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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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九校戦編
  第12話 スピード・シューティング

大会4日目で、本戦は休みとなり、新人戦が5日間続く。
今日は僕が出場する、男子スピード・シューティングが午後からある日だ。午前中は、女子のスピード・シューティングに出場する雫と、同じ操弾射撃部の滝川の試合を見ることにしている。



試合を待つ間に考えるのは、昨日の渡辺風紀委員長のこと。肋骨が折れているので、引き上げたあとは、むやみに動かさないことと、脳の出血はなかったので、失神しているだけだろうということで、身体の内部はそこだけであり、あとは多少の外傷があるぐらい。その後の対応は達也がおこなった。僕は救護班が処置に対する、眼として動いていただけだ。

昼食時には、普段持ち歩いている携帯型情報端末に達也からメールが届いていたので、今日のコンディションチェックが終わったら、幹比古、美月と一緒に部屋へ来てほしいとの趣旨の内容が入っていた。幹比古と美月にもメールのコピーが届いているので、行くとの返信をして、幹比古とレオがいる部屋で美月をまって、達也の部屋へ向かうことになった。

達也の部屋には五十里先輩と千代田先輩が居て、達也と五十里先輩の話から、水面の動きの検証をみると、水面下からの魔法で、精霊魔法の疑いが強い。そこで幹比古へ

「遠距離から精霊で、波立たせることができるか?」

との確認をしたり、その推測をもとに、美月や僕に何か目撃していなかったかの確認をしてたが、残念ながら2人ともメガネをかけていたので、何も話せるような情報はなかった。

水面の話と合わせて、七高の選手が減速すべき地点で加速しているのはおかしい、ということで達也が変わったことを言いだした。

「おそらく七高の選手は、CADに細工されたのだと思う」

この話から、一高と七高の優勝候補選手を2人とも排除できる可能性を示唆して、各人の話から七高の技術スタッフに裏切り者がいるか、もっと大胆に

「CADは必ず一度、各校の手を離れ大会委員会に引き渡される」

「あっ……!」

反応できたのは、深雪だけで他のメンバーは絶句していた。僕はその中で可能性を探っていたが、達也が先に

「だが、手口が分からない。そこが厄介だが……」

「一つの可能性として考えてほしいのだけど、電子精霊による特殊な電子ウイルス……確か電子キンサンって書いてあったかなぁ」

「電子精霊? 電子キンサン? どのようなものだ?」

電子精霊自体も周りになじみがなかったようだが、師匠がネットでちょくちょく使役しているからなぁ。

「一高の図書館内でアクセスすれば、両方とも詳しくわかるんだけど、電子精霊は名前の通り、電子的な精霊。電子キンサンは覚えているのが、電子機器の出力信号に干渉するウイルスで、OSやハードウェアを選ばない、遅延発動型のウイルスプログラムのような動きをする電子精霊だったと思う」

「それを発見する方法は?」

「不活性の精霊を見つけられる能力が必要。たぶん僕でも、数秒きちんとCADを視て、そこに電子精霊が存在しているかいないか、わかるぐらいだと思う。何せ具体的なプシオン構造が、記述されていなかったからね」

その場は、七草生徒会長に相談するということになった。



今朝は朝食後に五十里先輩から、今日のスピード・シューティングに集中して、気にかかるのなら自分で使うCADだけを、確認する程度にしてほしいとの話だった。

まあ、技術スタッフでもない僕が、技術スタッフからCADをいったん受け取ってチェックをするというのも変な話だからなぁ。たとえ五十里先輩に、使用する基本となる起動式をCADにインストールしてもらっても、その調整はすべて自身でおこなったからといっても、それはまわりに、どの程度伝わっているのやら。

そのようなことは念頭から追い払って、雫と滝川と、ついでに明智英美のスピード・シューティングを観戦することにしている。女子スピード・シューティングは午前中で、ほのかの出場するバトル・ボードは午後だから、同じようにこの一般観客席で観戦している。

競技選手である雫はもちろんのこと、彼女の技術スタッフである達也もいないが、雫の競技が始まったところで、球状に広がる振動魔法のエリアについて解説してくれたのは、深雪とほのかだった。
クレー破壊の得点エリアは15メートルの立方体。それに対して、10メートルの仮想立方体の角となる8箇所と中央に震源ポイントを置いて、得点エリアのほとんどを実質上、クレーを破壊できるエリアにしているとのことだ。空間に隙があったり、重複エリアがあったりするが、振動系魔法で、こういう方法もあるのかと感心させられた。雫の競技は打ち漏らしが無くパーフェクト。

