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空の騎士達

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第三章


第三章

「あいつ等は人間じゃねえ。獣だ」
「確かにな」
 これにはアルトマンもハイトゥングも同意であった。ソ連軍の暴虐は彼等も嫌になる程知っていた。皆ソ連軍との戦場である東部戦線に参加していたからだ。そこはまさに地獄であったのだ。
「あいつ等だけはな」
「自分達は解放者だって言ってるらしいがな」
「馬鹿言え」
 ハイトゥングはそれを真っ先に否定した。
「あの連中が解放者なわけがないだろ」
「じゃあ何なんだ?」
「御前がさっき言ったじゃねえか」
「獣か」
「そうさ」
 ハイトゥングはそう述べてまたジョッキの中の訳のわからない酒を飲んだ。
「本当にまだヤンキーの方がましかもな」
「そうだな。ヤンキーもすぐそこまで来てるそうだぜ」
「そうなのか」
 ハイトゥングはそれは知らなかったらしい。それを聞いて目をしきりに動かせていた。
「あいつ等もかよ」
「東と西からな」
「何かドイツがどんどんなくなっていってるんだな」
 その通りであった。東からはソ連軍、西からは連合軍が迫ってきている。それが何よりの証拠であった。第三帝国は今地球から消えようとしているのだ。
「終わりだな、俺達も」
「まだそうと決まってわけじゃないだろ」
 アルトマンがそう言った。
「戦争に負けてもまた戦えばいいだろ」
「そう上手くできるかね」
 しかしそれに対するハイトゥングの言葉は悲観的なものであった。
「ここまでこてんぱんにやられてよ」
「まあまずは生きることを考えようぜ」
 ブラウベルグはここで現実的な言葉を述べてきた。
「話はそれからだ。それでな」
「ああ」
 話が変わった。
「こいつ等は生きてるのか?まだ」
「酔い潰れてるだけさ」
 ブラウベルグとハイトゥングはクルーデンとホイゼナッハを見ながら話をした。
「明日の昼になれば蘇ってるだろ」
「明日かよ」
「そうさ。どうもこの酒が悪かったらしい」
 そう言って今自分が手に持っているジョッキを見る。
「結構いけるんだがな」
「そりゃそんなの飲んだらまずいだろ」
 アルトマンは言った。
「一体何入れてるんだ、そこに」
「色々さ」
 細かいことはハイトゥング自身にもよくわからないものであるらしい。返答は真に要領を得ないものであった。ただ、何種類もの酒が混ざった滅茶苦茶なカクテルであることだけはわかる。
「色々かよ」
「それ以外に言い様がねえな」
「まあこんな御時世だからな」
 ブラウベルグの言葉はここでも達観したものであった。
「飲めりゃいいってわけか」
「飲めるだけましだ」
 ハイトゥングはまた言った。
「まだ生きてるってことだからな」
「どうせなら最後まで生きたいよな」
 アルトマンは表情を変えずにこう述べた。
「最後の最後まで」
「どうかな。何でも戦犯追及までやるんだろ?」
 ブラウベルグは今度はそれを言ってきた。
「ナチスの関係者は全員」
「俺達はナチスじゃない」
 アルトマンはそれをすぐに否定した。それは自信を持ってはっきりと言えた。
「違うか?違わないだろう」
「どうかな。敵にとっちゃ必要なのは事実じゃないからな」
「どういうことだ?それは」
 アルトマンは後ろからの声に応えた。そこには二人の男がいた。
 ヴィーラント=ヘンドリックとヨハネス=シュトラウスであった。それぞれ緑の目と茶色の髪が印象的だ。彼等もまた撃墜数百機を越える歴戦のエースである。そうした意味では今床に転がっているカール=クルーデンもルドルフ=ホイゼナッハも同じなのであるが。
 彼等がこの基地のパイロット達である。歴戦のエース七人。それが基地の戦力の全てであったのだ。もっとも彼等は今将に滅びようとしている帝国の傷ついた鷲であったが。
「だから言ったままさ」
 ヘンドリックは述べた。
「連中はな、要するに正義ってのが欲しいのさ」
「正義か」
「そうさ、まあ俺達は悪者になる」
 ヘンドリックの言葉の響きはブラウベルグのそれよりもシニカルに聞こえる。だがそこには妙な達観まであった。
「それであいつ等が正義になるんだ」
「イワンが正義かよ」
 ヘンドリックの横にいたシュトラウスはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「また奇天烈な話だな」
「勝てば白でも黒になるさ」
 ヘンドリックの言葉がよりシニカルな色彩を強いものにさせた。
「赤旗も正義の旗になるってな」
「そういうものか」
「そうさ。それで俺達は悪者として裁かれる」
「ナチス以外にもか」
「理由は何とでもなるんだよ」
 ヘンドリックはまた述べた。
「上空から一般市民を撃っただの捕虜を虐待しただのな。下手したら階級だけでどれだけ殺したとかあらかじめ決められるかもな」
「馬鹿な」
 だがアルトマンはそれを否定した。

 
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