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権威主義

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第一章


第一章

                      権威主義
 ガムラン元帥はフランス軍の重鎮だ。かつての戦争、あの第一次世界大戦での武勲もありだ。まさにフランス軍にその人ありと言われていた。
 その武勲を考えればだ。これも当然のことだった。
「フランス軍元帥か」
「はい、そうです」
「まあ他に人はいないな」
 イギリスの政治家ウィストン=チャーチルはガムランが元帥になったと聞いてだ。報告をしてきた己の政治的な秘書に対してだこう答えたのだった。
 そして好物の葉巻を吸いながらこうも言った。
「しかしだ」
「しかしとは?」
「フランスに他に人はいないがだ」
 先程の言葉を繰り返してからだ。言ったことだった。
「この人事は失敗だ」
「失敗ですか」
「確かに彼には武勲はある」
 このことは彼も認めるというのだ。チャーチルにしろだ。
 彼はその太った、しかも如何にも今から毒舌を吐きそうな顔でだ。言うのであった。
「しかしそれは過去のことだ」
「昔のことだというのですね」
「今の彼がそうだとは限らない」
「今のガムラン元帥は」
「彼は果たして大丈夫なのか」
 今度は眉を顰めさせてだ。チャーチルは言った。
「あの状況でだ」
「確かあの方は」
「噂だがな」
 こう前置きしてだ。彼は己の秘書に話した。
「病気らしいな」
「はい、顔には出ていないのでわかりらないですが」
「普通は鼻が落ちるのだがな」
 急にだ。話が妙なものになってきた。
「そして斑点だの腫瘍だのもだ」
「顔に出たりしますね」
「手にも出る。それは出ていない様だな」
「では違うのでしょうか」
「梅毒というのは噂かも知れない」
 実はだ。ガムランには不穏な噂があった。彼は梅毒にかかっているのでないかというのだ。この時代ではまず死に至る恐ろしい病である。
「それはあくまでな。しかしだ」
「衰えていることはですか」
「それは間違いないだろう」
 チャーチルはこれは確実とした。彼の衰えはだ。
「一次大戦からもう何年だ」
「二十年です」
「あの戦争が終わって二十年だ。生まれたばかりの子供がだ」
「もう銃を持っていますね」
「それだけ違う。人は成長もすればだ」
 赤子が大人になる。それとは逆にだった。
「衰える。彼はもう歳だ」
「では」
「フランス軍で元帥になれるのは彼しかいない」
 チャーチルはそのうえでさらに言った。己のこの言葉から。
「しかし彼が元帥としての務めを果たせるかどうかはだ。
「それはですか」
「疑問だ。そしてドイツに融和は無駄だ」
 今の国際情勢についてもだ。チャーチルは指摘した。
「ヒトラーは笑顔を向けてもだ」
「それはですか」
「偽りの笑顔だ」
 彼は既に見抜いていた。ヒトラーという男を。
「あの男は必ず己の野心を果たそうとする」
「欧州をその手中に収めることをですか」
「その為には手段を選ばない」
 ヒトラーはそういう男だというのだ。
「戦争でも何でもするだろう」
「ではこれからは」
「そうだな。チェコだけでは済まない」
 今丁度ヒトラーはチェコスロバキアを巡って各国と会談を行っていた。最早チェコがナチス=ドイツのものになるのは確定的であった。
 
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