僕の周りには変わり種が多い
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九校戦編
第10話 大会初日
大会初日の開会式。
第一高校の発足式と同じく、テーラード型スポーツジャケットを着て、競技選手入場、そして校歌が演奏されて、そのあとはすぐに競技へと移るので、僕は皆と一緒に競技エリア内に用意してある第一高校の天幕に行った。
七草生徒会長が出場する女子スピード・シューティングの試合観戦を、関係者エリアではなく、一般用の観客席で観るためだ。
関係者エリアは近くで競技を観れるが、ことスピード・シューティングとなると、競技者に近い動体視力が必要になる。しかも移動している最中に突然破壊されるということもあり、競技者が意図した個所でのクレーが破壊されたかの確認になるが、競技者以外にとっては、どこで破壊されるかわからない分、目視するのに認識することを準備しておかなければいけない。
個別にクレーをみるのではなく、全体をぼんやりと眺めるのならそうでもないが、七草生徒会長の『マルチスコープ』を確認しながら、亜音速のドライアイスの弾丸生成、クレーの破壊までを見るとなると、「無理」と、白旗をあげての一般用観客席での観戦だ。
天幕ではスポーツジャケットをハンガへとかけて、普段学校で着ている2科生の制服に着なおした。このまま天幕からでると競技エリア内衣への不法侵入扱いとなるので、競技エリア入場用IDチップが入っている徽章をスポーツジャケットから取り外して、制服のポケットへ入れて、ふと気がつくと、周りには思ったよりも人が少ない。そこで2科生の制服を着ている達也を見つけたので、
「やあ、もしかして七草生徒会長の競技見学を、雫さんや深雪さんと行くのかい? 一般用観客席で」
「そうだ。それに、ほのかも一緒だ」
「それなら、僕も一緒に見学させてもらってもいいかな?」
「特にかまわないが」
「じゃあ、それで」
達也に声をかけたのは、1人で見るのは良いが、昼食後までの間が暇だというのと、達也が担当している競技選手は、基本的に技術スタッフとしてだけではなく、作戦スタッフに相当する役割もこなしているということから、スピード・シューティングに参加する雫にたいして、七草生徒会長のことをどう伝えるのかということに、興味があったからだ。
観客席では奥から、雫、ほのか、達也、深雪に僕だ。達也が全員にスピード・シューティングの基本戦術を話しているが、主に向けている先は、技術スタッフとして受けもっていて、スピード・シューティングに参加する雫だ。
「したがって普通なら、予選と決勝トーナメントで使用魔法をかえてくるところだが……」
「七草会長は予選も決勝も同じ戦い方をすることで有名ね」
雫が素直に達也の言葉を聞いているところへ、割り込んできたのは、背後に座った少女で、達也が
「エリカ」
「ハイ、達也くん」
「よっ」
「おはよう」
「おはようございます、達也さん、翔さん、深雪さん、ほのかさん、雫さん」
エリカ、レオ、幹比古に美月だ。一昨日の立食パーティで来ていたのを知ったので、昨日の昼間は暇つぶしといっては悪いかもしれないが、一緒に森の中を散歩していた。今日は開会式の後がよくわからなかったので、昼食後に集まってから一緒に競技を見回る予定だったのだが、ここで会うのも何かの縁だろう。
レオたちと会えたのも、思ったよりも後方の席が空いていたというのはあるのだろう。前方の席には、「バカな男ども」とか「お姉さま~、ってヤツ」が多いという、エリカの毒舌が語っているのも一因で、競技そのものを見るよりも競技者、この場合は七草生徒会長が、お目当ての男子女子が多い。
美月の同人誌発言から、茶化されて反応に困っていた美月を救ったのは、達也の
「始まるぞ」
の言葉だった。五つにならんだライトの1番下が点灯している。これが順次1段上のライトが点灯して行き、5番目である最上段のライトが点灯すると、スピード・シューティング競技開始のシグナルだ。ここから5分間の間に発射されるクレーの数は100枚。それを魔法で撃ち落としていく。
七草生徒会長の場合は、照準として視覚系魔法『マルチスコープ』を使用しているから、そちらの同時18個制御というか、どうも3つの『マルチスコープ』を1組として、それを6組として使用しているようだ。
七草生徒会長のスピード・シューティングの競技を、皆が魅入られるようにしているのか、非常に静かだ。その中で雫がぼそりと
「早い……!」
そうしたつぶやきがきこえるほどに静かだが、言った内容は空中のレンジにクレーが入った瞬間に撃ち落とすスピードか、クレーに追随しているマルチスコープのことなのか。
七草生徒会長の予選は100発100中のパーフェクトだった。まあ、スコア式とはいえ、クレーを100枚落とした。そういう記録は、過去2年間の高校生では、七草生徒会長以外にはだしていない。多分、今年もそうだろう。