つづいて滝川と、明智の競技もみたが、こちらは、移動系魔法を1枚のクレーにつかって、もう1枚のクレーにあてて、2枚同時に破壊していく、オーソドックスな方法だ。2人とも90枚以上のクレーを落としている。80枚以上が、準々決勝進出の目安だから、心配はないだろう。

準々決勝からは上位8名の対戦形式で、滝川と明智の競技はそれぞれ勝ちあがった。予選と同じ戦い方をするのは珍しいが、特段に悪いわけではない。慣れの問題もあるからな。

そして雫の番だが、今度はクレー破壊の得点エリアより大きい、収束系のエリア魔法による衝突破壊と、中央部での振動系エリア魔法による破壊とのコンビネーション。特化型CADは1種類しかできないから、形状が小銃形態とはいえ汎用型になるが、そのことに一番初めに気がついたのは幹比古だった。それに対する説明は、深雪とほのかがおこなっているが。

収束系魔法により、雫のクレーが中央に集まり、中央に密集するもの以外、つまり対戦相手のクレーは自動的に中央を避けるコースになる。発想がコロンブスのたまごのようだ。言われてみれば、確かに可能だが、これだけ規模が大きい魔法が可能なだけの、魔法力をもっている魔法師も少ないだろう。これも雫が勝って準決勝4名のうち、3名が一高からだ。



昼食時、なんとなく達也のそばで食事をする。他の1年生男子と一緒だと、森崎の目がねぇ、とため息をつきたくなる感じだ。達也のそばにいれば、学校の昼食で同じか近くのテーブルに座るメンバーである、深雪や雫と一緒になる。ほのかはバトル・ボードの準備で先に食事を済ませたのか、ここにはいない。そして、午前中のスピード・シューティングに出場して、1位から3位までのメンバーである滝川と明智もそばの席で食べることになる。ひとことだけ

「滝川。3位入賞おめでとうな」

「今度は陸名の番ね」

「やるだけ、やってみるよ」

滝川も、3,4位決定戦で三高の選手を相手に3位を射止めたのだから、準決勝で雫と当たらなければ、2位になれたかもしれないが、それこそ『たられば』の話だ。そこは十分にわかっているのだろう。とりあえずの応援はもらえた。バトル・ボードとスピード・シューティングがあるから、見にくるかは不明だが。

女子スピード・シューティングの上位を占めた3人に称賛の的になったのと、ついでの感もあるが技術スタッフである達也にも、功績をたたえる上級生がいるのもたしかだった。それが達也にとって、居心地が悪いのか深雪と雫をつれて、天幕からでていった。雫も一緒ということは、ほのかのところにでも行ったのだろう。

一方、僕の方は、天幕の控え室にあるCADが体感的に問題がないか、プシオンが存在しないか観てみたりの最終チェックをおこないながら、五十里先輩に簡単な注意事項をうけていた。

「女子スピード・シューティングの結果がよかったよね。それでやる気をだすのは良いけれど、平常心を保っているんだよ」

「はい。操弾射撃の大会で、こういうのは慣れましたので、他の2人よりは冷静だと思いますよ」

だって、生死にかかわるようなことでもないからなぁ。それよりも、五十里先輩と長時間いると、千代田先輩の視線がきびしくなるので、そっちの方が、身の危険を感じそうになるのは気のせいだろうか。



スピード・シューティングのシューティングレンジに立った感想はというと、「観客が少ないなぁ」だった。まあ、七草生徒会長はともかく、雫のあの魔法もなかなか観られるものじゃないから、観客が多いのもわかる。

スピード・シューティングの際に座っていた位置をみると、レオ、エリカ、美月、幹比古の4人と、クラスメイトで魔法実技で一緒になる南だ。それともう一人のクラスメイトが座っている。そういえば「応援しに行く」って言ってたよなと思い出した。それとは別に、美月には

