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艦隊これくしょん  History Of The Fleet Girl's Wars

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呉鎮守府

風が吹き付ける。
 日焼けした窓枠から見えるだんだんと黄昏どきを迎えつつあったその水平線上に6つの影が見える。
 「今日も勝ったかな・・・」
 タバコを燻らす男が一人、誰にともなくつぶやいた。

 「艦隊、帰投しました」
 数分後、六名が男の部屋に入ってきた。今、発言したのは落ち着いた雰囲気を持った、青い弓道着を思わせる服装に落ち着いた雰囲気の黒髪を結わえた女性である。
 「ご苦労様、加賀。報告はあとでいい。とりあえず、休憩がてら補給を済ませてくれ」
 「了解しました」
 一礼の後、加賀達が回れ右をして部屋から出て行った。と、全員がそうはいかずに
 「テートク、久しぶりね!」
 「ぶっ」
 巫女のような服装の活発そうな、少しなまった日本語の少女が男に抱き付く。その威力は致死量を持っており、肺の空気をすべて吐き出させた。
 「アレ?テートク、大丈夫?」
 「し、死ぬ」
 「金剛姉さま。提督死んじゃいますよっ」
 同じ服装をしている眼鏡をかけた理知的な少女が止めに入る。
 「oh、すまないデース。テートクがうれし過ぎて死んじゃうところでしたか、きづかせてくれてありがとうデース。霧島」
 「あ~、まあ、ええ」
 いつの世も苦労をするのは突っ込みの側である。
 「お姉さま、行きますよ~」
 「oh、霧島。襟首をつかんではいけません」
 ずりずりと引きずられていく金剛であった。
 「にぎやかですね。相変わらず」
 「ま、それがいいとこさね」
 となりにあって、事務仕事をこなしていた赤城が一言呟いた。赤城は愉快そうに目を細めながら言う。
 「とても戦闘後とは思えませんね、さすがは我が鎮守府の第一艦隊」
 「ああ」
 「ところで提督。私もおなかすきました」
 「は~」
 いってこい、というと、ものすごくうれしそうな顔をして赤城が部屋から出て行く。
 「とはいえ、アイツらのおかげで生きてられるんだ。まったく、軍人として締まらねえなあ」
 懐からタバコを取り出しながら、提督、峰は呟いた。
 
深海棲艦と呼ばれる謎の生命体による海上遮断は資源の多くを輸入に頼っていた世界中の先進国の国力を弱体化させた。米国により一手に握られていたそのシーレーンはもはや機能してはおらず、完全に深海棲艦のものと化した。その最大の要因は第一に奇襲による深海棲艦による米国第七艦隊の壊滅、そして第二に通常兵器が全く効かないことだった。米国はかつてのモンロー主義を掲げる大統領のもとに、南米各国との連携強化を持ってこの状況で経済力の維持を目指している。
そのような超大国の撤退があったアジアだったが、もう一つの超大国中国は動くことができなかった。深海棲艦による奇襲で中国沿岸の先進地帯は軒並み破壊され、無理な経済政策によって長江をはさんでの南北対立が数百年の時を経て、再燃していた。
一方日本は島国としてシーレーンの回復に全力を注がねばならず、国民が飢え死ぬ可能性さえあった。そんな中、生み出されたのが艦娘である。鋼材などの資材と、かつて大戦時に軍艦として戦った船舶の魂を合わせることによって生み出された。とはいえ、このような兵器概念が日本だけにとどまったのは神道のもと、さまざまな神が肯定されるこの国故でもあった。しかし、峰自身はこれだけでなく、彼女たちはまだ、戦える、国を守りたいと思って深海に沈んでいたからそのような呼び出しにこたえられたのだと思った。
今現在、日本の交易路はかつての三割ほどまでに減ってしまっている。かろうじてASEANとの交易を回復したものの、石油資源などの鉱物資源はかなり厳しい状況である。












