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戦友

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第六章


第六章

「そういえばそうだ」
「わし等の曾孫は新しい時代に生きるんだな」
「もう戦争は全然関係ない時代にな」
「そうだ。もうわし等の時代じゃない」
 それをあえて言う。まるで自分達の心に刻み付ける様に。
「子供達と孫達、そして曾孫達の時代だよ」
「それを最期まで見たいな」
 アルフレッドの今の心境そのままの言葉だった。
「わしが生きている限りな」
「それはわしも同じだ」
 コシュートも同じ考えだった。だからこそ納得した顔で頷くのだった。
「生きている限りな。見ていきたいさ」
「なあ」
 アルフレッドはそれを言い合った後でまた話すのだった。今度は話は変わっていた。
「わしは今ここにいる」
「ああ」
「メアリーが里帰りするだろ」
「また随分と早い話だな」
「それでもだ」
 言うのだった。
「その時。御前も来い」
「御前の国にか?」
「そうだ。嫌か?」
「いや」
 向こうの言葉につられた感じだったがそれでもだった。実際に別に悪い気はしてはいなかった。
「それはないぞ」
「だったらいいな。これで両方来たことになるからな」
「そうだな。それはな」
「そういうことだ。お互い様だ」
 それをあえて言う。
「お互いの国に来たことになる」
「ああ、そうだな」
 コシュートも彼に言われてそれに気付いた。
「それで。お互い様になるな。本当にな」
「どうだ、それは」
 言ってからまた尋ねる。
「それも悪くないと思うがな」
「いや、悪いどころかだ」
 コシュートはアルフレッドのその言葉を笑って受けて述べた。
「かなりいい。是非そうしたいな」
「そうか。じゃあ決まりだな」
 アルフレッドは笑顔で彼に対して述べた。そこまで聞いたうえで。
「来た時は腕によりをかけて御馳走するぞ」
「御前料理ができたのか」
「女房ができる」
 答えはこうだった。実は彼は料理はできないのだ。
「安心しろ」
「全く。できるかと思って驚いたぞ」
「そういう御前はできるのか?」
「いや」
 アルフレッドの問いに首を横に振るだけだった。
「全く。それどころか鍋を煮たことすらない」
「何だ、何もできないのか」
「御前もそうだろう?」
「まあな」
 コシュートの問いに笑って応える。その通りだったのだ。
「子供や孫は男でも女でもできるんだがな」
「こっちもだ。何かそこも時代が変わったな」
「わし等の頃は男は料理をせんかった」
 その頃はそうだったのだ。料理は家庭においては女の仕事と考えられていたのである。所謂男子厨房に入らずだ。今これを言う人間は存在しない。
「それが当たり前だったからな」
「それも変わったな」
「うむ」
 そのことも言い合う。
「そのことまでもな」
「それでだ」
 話が動く。
「今日はだ。結婚する新郎が腕によりをかけてな」
「御前の孫がだな」
「祝いの馳走を作っておる。式の後でそれを楽しもうぞ」
「それが終わればだ」
 また笑いながら話すアルフレッドだった。
「新婦の手料理が好きなだけ食べられるぞ」
「御前の孫娘がな」
「そういうことだ。さて」
 時間を見れば。丁度いい時間であった。
「行くか、そろそろ」
「そうだな。一緒にな」
 笑顔で頷き合いながら立ち上がる。その二人のところに子供や孫達が集まってきた。二人のそれぞれの子供や孫達が。
「お爺ちゃん、行こう」
「もうそろそろね」
「ああわかった」
「じゃあ今からな」
 彼等もそれに頷く。そして式に向かい。
 新郎新婦の後ろで満面の笑顔で記念写真を撮る。周りには子供達や孫達がいて同じ笑顔を見せている。二人の戦友は今はこれ以上はない幸福の中にいるのだった。何十年もの時を経た再会の後で。


戦友   完


                    2008・3・7
 
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