蜻蛉が鷹に
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第十章
第十章
「それならですね」
「アメリカには」
「あの時俺はほんのひよっこだった」
浜尾は敗戦のその時のことも話した。
「蜻蛉だった」
「蜻蛉でしたか」
「あの時は」
「しかし今はどうか」
その今の話をするのだった。話はそこに移った。
「どうだろうな」
「鷹ですかね、今は」
「そうじゃないですかね」
「鷹か」
仲間達の今の言葉にふとだ。目を動かしたのだった。
「今の俺はか」
「ええ、そう思いますけれどね」
「見事に飛びましたし」
「そうか。鷹になったか」
その言葉を受けてだ。浜尾は自然に微笑みになった。
そのうえでだ。彼はこう言うのだった。
「鷹になったとしたらだ」
「ええ、鷹になったら」
「どうされますか?」
「その爪と嘴で国を守るか」
これがだ。彼の考えであった。
「絶対にな」
「そうですね。俺達はその為に空にいますから」
「曲芸のチームでも」
それでもパイロット、航空自衛隊のそれであることは変わらない。ならばだった。
「ですから鷹になって」
「戦いましょう、その時は」
「アメリカにも負けてたまるか」
浜尾はまた言った。
「俺達の国は俺達で守るんだからな」
「その力がありますね」
「今の俺達にも」
「そうですね」
「そうだ、ある」
それは間違いないとだ。浜尾も言った。
「そうなった、やっとな」
「敗戦の時から立ち直って」
「そうしてですね」
「今は」
「ああ、そうだ」
その通りだと言ってであった。そうして。
浜尾はだ。空を見上げた。その青い空をだ。
「あの空は。日本の空は」
「もう一度俺達が守りましょう」
「絶対に」
「長かったがな」
彼は今度はこんなことを言った。その青い空を見てだ。
「それもやっとだ」
「俺達がまた守れるようになった」
「自分達のこの手で」
「後は」
仲間達もその空を見上げていた。そして浜尾はまた言った。
「俺達以外の人達もそう思えば。完璧だな」
「そうですね。日本人全体がですね」
「そう思えれば」
仲間達も彼の言葉に頷く。浜尾は今ようやく自分がその望んでいたものを手に入れたとわかったのだった。あの時なかったものをだ。
蜻蛉が鷹に 完
2011・1・5
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