達也が中心になって、七草生徒会長のスピード・シューティングの解説モードに入っているが、ドライアイスの亜音速弾の話で見えていなかったのがいるのは、動体視力が必要な競技系を実際におこなっているか、よほど見慣れていないと難しいだろう。
『マルチスコープ』のところで、僕が
「操弾射撃の練習で、試してみたけれど、実用的な照準合わせの速度がだせなかったよ」
「翔も、無謀なことするのねー」
「試してみて、役に立ちそうなのを、取り入れていくのが僕の道場の流儀だからね」
「小手先の技ね」
「まあ、そうとも言うね」
ここは、エリカに譲らないと、制服姿ならいつも持っているノートを、丸めて竹刀代わりに叩いてくるのは、学習済みだ。しかもそれをさけると、延々と当たるまでおっかけられるはめになる。3時間も当てさせなかったのに、まだ振れるって、いったい、どれだけ修練をくんでいるのやら。
達也の話は続き、
「覚えておいた方がいいぞ、レオ。世界を『上手いこと騙す』のが、魔法の技術だ」
「つまり、あたしたち魔法師は、世界を相手取った詐欺師ということよね?」
「強力な魔法師ほど、極悪な詐欺師ということになる」
「僕としては、その詐欺師にツールとして、世界をだます起動式を作り出して提供する方が、よっぽど極悪人だと思うけどね」
エリカ、雫と僕のつっこみに、達也は苦笑しているようだった。
七草生徒会長の女子スピード・シューティングの競技も見終わったし、と思ったら今度は渡辺風紀委員長がでている女子バトル・ボードだ。
僕が席についたのは深雪の隣。最近、達也と待ち合わせをする時も、こう位置にいることが多い。おかげで七草生徒会長と話す機会も多くなっているのだが、最初に感じた何か悪いところを見られたのかな、という感触は特にない。
しかし、スピード・シューティングとバトル・ボードとどちらかにするかで、七草生徒会長がスピード・シューティングに押していたという情報を知っていたら、また別な感覚に陥っていたかもしれないが。
席についたあと、メガネを取り出してかけたら、エリカがちょっかいをかけてきた。
「あら、メガネだなんて美月と合わせているの?」
「別にそういうわけじゃないんだけど……」
「なに言ってのよ。エリカ」
「僕の場合、ここの観客は魔法師が多いせいで、プシオンが多くて酔いそうだから、用意しておいたんだ」
「さっきはつかっていなかったでしょ?」
「七草生徒会長のスピード・シューティングは、同じ競技に出場するし、観てるだけでも集中する必要があるからね」
「はいはい」
エリカの茶々入れは、いつものこととして、達也がバトル・ボードのことを語りだした。この競技にでるのは、ほのかだ。ほのかが「マッチョ」発言などで、自爆してたあとに、達也が女心をわからないことに対しての、女性陣の口激にさらされているのは、さわらぬ神にたたりなしとばかりに見ていたが、雫の容赦のない「朴念仁」発言には、もう反論することもできなかったようだ。しかし、深雪が達也のことを攻めるように言うのは、初めてみるかもしれないな、と思ってみていた。
バトル・ボードのボードに一人だけ立ってスタートをまっている渡辺風紀委員長は、他校の選手を跪かせているようにも見える。単純に目の錯覚なのだが、バランス感覚が他の選手と違うのだろう。
スタートの時には、四高の選手が、後方の水面をいきなり爆発させた。自身がうまくできた波にうまくのれないのなら、戦術としては失敗だろうな。そんな中で一番に体制を立て直して発進していたのは、渡辺風紀委員長だ。硬化魔法を最初におこなっているから、転倒する可能性はあっても、落下する可能性は無いからな。転倒したまま移動しているのも、中々おもしろっそうだと思ったのは内緒だ。
途中、達也が漏らした
「硬化魔法の応用と移動魔法のマルチキャストか」
「あー、それだけなら服部副会長も使っているよ。熟練度は渡辺風紀委員長の方が上だけど」
「本当か?」
「ああ。服部副会長は、どうもコンビネーション魔法が得意みたいだから、こういうのにあっているんじゃないのかな?」
「ところで、硬化魔法って?」
レオが得意にしている魔法だけに、興味があるのだろう。あとは達也に解説をまかせて、渡辺風紀委員長のバトル・ボードでおこなっている、身体の気の流れだけをよんでいた。
上り坂を昇りきってのジャンプをしてから、着水は大きく波をつくっていたが、見事に推進力にかえている。これだけでもすごいのに、より遠く飛んでいるので、後方に着水した2番手の選手には逆流になっていた。
「戦術家だな」
「性格が悪いだけよ」
達也とエリカのその言葉だが、この場合はほめ言葉だろう。
あとは、特に失敗もなく、1着は渡辺風紀委員長の単独ゴールだった。
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