天狗が紅い外套を抱えて飛び回り、それに関する情報を集めていると風の噂で聞いたんだが―――それはお前の着ていたものではないだろうか」
ふと、居間で神奈子と静かに過ごしていた時、思い出したようにそんな事を言い出した。
恐らく神奈子は、今まで私が人助けをしたと濁していた話題に確信を得ている。
私が助けた存在は、天狗と関わり合いのある存在―――付け加えるなら、天狗社会に近しい存在だと考えている筈。
「………かも、しれんな」
「内容までは掴めなかったが、恩を返そうとお前を捜しているのではないか?」
だが、神奈子はそれを追求しようとしない。
ただの思い違いだったのだろうか。
何食わぬ顔で会話を進めていく神奈子を眺めつつ、疑問を口にする。
「なぁ、その天狗の外見はわかるか?」
「外見か。そもそも天狗は自分達の領地の外への関心が薄い者ばかりだから、外に目を向ける者はかなり限定される。外見的特徴を示さずとも、おおよそ見当はつく。その者は、射命丸文と呼ばれる鴉天狗だろう」
鴉天狗―――ということは、少なくともあの時対峙した本人ということはなさそうだ。
だが逆に言えば、最低一人に私の存在が伝わったということになる。
外套だけ受け渡し、受け取った本人が善意で持ち主に返却するべく奔走している可能性もあるが、それはあくまで希望的観測でしかない。
「その射命丸文とは、名が知れた人物なのか?」
「彼女は新聞記者でな、記事を面白おかしく書くことをモットーとしているらしく、その内容は常にエンターテイメントに溢れている。だが、内容の信憑性に関しては保証できないのが、彼女に対する評価を下げる要因となっている」
「現実とフィクションを織り交ぜている、ということか」
「そのせいで記事の対象となった者は、謂われのない噂を仕立て上げられ、傍迷惑な思いをしていることが殆どだな」
「ふむ………」
新聞記者ということは、ほぼ間違いなく私に対して何かしらの執着を見せている筈。
それが善意か悪意、どちらからくるものなのかは不明だが、面倒なことになりそうだ。
「だが、私は彼女のことは嫌いになれないな」
「ほう、神としては彼女の行動は容認できるものなのかね」
「確かにやっていることは褒められたものではない、が―――彼女は自分の行動に責任を持って行動している。他者に笑顔を与える代償として、別の誰かに恨まれることを理解し、受け入れている。そうでなければ、個人であれだけの仕事量をペースを落とさずに行うなんて無理だ」
「………随分と高い評価を下すのだな」
「幻想郷は、良くも悪くも無責任な者が多すぎる。自由という概念を曲解し、自分の行動に責任を持てない―――いや、行動に対して信念を持ち合わせない者が多すぎる。確かに精神的に解放されているというのは素晴らしいことではある。だがそれを常とし他者と接するにあたり、自分の発言が相手の人生観すら変化させかねないという可能性を考えずに発言してしまう。―――自由になるということは、決して子供になることではないのに」
悲しそうにそう呟く神奈子の表情は、とても印象的だった。
彼女は外と幻想郷の感性を両方理解しているが故に、苦悩している。
集団で生きることがもはや絶対となっている外の世界と、そのようなしがらみとは無縁の幻想郷。
裕福な生活は人間の可能性を縛り、自由な生活は人間性に欠陥をもたらした。
どちらも結果論でしかなく、どちらかが悪いと言われても答えようがない。
環境に適応するのが生物の処世術。
どちらも与えられる最高峰の幸福を目指し、適応を繰り返しているに過ぎない。
時代が変われば人は変わる。それは環境であっても例外ではない。
それがどこまで正しく、間違っているかなんて当事者からすれば重要ではない。
余程変えざる事情がない限り、今の生活を捨てるという考えは起こりえない。
誰だって苦労して生きたいとは思わない。
新しきを追求するということは、必ずしも幸福なことではないのだから。
それを理解した上で、神奈子は苦悩している。
二つの現実を―――いや、それ以上を知る彼女にとって、どちらを肯定し、否定するというのは生半可な決断ではない。
私のように歯車のひとつでしかない存在にとって、その選択はとても軽い。
それこそ、責任が存在しないから。
だが、神という肩書きは決してそれを容認しない。
神とはすなわち、ヒトの為に存在しているようなモノ。
そんな存在が、両方の在り方を肯定してしまえば、結果は歪みとなって現れる。
恐らく彼女は、一生この悩みから解放されることはない。
同時に、私が彼女にしてやれることも―――ない。
それがひどくもどかしく、辛い。
「だから、私は彼女のことが嫌いになれない。その点、麓の巫女は―――いや、君には関係ない問題だったな、聞き流してくれ」
それからも、とりとめの無い会話が続く。
その間、身の振り方について考える。
遅かれ早かれ、射命丸文とやらが執着を捨てない限り見つかるだろう。
彼女がもしあの白狼天狗と明確な繋がりがあるとすれば、報復の手伝いを請け負っている可能性だって捨てきれない。
「―――出かけてくる」
いつまでも閉じこもっている訳にもいかないし、此方から打って出てみるか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―――などと偉そうに言ってみたものの、最後の踏ん切りがつかずにいた。
見つけてもらいたいならば、人間の里のような人の出入りが激しい場所に行くのがもっとも最善といえる。
だが私はそうすることなく、郊外から更に離れた森で当てもなく彷徨っている。
私は一体、何を躊躇っている?
