戦国異伝
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第百九十一話 水攻めその七
「よいな」
「はい、それでは」
「これより」
「ここでじゃ」
こうも言う信長だった。
「毛利を退けたらな」
「間違いなくですな」
「我等の勝ちですな」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「だからじゃ、何としても守れ」
「はい、では」
「その様に」
「鉄砲は使えぬ」
大雨の中だ、信長もこのことはわかっている。
「そして弓矢もな」
「水を吸って、ですな」
「上手く扱えませぬな」
「この二つには頼るな」
こう言うのだった。
「普段とは違いな」
「では、ですな」
「ここは」
「槍じゃ」
長槍、それだというのだ。
「長槍を使え、よいな」
「そうしてですな」
「敵の攻めを防ぐのですな」
「そうじゃ、よいな」
「それでは槍で」
「槍で戦いまする」
「それで勝てる」
まさにだ、その槍でだというのだ。
「臆することはないわ」
「鉄砲や弓矢が駄目でも」
「それでも」
「槍があるわ」
それが、というのだ。
「そして数もな」
「それもですな」
「ありますな」
「案ずることはない」
それも全く、と言う信長だった。
「槍を出して数で防ぐ」
「それだけですな」
「我等がすることは」
「そうじゃ、慌てることなく戦うのじゃ」
こう言ってだ、実際にだった。
織田軍は信長の言葉に応えてだ、実際にだった。
迫って来た毛利の軍勢にその長槍を突き立てた、雨の中それを突き出した彼等にだ、毛利の軍勢はその動きを止められた。
それを見てだ、元春も歯噛みするのだった。
「くっ、また槍か」
「はい、織田家のです」
「長槍です」
兵達も忌々しげにだ、元春に言う。
「あれを前に出されては」
「前に進められません」
「どうしても」
「あの槍を何とかせねば」
「とてもです」
「この雨じゃ」
今も大雨だ、鉄砲も弓矢も使えない。しかし。
槍があった、それでだ。
毛利の軍勢は近寄せられない、それで元就も言うのだった。
「槍もな」
「織田家の長槍ですな」
「あれもですな」
「うむ、厄介であったが」
これまでもそうだった、実際に毛利は織田家の長槍に動きを止められていた。それでその厄介さは知っていた。
しかしだ、今は余計に思い言うのだった。
「この度はな」
「折角鉄砲と弓矢が使えずとも」
「それでもですな」
「長槍がありますから」
「織田家は」
「あの長槍だけでもな」
それだけでも、というのだ。
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