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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第三十五話 証せ、汝の身命を賭して

/Victor

 ガッ…キィィィンン!!

 競り合いを解く。ユースティアは息一つ乱さず後退した。

 ちっ、さすがは兄さんの娘。侮れない。骸殻レベルやキャリアは私が確実に上なのに、私のほうが押されている。
 スリークォーター骸殻をまとって低く槍を構えるユースティアは、さしずめ獲物の喉に食らいつく寸前の女豹。とんでもない子を育て上げてくれたものだな。恨むぞ、兄さん。

 ユースティアからくり出されたフリウリ・スピアを、槍で逸らしながら避ける。
 恐らくだが、あのフリウリ・スピアには〈鍵〉が持つ〈無〉の力が付加されている。まともに食らえば骸殻を強制解除される。

 向こうでは、アルヴィン、イバル、エリーゼがジランドと、フェイとミラがセルシウスと、それぞれ分かれて戦っている。すぐに援護に行くつもりだったが、目算が狂った。

 この娘相手に気を逸らせば、やられる。
 分かっていたから、目は逸らさなかったのに――消えた!? くっ、どこに……
 風切り音が微かに聞こえた。上か!

 どうやったのか、頭上から降ってきたユースティアのフリウリ・スピアを槍で受け止めた。落下の推力も加わっていて、重い……!
 槍でフリウリ・スピアを弾いた。弾いたユースティアは、猫のようにくるりと一回転してガラス床に着地した。

「これでも回避、得意だから。全部とーさまが教えて、くれた」

 攻撃しても躱される。攻撃されれば躱す。これじゃイタチごっこだ。
 タイミングが早すぎるかもしれないが、決着をつける一撃を投入させてもらう。

 槍を掲げることで形成される、マナで出来た光の槍。エレンピオス人である我々にも唯一使える算譜法(ジンテクス)と言って過言でない。
 その光の槍を間断なくユースティアに投げつける。回避が得意だと言うなら、回避先に放てばいい。このまま封殺する。

 最後に本物の槍にエネルギーをまとわせ、突き通す!

「マター・デストラクト!!」
「くぅ……きゃあああああっっ!」

 ユースティアは後ろに吹き飛び、転がった。その拍子に骸殻も解け、すぐ近くに夜光蝶の銀時計が落ちた。

 私のほうも骸殻が強制的に解除される。切り札を出した時はいつもこうだ。それは同時に、この技でも仕留められなければ詰んだ、ということをも意味する。

 双剣の片方の柄に手をかけつつ、起き上がらないユースティアに歩み寄る。
 ユースティアは……気を失っているようだった。
 つい安堵の息が漏れた。

 許してくれ、どこかの世界の兄さん。貴方の娘を傷つけたことを。
 全力で行かなければ勝てなかった。そのくらいに貴方の娘は強かったよ。




/Alvin

 ガンブレードがぶつかり合う重い音が、遠い。自分の荒い息遣いと汗の感触はこんなに近いってのに。

 やっぱジランド強えわ。これで小者のフリできたとか、マジ人外。霊力野(ゲート)がなくても人間バケモンになろーと思やあなれんだな。

 って、悠長に考えてる場合じゃねえ!

 ジランドの一撃を何とか刀身で受ける。

「ハッ。デカくなったのは図体だけだなァ? アルフレド」
「…っるせ…あんたにだけは言われたくねえ…!」

 ニヤニヤしてるてめえこそ息乱れてんじゃねえか。歳は取りたくねえもんだなあ、ジランド!

「で――っやああああッッ!! 幻、影、刃!!」

 イバルが斜め上から飛来して双剣を揮う。一撃を食らう前にジランドは俺を突き飛ばして離れた。
 双剣が空を切って、イバルが着地する。間髪入れず二撃目――も、上手いこと捌かれた。チッ。