「僕の競技を見てくれるのなら、メガネをかけたまま観ていてほしい」

「ええ、どうしてですか?」

「精霊魔法を使って、大量に精霊を使役するから、目を傷める可能性があるよ」

「スピード・シューティングで精霊魔法ですか?」

「そう。楽しみにしていてね」

観たい競技に、メガネをつけたままというのも何だろうが、美月がメガネをはずしたところって、ほとんど見かけないから、念のためのダメ押しだ。



その頃、一高の天幕では、競技を移すモニターを見ていた真由美は、

「リンちゃん。陸名くんのCADって、何の変哲もない汎用型CADよね?」

「そうですけど、決勝トーナメントと違って、予選なら汎用型CADを使うことは、過去にも事例はあります」

「それって、これから何かあるわけかしら?」

「観てのお楽しみです」

鈴音の返答に、真由美もこれ以上は特に聞いても無駄だと思い、陸名翔の競技をみていたが、試合開始の合図が出て、クレーが発射されたのに、打ち落とされない。しかし3枚ばかり逃したところで、4枚目からクレーが破壊されていった。

「有効エリアに入って1m前後で打ち落としているのに、最初はなぜ打ち落とせなかったのかしら」

ぽつりと独り言のつもりで言った真由美に、鈴音が答えた。

「振動系魔法のエリア構築と、風の精霊魔法によるエリア構築に時間がかかるため、最初の7秒ほどは、射撃に割く余裕が無いようです。ただ、このあとは順調のようですね」

「風の精霊魔法? スピード・シューティングで古式魔法を使うなんて……知らないわよ?」

「そうですね。彼が始めてでしょう。彼の起動式は『プシオン誘導型サイオン起動理論』に基づくものなので、古式魔法を設定したCADと相性がよいとのことです」

「プシオン誘導型サイオン起動理論?」

「はい。魔法でサイオンが利用されるのは、魔法師にとっては周知の事実ですが、その魔法にはプシオンが必ず付随するという説があります」

「説なのね?」

「はい」

「それで?」

「この説をモデル化して、理論だてたのが、『プシオン誘導型サイオン起動理論』で古式魔法師がCADをしようする時に、使うことがあるそうです」

「使うことがある。そういうことは、少ないってことかしら?」

「その通りです。まずは、デメリットとして、起動式にプシオンに関するパラメータを記述する必要があるのです。これを計測する技術が現在ありません。それで、個人の実体感にもとづいて、パラメータを決定していく必要があるということです」

「そのパラメータの数って?」

「工程単位で約300だそうです。しかも依存関係があるので、単純にはきめられないとのことです」

「そんなことを、よくおこなっているわね」

「それを行なうと起動式に書き込む量が多くなるので、当然のことながら起動式が大きくなるので、読み込むのは遅くなるのですが、パラメータをきちんと探しあてられると、なぜか魔法式の構築は早くなるのです。これがメリットのようです」

「その『プシオン誘導型サイオン起動理論』を使うのはわかったけれど、風の精霊魔法を使っているのはなぜかしら?」

「照準の代わりだそうです」

「それだけなら専用型CADの照準でいいのじゃないかしら?」

「今回は3系統の起動式があるので、それで汎用型CADになるそうです」

「そういえば、あのクレーを破壊しているのは振動系魔法よね?モニターだから、わかりにくいけれど、得点エリア外からクレーが振動していない?」

「その通りです。エリア外でクレーに振動系魔法をかけて、クレーに魔法的な振動をかける。そして、有効エリアの振動系魔法との共振を利用して、一機に振動を強力にして共振破壊するという方法です」

「それじゃ、原理的には、振動系エリア魔法の大きさを調整したら、有効エリアに入った瞬間にクレーを破壊できるということ?」

「そうですね。ただ、そこまで調整するには、まだ時間がかかるだろうとのことでした」

「まいっちゃうわよねぇ。陸名くんといい、達也くんといい、変わった魔法のバリエーションをだしてくるわね。ところで、今のだと魔法の系統は2種類だけど、3種類目は?」

「それは、決勝トーナメントで、使われる予定です」

そんな2人の話をしていたところで、陸名翔の競技は終わっていた。最初の3枚のクレーをのがした以外は、全てのクレーを破壊したが、観戦していた大多数の魔法師は、プシオン情報体があるのは、なんとなくわかっても、どのようにしてつかわれているかわからないままだった。
 
 

 
後書き
『プシオン誘導型サイオン起動理論』はオリ設定です。 
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