がさり、と私の足音とは別に草を踏む音が鳴る。
徐々に近づいてくるそれに警戒心を高めつつ、さして気がついていない振りをする。
尋ね人であれ此方に牙を剥く存在であれ、此方が気付いていないと判断すれば、目的相応のアクションを起こす筈。
背中から感じられる視線に、僅かに肩を強ばらせる。
しかし、そこから殺気は感じられない。寧ろこれは―――好奇心?
ただ見られているだけで、それ以上は何もしてくる様子はない。
そんな状況に薄気味悪さを感じつつも歩みは止めずにいると、ふとザラつきのようなものを感じる。
まるでビデオテープを一定まで再生し、巻き戻されているような―――そんな錯覚。
まさかとは思うが―――先程から視線を向けてくる者の仕業か。
一切の意図を掴ませず、罠に嵌めるか。だが―――
「―――ッ」
振り向くことなく投影した剣を視線の先へと投擲する。
数秒経っても物音一つしないことに不信感を覚え振り返ると、見当違いの方向に突き刺さっている剣だけがそこにある。
自惚れではないが、間違いなく投擲に失敗したということはない。
ましてや、剣が突き刺さる音がしないなど、ここまで異常が連続すれば嫌でも異常事態だと気付く。
「悪戯はそろそろ止めて貰おう。視覚を歪ませたところで無駄だ。敵意が無いのであれば、結界を解除して意思を示してくれ。そうでなければ―――」
再び剣を投影し、寸分違わぬ方向へと投げつけようとすると、
「ご、ごめんなさーい!」
「もうなにもしないから許して!」
二人の少女の鬼気迫る声色とともに、景色の違和感が解消される。
「………君達の仕業だったのか」
そこには、イリヤスフィールと同じ程度の外見年齢の少女が三人いた。
一人は金髪で赤が特徴的なエプロンドレスを着ており、一人は先程の少女よりも淡い金髪に縦ロールが目につく外見をしており、一人は黒髪ロングヘアーと大人しそうな面持ちの少女。
一見はただの子供だが、背中にある羽のような薄い膜が安易な思考を停止させる。
「何故、あんなことを?」
「そ、それは、えと………」
此方の機嫌を伺い、言葉を濁すエプロンドレスの少女。
怒られるのが怖いのならばやらなければいいのにと思いつつも、子供のやることだと納得し、少女を宥める。
「別に怒る気はないから安心していい。包み隠さず話してさえくれれば、だがな」
「………アンタが悪いんだもん!そんな変な格好しているから、面白くなってちょっかい掛けちゃったんじゃない!」
吹っ切れたと言わんばかりに発せられた言い訳は、どう返答すればよいか困るものだった。
これが大の大人の発言だったならば、皮肉のひとつも言い返せるのだが、相手は子供。
そんな大人げない真似ができよう筈もなく、ただ彼女たちの言い分に流れを任せるのみであった。
「それは―――なんというか、すまなかった」
「え――――――」
黒髪の少女は、その返答がまるで予想外と言わんばかりに呆けた声を出す。
「こちらも言い訳させてもらうが、これは知り合いが私の為に用意してくれた代物でな、それを着ずに箪笥の肥やしになんて人道に反する。違わないかね?」
「………うん」
「まぁ、だからといってあの悪戯が許されるというわけではない。私以外が相手だったらこってり絞られていたかもしれないんだぞ」
「………はい」
「もうこんな悪戯はしないと約束できるか?」
三人とも同時に無言で頷く。
「よし、いい子だ」
その答えに満足した私は、しゃがみ込み三人の目を見つめながら頭を撫でる。
三人の憂いに満ちた表情が、多少晴れたように感じる。
子供は善悪の判断が未発達であるが故に、如何なる行動にも責任を持つことはない。
本能のままに行動し、それが咎められるべきことであれば叱るのは親あるいは大人の役目。
その点において、私の選択は間違っていると言えよう。
だが、子供の戯れを許容する大人だって必要だ。
叱るも放任するも容易いが、それを許すとなると一筋縄ではいかない。
彼女達がいつまで私の言いつけを覚えていられるかは定かではないが、言えばきちんと話を聞いてくれる辺り、根が素直なのは明白だ。
ならば諭すように言い聞かせたとしても、何も問題はない。
