戦士達
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第四章
第四章
「やっと来たよ。じゃあ戻ろうか」
彼がその手で担架に乗せて助けを借りて運んでいく。そうしながらだ。
彼は俯き泣いていた。その中で運んでいくのだった。
彼等は戦友達を運んでいく。そうして同じことをしているドイツ軍を見た。
肩と肩が触れ合わんばかりの距離で同じことをしている。その彼等を見てだった。
一人がだ。こう仲間達に言った。
「奴等も暗いな」
「ああ、顔は暗いな」
「鏡見てるみたいだな」
「そんな感じだよな」
その彼等を見ての話だった。
「泣いてる奴もいるな」
「ああ、親しい奴か親戚が死んでたんだな」
「そこも同じだよな」
伝令兵と同じくだ。そうだったというのだ。
「本当に同じなんだな」
「敵でも。それはな」
そんな話をしながらだった。彼等はだ。
戦友達を全員運び終えた。中には腕や足がない者もいたがそれでもだった。
全員運び終えてだ。雨の塹壕の中に戻った。そしてその中で話すのだった。
「で、明日からまたか」
「あいつ等と戦うんだな」
「そうなるんだな」
「はい、そうです」
その通りだとだ。伝令兵も答える。
「そうなります」
「だよな。あいつ等も同じか」
「俺達もあいつ等も」
「そうなんだな」
そのことをだ。彼等は強く意識した。
「確かに憎いし殺したいけれどな」
「同じ人間なんだな」
「その同じ人間が憎み合い殺し合ってか」
そうしてだった。
「それで戦友を、戦死した奴等を何とかしたい」
「そう思うんだな」
そうしたことをだ。わかってきてそれで意識してだった。
あらためて敵の前線を見る。その塹壕を。そこでも雨の中で彼等と同じことをしているのがわかる。
それを見ながらだ。彼等はまた話す。
「因果だな、戦争ってのは」
「そうだな。国が違うと戦争してか」
「こうして殺し合ってな」
「顔も知らないのに憎み合うんだな」
雨はさらに強くなっていく。その中でだった。
彼等はだ。こうも言った。
「けれど戦争はまだまだ続くのか」
「何かアメリカまで参戦するっていうけれどな」
「東の方じゃロシアで何かあったみたいだしな」
「色々あるよな」
こんな話が出ていた。前線は膠着していた。しかしそれでもだった。
何かが動こうともしていた。彼等もそのことは聞いていた。
しかしそれでもだ。彼等はそうしたことに深く考えずにだ。今はだった。
「じゃあ夜になったらな」
「ああ、寝るか」
「ここでな」
塹壕の中でだ。休む場所もそこだった。
「全く。雨の中でこうして寝起きするのもな」
「いい加減嫌になるな」
「俺なんか最初で嫌になったぜ」
「俺もだ」
塹壕での生活は碌なものでもない。雨露さえしのげないものだからだ。
そのことにうんざりとしながらもだ。それでもだった。
彼等は休まなくてはならなかった。そこでだ。そして伝令兵もだった。
「私も私の場所に戻ります」
「あんたの塹壕にか」
「そこにだな」
「はい、そうしますので」
こう彼等に言ってだった。敬礼をしてだ。
「ではまた」
「ああ、生きてたらな」
「また会おうな」
彼等も敬礼をしてだ。そのうえで別れた。
塹壕での戦いは続く。そして雨も。彼等はその中で休みそして起き戦い。それが終わる時を待っていた。何とか生きたいと思いながら。
戦士達 完
2011・11・2
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