美しき異形達
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第三十四話 湖のほとりでその四
「怪人についてはね」
「迷惑な話だな」
「そうね、あとだけれど」
「あと?」
「先輩はおられないのね」
智和のことをだ、黒蘭は薊に問うた。
「あの人は」
「ああ、先輩な」
「よく一緒にいるけれど、貴女達と」
「先輩は神戸だよ」
彼の家に留まっているというのだ。
「そこで色々調べてくれてるそうだよ」
「そうなのね」
「まあ受験生だしな、先輩」
智和は三年生だ、大学受験の年である。薊は彼のこのこともここで言ったのである。
「推薦っていうかもう入学決まってるけれどな」
「八条大学よね」
「そこの医学部な」
医学部の方からスカウトが来て入学が決まっているのだ、彼の抜群の頭脳が買われてのことであるのは言うまでもない。
「入学が決まってるよ」
「それでもなのね」
「ああ、先輩は勉強する必要ないけれどな」
それでもだというのだ。
「怪人について調べてもくれてるよ」
「先輩らしいわね」
「ああ、あの人もう研究者だよ」
高校生にしてだ、彼は既にそうなのだ。
「いいお医者さんになるよ」
「私もそう思うわ。先輩は名医になるわ」
「だよな、医学部にいい教授さんいるらしいけれどな」
「イギリスから来られた方だったわね」
「ドリトル先生っていったか?とにかく先輩はおられないよ」
今回の旅行にはだ。
「あたし達が帰る頃に何かわかればいいな」
「そうね、怪人について」
「あの連中ストーカーかよ」
薊は眉を顰めさせて怪人のことをこうも言った。
「しょっちゅう出て来てな」
「私達の行く先行く先にね」
菫も言う。
「本当によくわかるものね」
「あたし達の居場所がな」
「確かに寮長先生に居場所はお話してるけれどな」
何処に旅行に行くかだ、寮長先生には言っている。しかしそれでもだ、薊は考えながらそのうえで言うのだった。
「白浜の岩場とか伊勢神宮の道とか。たまたま通った様な場所に出て来るのはな」
「まず有り得ないわね」
「そんなところ行くとかな」
「言っていないわね、誰も」
「伊勢神宮に行くとかは言ったよ」
その寮長先生にだ。
「どの府県のどの場所に行くかは」
「けれど細かい場所はね」
「言ってないよ」
薊は腕を組んで答えた。
「全然な」
「そうよね、本当に」
「それで何であいつ等出て来るんだろうな」
「寮長先生が怪人の黒幕かっていうとね」
今度は裕香が言う、薊と同じ寮生である彼女が。
「それはね」
「このことを考えるとな」
「有り得ないわね」
「っていうか怪人を生み出す技術とお金は?」
向日葵はこの確信を指摘した。
「普通の人にはないわよ」
「絶対にな」
「ええ、そのことも有り得ないわよね」
向日葵は薊と話しつつ応えた。
「やっぱり」
「不自然な話だよ」
それは、とだ。薊はまた言った。
「寮長先生にしてあたし達の周りの人って普通の人ばかりだからな」
「そうした技術とお金、そして設備があるとなると」
菖蒲が言う、己の中で分析しつつ。
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