―――などと自分に言い聞かせているが、本音を言えば私が子供を叱れるほど高尚な人間ではないからと、逃げているだけに過ぎない。
「では私はもう行くが、くれぐれも迷惑を掛けることはしないようにな」
それだけを告げ、その場を立ち去る。
精神的に疲労が溜まったが、おかげで心は神社を出る前と比べ穏やかになっていた。
こんな風に穏やかな時間がいつまでも続けばどれだけ良いことか。
だが、それが叶わないことは充分理解している。
正義の味方という在り方に未練を残したままでは、意識せずともいずれ争いに身を投じることになるのは確定だろう。
それを吹っ切られればどれだけ楽なことか。
生涯を掛けて成し遂げてきたことを屑同然に捨てられるならば、誰も苦労しない。
未練があるということは、比例して執着していたということでもある。
表裏一体に存在するそれのおかげで、ヒトは向上心を得ることができる。
たとえ自分で振り切ったと思っていても、気が付けば目で追っている。
深層心理の根幹に根付いてしまっているものは、生半可なことで払拭することはできない。
ましてや人間と妖怪という、古来から水と油とされていた種族が併存する世界にいて、争いと無縁だなんて有り得ない。
「どうやら私の幸福とやらを見つけるのは相当骨のようだぞ、凛」
誰ともなく呟き、快晴の空を仰ぐ。
ふと口元を指でなぞる。
そこには確かに、笑顔の輪郭があった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
奇抜な格好をした白髪の青年と別れ、妖精達はどこでもなく歩き出していた。
「………優しかったね、あの人」
エプロンドレスの妖精―――サニーミルクが余韻に浸るように呟く。
「うん、妖精である私達に謝った人間なんて、初めて見た」
縦ロールの妖精―――ルナチャイルドがそれに頷く。
幻想郷における妖精の扱いは、おおよそ知的生命体に対する正統な人権どころか、生物としても下に見られている傾向にある。
その要因に一役買っているのが、妖精は肉体的に死を迎えても復活するという希有な特性にある。
大元となる自然から現出し、それが消滅しない限りは死ぬことはない―――即ち、不死。
死なないから幾らぞんざいに扱おうとも心が痛まない。
流石にそれは極論かもしれないが、邪魔だから攻撃を仕掛けられたこともあれば、観賞用に捕らえられたりなど、そう思わせる行動を取る者がいる事実に偽りはない。
妖精としては巨大な部類に入る彼女達の身長は、小児程度はある。
外見も幼女相応のあどけなさが残り、羽さえなければ人間と見分けがつかない程。
しかし、妖精という肩書きひとつでヒトは残酷になれる。
同じ外見でも、妖精なら気兼ねなく暴力を振るえるという風潮が、そこには確かに存在する。
言うなれば、人間や妖怪にとって妖精は羽虫と同じなのだ。
知覚範囲外であれば気にも留めず、視界に入り邪魔と判断すれば平然と叩き潰される。
そんな不条理を事あるごとに受けてきた彼女達が、彼の青年へ受けた優しさに過敏に反応するのは、ある意味当然の出来事であった。
「撫でられたとき、凄くぽかぽかした気持ちになったんだ。なんて言うか、満たされているって言うのかな?お父さんがいれば、あんな感じなのかな」
「それよりも兄の方が近いと思うけど、それには同意するわ」
青年の話題に花を咲かせている間、黒髪の妖精―――スターサファイアは静かに青年の姿を思い返していた。
彼女もまた青年の優しさに心打たれた一人ではあるが、それを上塗りする不信感が渦巻いていた。
それには、彼女が青年へ悪戯を掛けた際に使用していた能力―――動く物の気配を探る程度の能力が関係している。
彼女の生物を探知する能力は、対象の持つ根源的な力の量によって判別される。
普段はこの能力を用いて強者と接触することを避けていたのだが、今回はリーダー的立場のサニーミルクが、彼の奇抜な外見を見て好奇心を刺激されてしまったせいで、近づいては駄目だと説得したにも関わらず接触を許してしまったのである。
結果として良い方向に転んだから良かったものの、好奇心や悪戯心から報復を受けるのが当たり前なのに、懲りないなとスターサファイアは嘆息する日々である。