第一艦隊が帰還してから3時間余りが経過して周囲は真っ暗闇になった。ここ呉は、最大の軍港の一つとはいっても、東京や佐世保と言った大都市と比べると人の数も少ない。
真夏の夜に、芋焼酎をちびちびやりながら、ホーソンを読んでいると、執務室の扉がノックされる。
「おう、金剛。もう入渠はいいのか?」
さきほど峰の鳩尾に重大なダメージを与えた金剛が、さっぱりした顔をして執務室に入ってきた。だいぶ上機嫌そうである。
「of course! 私があのくらいで長時間入渠なんてしないネー。テートク、それよりもメールネ」
「おぉ、正規空母たちに聞かせてやりたいわ・・・」
手に持っているのは一通の電報である。さきほどまで秘書官だった赤城は臨時の代打で本来は比叡が秘書官を担当するはずだが、今は鎮守府外への使いで出払っているために、高位の艦娘が交代で任を果たしているのだ。
「ラブレターかな?」
プクーと金剛の顔が膨れるのを確認した後に二つに折ってあった電報を開く。中は正式な電報ではなく、海軍省本部にいる同僚からだった。
「こいつあ」
「ぶー・・・」
「まだ膨れてんのかよ!」
だってえ、と金剛が言うが笑って、違うよ、と言うとまた笑顔になる。やはり、笑顔が似合う。
「なんだったんですか?」
「いんや、なんでもない」
 少し考え込む動作をすると金剛が心配そうに、のぞいてくる。
「本当に、デスか?」
「ああ。大丈夫だ・・・。金剛、いつか貸した歴史の本は勉強になったかい?」
「モチロンデース。やっぱりイギリスの歴史はいいネー」
艦娘たちは生前の記憶やらを引き継ぐことはあってもまともに教育を受けたことは無い。自分のところの鎮守府では地域の元教員などを招いて艦娘たちに学校教育をしてもらっている。とはいえ、金剛たち戦艦はある程度の知識はあるので、自分の戦術や語学の本などを貸している。
「この前、貸した本だとマールバラ公か?」
「イエース!」
チャーチルの先祖に当たるマールバラ公は、スペイン継承戦争期の英雄であり、ホイッグの平和を実現するに大きな役割を果たしたイギリスの国民的英雄の一人である。イギリス生まれの金剛は親近感を感じたようだ。
 そんなこんなで、金剛と歴史の話をしているとある程度夜も深まってきたので、金剛を戦艦たちの部屋に返す。呉鎮守府では戦艦たち専用の寮のような宿舎を完備しており、金剛型四姉妹には大きめの部屋が一つ分け与えられている。
「グッナイ、提督」
 遠征明けとは思えない明るさは歴戦の金剛型戦艦の余裕か、頼もしい限りである。
 一人執務室に残され、峰は静かに金剛の持ち込んだ電報を見遣った。

元帥、ソロモン海方面ヘノ攻撃命令ヲ決定スル
作戦名サーモン作戦トス

「忙しくなるな」
 お猪口に残った酒を一煽りして、峰は執務に戻った。


朝である。
鎮守府の朝は、正規空母たちの弓の稽古の音が響き渡る。提督の使いとして、大本営の元帥のもとにいた比叡が到着したのは早朝の5時だった。
海軍元帥のもとへ向かったのは、新たな作戦に関する会議に参加するためであった。呉は東京から遠く、提督が動けばしばらく鎮守府の機能は低下するために比叡が向かったのだ。
「遅くなっちゃいました」
独り言が多いのはやはりさみしいからだ。長旅による疲れよりも姉妹で一緒にいれないことはさみしい。それに元帥から受けた作戦も、比叡の心に重くのしかかっていた。なにより、あの無精ひげのやる気のない提督と一緒にいれないことは、なぜか分からないが自分の心をそわそわと落ち着かせなくさせていた。
「あら、比叡さん。おはよう」
鎮守府の敷地に入って、弓道場は少し歩いたところにあるが、ちょうど比叡は近くまで来ていた。赤城が一練習終えたのか弓道場の外に出ていた。
「おはようございます!」
帰ってきた。とようやく実感がわいてきた。赤城はこの呉鎮守府で航空戦力の主戦力であり、比叡が尊敬する艦娘の一人だ。
「大本営はどうでした?」
屈託なく笑いかけてくれる赤城の顔は、峻烈な訓練で知られる第一航空戦隊の空母の物とは思えないほど穏やかなものだった。不意に、比叡の緊張がすべてほぐれてしまった。
「ひえ~」
思わず、顔がほころんでしまう。自分はやはり、大本営よりもこの鎮守府の人間なのだなあと心の底から思った。
赤城も気の抜けた比叡の声に面食らったようだったが、ふふっと微笑みかけてきてくれた。
「あ、比叡さん。お帰りなさい」
「ただいまですっ」

鎮守府の朝はまだ明けたばかりである。
 
 

 
後書き
Fateを完結せねばならないのに、艦これあげてしまい申し訳ないです。次は、Fateあげますので少しお待ちを。 
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