大和
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第一章
第一章
大和
常にだ。その船はあった。
呉にいるとだ。誰もがその雄姿を見ずにはいられなかった。
「やっぱり大きいな」
「ああ、しかも大きいだけじゃないしな」
「格好いいよな、あの姿」
「全くだよ」
誰もがその姿を見てだ。笑顔で話すのだった。
「それに何か奇麗だよな」
「そうだな。見ていたら惚れ惚れするな」
「いい姿だよ」
「あんな船は他にないな」
こうも話される。その姿を見てであった。
呉の港にその美しい姿を見せているのはだ。軍艦だった。その名は。
「それに名前もいいな」
「ああ、大和な」
「いい名前だよな」
「そうだよな」
こうも話されるのだった。その雄姿を見る人達にだ。
大和は呉にいてだ。全ての者を惚れ惚れとさせていた。それは海軍の者達も同じだった。むしろ彼等が最も惚れ込んでいた。
港に集まる軍艦達の中でもだ。大和の存在感は抜きん出ていた。それを見てであった。彼等はうっとりさえなっていた。そしてであった。
彼等も言う。海にある大和を見ながら。
「あれが帝国海軍だな」
「ああ、格好いいだけじゃない」
「しかも美しい」
「あれこそがだよ」
こう話していくのだった。
「この戦争もあの船がある限りな」
「負ける筈がないぞ」
「絶対にな」
「それはないからな」
「大和がある限りな」
そう固く信じていた。海軍の者達がだ。
大和は戦争がはじまると共に呉にいた。そこで見事な姿を見せ。そして戦場に出てもだった。やはり誰もがその姿を見ただけで惚れ惚れとなった。
出港するその瞬間も、海を進むその姿もあまりにも絵になった。漁師の親子が小船からそれを見てだ。やはり惚れ惚れとなっていた。
「あれが大和だぞ」
「大きいね」
子供は父親の言葉にだ。興奮している声で応えた。
「あんな大きい船って他にないよね」
「そうだろ。しかも大きいだけじゃないだろ」
「うん、格好いいね」
砲塔も艦橋も煙突も。そして全体のシルエットもだった。
何もかもが見事だった。親子はそれを見て話すのだった。
「あの船があったらね。日本は絶対に」
「負けないぞ」
父親は強い声で子供に話した。
「大和ある限り日本は負けないからな」
「うん、負けないね」
「そうだ、負けないからな」
二人もそのことを信じていた。誰もが大和を見ればそう思うことだった。
大和はそこにあるだけで誰もを安心させ奮い立たせた。戦局は次第に日本にとって不利なものになっていった。しかしそれでもだった。
大和は呉に、戦場にその姿を見せていた。雄姿を誇示して港にあり海を駆けていた。海軍の者達も他の者達もだ。その姿を見ればであった。
「まだやれる」
「まだ戦える」
「大和がいる」
「あの船がある限り」
こう信じられるのだった。そして力も出た。彼等は大和を見て奮い立つのだった。そのうえで戦いの中を生き抜いていたのである。
だが戦局はやはり悪化していく。日本にとって。拡大されていた戦線は縮小し遂には沖縄にまで敵が来た。それで、であった。
大和をだ。沖縄に出撃させることになったのだ。だがこれを聞いてだ。
連合艦隊司令長官である小沢治三郎はだ。苦い顔で言った。
「積極的なのはいい」
「はい」
報告した士官も彼の言葉に応える。
「だがこれはだ」
「これはですか」
「作戦なのか」
小沢はこう言うのであった。
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