話を戻すが、青年から湧き出ていた力は、今まで感じたことのない奔流を起こしていた。
妖怪とも互角以上に渡り合える博霊の巫女とも、妖怪の賢者と謳われる存在とも違う。
圧倒的ながらも他の生物とは異なる〝何か〟を、彼の内側から感じ取っていた。
その未知の感覚に抱く恐怖と、青年の持つ優しさとの板挟みにより、友人二人のように素直に好意を受け取れずにいた。
「―――スター、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
心配そうに顔を覗き込んでくるルナチャイルドに、スターサファイアは笑顔で対応する。
能力に頼って得た感覚と、直接接して感じた感覚。
どちらを信用すればいいのかがわからず、二人に気付かれないように頭を抱える。
「でも、あの人の言うとおりもう悪戯はしないの?」
「ううん、続けるよ?」
「え、でも―――」
「別に約束を違えるつもりはないよ。迷惑とは思われない―――それこそ自然災害のような証拠を残さない悪戯なら、あの人の言った迷惑の定義からは外れるんじゃない?」
「それってどうなの?バレなきゃ犯罪じゃない理論を地で行ってるようなものじゃない」
「いいのいいの!だいたい私達が悪戯を止めたところで、他の妖精がそれを止めないなら私達が馬鹿みたいじゃん。それに―――」
「それに?」
サニーミルクが両の人差し指を付き合わせ、もじもじしながら呟く。
「―――こうしていたら、またあの人に会えるかもしれないじゃん」
「………ああ、そう」
ルナチャイルドがげんなりした表情で呟く。
サニーミルクの蕩けた表情を見て、察する。
ああ、これは間違いなく彼に好意を抱いているな、と。
感覚としては、吊り橋効果と似ている。
不安から安心へと感情が相転移したことで、通常より対象への評価が軒並み上昇したのだろう。
まぁ、一時の気の迷いみたいなものだから、大して気に留める必要はないと思う。
「そうと決まれば、私達の能力をもっと研究して、バレないように練習しよう!」
「………やる気みたいよ、スター」
「そうだね。………でもまぁ、バレない練習ってのは悪くないかもね」
サニーミルクは光を屈折させる程度の能力、ルナチャイルドは音を消す程度の能力を有している。
そこに先程のスターサファイアの能力を併せれば、驚異的な隠密性を発揮することができる―――のだが、妖精特有の小児並の記憶野のせいでそれを十全に発揮できずにいた。
だが、今回の件で少しは改善するかもしれない。
そうすれば危険回避率も向上する。良いことずくめだ。
「ほらほら、作戦会議するから一旦家に帰るよー!」
いつの間にか遠く離れたサニーミルクが、手を振り移動を促してくる。
その活力に呆れながらも、彼女の後に続いた。
後書き
今回の変化~
悪戯三月精と迷い足の騎士→縁は連なりて
三月精とシロウが互いに名前を知らない。
名前を聞くような雰囲気とは思わなかったので。
サニーがシロウに惚れた。
本当に恋なのかは不明ですが、三月精の中で一番シロウに好意を抱いているのは彼女です。そこからルナ>スター って感じかな。
幻想郷の妖精の立ち位置を掘り下げました。
残酷に書いているようにも見えますが、ぶっちゃけ原作でもこんなもんでしょ。ぼかしているだけで。
単語用語シリーズ、はっじまっるよ~
最近投稿間隔が私らしからぬ速さなので、ネタが追いついていないのは秘密。
根幹
意味:物事の大もと。ねもと。中心となるもの。
根と幹って意味もあるけど、文字通りすぎて表記する必要性が………。
~の根幹に根ざす、って使い方が主。ルーツとは意味合い違うのかな?根源だし。
天を仰ぐ(てんをあおぐ)
意味:嘆いて、神に訴えるように顔を上方へ向ける。
明確な説明が難しいなぁ。よく使われるけど。
立ちすくむ、とは類語。雰囲気的には、脱力した感じでやる動作かな?
紹介なのに紹介じゃない。自分でもよくわかってない。
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