 そこで足元で若草色が光って陣を刻んだ。
 サンキュー、エリーゼ。おかげでちっと体力戻ったぜ。

「ぅおおおおおおおッッ!!」

 真正直に正面突破。大上段から大剣を力一杯ジランドへ叩き落とす。手加減も小細工も無しの力任せ。
 俺の一撃を受け流してガンブレードが火花を上げる。

 ジランドのターン。俺の胴を薙ぎにくるガンブレード。
 同じだけの威力をこめて、バットみたいに大剣を叩きつける。刀身同士がぶつかってまた火花が散った。

「ハァ…ハハッ…兄貴がいねえ義姉さんがいねえって…泣きべそ掻いてたガキが…よ…」

 ジランドの眼もイイ感じにイッちまってる。
 そうだよ。もっと俺の土俵に上がって来い。代わりに俺もあんたを全力で打ち負かしに行ってやる。

 そうしねえと、あんたの言う通り、俺はいつまでも泣き虫のガキのままだ。

 大嫌い、っつったろ? あれな、ただの転嫁だよ。俺がどうやったってなれないモノの総決算があんただったから。ジランド、叔父さん、あんたを嫌うしかなかった。
 でなきゃ、汚れてく自分も堕ちてく自分も耐えられなかった。

 泣き虫な弱虫小僧の防衛機制。
 あんたを嫌うことで、俺は俺の醜さを断罪したつもりになってたんだ。

 ごめんな、叔父さん。

 そんな俺は今日で終わりにする。俺はあんたには到底及ばねえけど、あんたほど悪人になりきれねえけど。あんたほど他人を思いやれねえけど。

 俺、強くなるから。だから帰ろう。母さんもユースティアも連れて、みんなで、俺たちのエレンピオスへ。




/Fay

 セルシウスが氷の針をいくつもわたしたちに放つ。わたしは炎の魔法陣を縦に展開して、ミラさまはイフリートに焼かせて、二人とも氷の針を避けた。

「〈あなた〉は言った! ジランドさんを恨むか受け入れるかは自分の意思で決めたかったって!」
「そのような発言をした覚えはない。私はマスターの精霊だ」
「今のあなたは本当のあなたじゃない!」
「炎よ」

 ミラさま!? フェイ、まだセルシウスとお話してたのにっ。

 イフリートの炎に焙られたセルシウスの傷口から、アイスブルーの光滴がしたたる。

 どうして黒いミラさまは分かろうとしてくれないの? セルシウスは同じ大精霊でしょう?

「イフリート。もう一度だ。次は仕留める」
「ミラさまッ」

 やめて、だめ。まだセルシウス、元に戻ってないのに。セルシウス自身のココロ、取り戻せてないのに。

「だありゃあああああッッ!!」

 この声。アル!

 ふり向く。大剣を大上段から振り下ろしたアルと、その斬撃をまともに浴びたジランドさん。

「マスターっ……く、どけぇ!!」

 うっぷ……すごい寒波っ。雪で前が見えない。冷たくて顔がイタイ。

 寒波がなくなった時には、セルシウスはもうジランドさんのそばに行って、代わりにアルやイバルと戦ってた。

「みんな、セルシウスを殺さないで!」
「分かってらあ!」

 わたしも行ってアルとイバルの援護しなきゃ。エリーと一緒なら回復術も使え……

 がくん。

 っ、ミラさま? 離してっ。フェイ、行かなきゃいけないのに。

「あれはリーゼ・マクシアの人と精霊を害す側に回った精霊だ。何故そこまで庇う」
「害したりしないよ。セルシウスはちゃんとわたしたちのこと守ってくれる。今は源霊匣(オリジン)が未完成だからあんなになってるだけ。元に戻してあげたいの」

 ミラさまに掴まれた手首、イタイ。どうして? わかんない、ミラさまの考えてること、全然わかんないよ。

 その時、向こう側でおっきい音がした。

 パパだ。パパがセルシウスをハンマーで打ったんだ。
 やられたことないから想像だけど、あれ、絶対イタイ。思わず胸が痛くなった。正気に戻すためでも、操られてるだけのセルシウスにあそこまでしちゃった。

「決したか」

 ミラさまがようやく手を離してくれた。

 ミラさまは何の感慨も浮かべずに、倒れてるジランドさんとセルシウスのほうへ歩いて行く。
 このままミラさま一人行かせちゃだめな気がして、わたしも急いで追いかけた。 
 

 
後書き
 タイトルはモロにアルヴィンをイメージしてつけました。
 拙作でジランドとアルヴィンは原作ほど折り合いが悪くありません。ユースティアのおかげで。具体的に何をしたかというと、ユースティアが無理に二人の顔合わせの機会を増やしたのです。 
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