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世界を超える保持者とα

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第四

 
前書き
第三まででお気に入り登録20件超え、ありがとうございます
小説を書く事にあまり慣れていないため遅筆で更新が遅れてしまい申し訳ありません

これからもできるだけ早く執筆できればと思います 

 


シャガルとカイルは、アリアドネーの関所を目指して道を進んでいた

結局あの国境の兵士たちは備品の縄でまとめて縛り上げ、放置してきた

応援を呼ばれて、追っ手が増えては困るからである

それからこれまた砦の備品なのだが、カイルの傷の応急処置をした

道中、シャガルはアルファに

『シャガル、我に変われ』

と言われ現在はアルファが体を操っている

実はこの光景自体は前世界からよく見られる光景である

アルファ自体は元々ただの機械のようなものであり、そもそも肉体を求めることな
どない

ただ、意思を持ち喜怒哀楽を得ているアルファはやはり退屈もする

全開の砦での戦闘では出番はなかったし、そもそも言葉も2.3言しか発していない

このように様々な理由が相まって退屈しきった頃アルファは半ば強引に体を奪い取


さらに今までとは違いカイルという道連れがいるのだから

「カイルよ、あの楯の魔法だがな、もっと魔力を――――――」

「えっ?そうなんですか?今度試してみます!」

「カイルよ、なぜあれだけの魔法を使いながら最初に追いかけられていたのだ?」

「あはは・・・あの時はもう動揺しちゃって・・・面目ないです・・・」

「カイルよ、見ろ。ここに石があるだろう――――」

「わぁっ!石が砂になった!?すごい!」

「そうだろうそうだろう!」

つまりはこうなる

多少道を進んだが、その間ずっとこの調子である

そもそもシャガル以外に話し相手もいないアルファだったが、自らの力を見ても物
怖じしないカイルは良き話し相手でもあり、そのカイルがまた、天性の聞き上手で
あり拍車がかかる

カイルも、自身の怪我など気にならないかのように笑い、身振り手振り応対を繰り
返す

そのような、つい半日前にあった出来事を忘れるかのような陽気な道中

そんな中にあって、蚊帳の外となっているシャガルは

『寝よ・・・』

寝ていた

それもそのはずである

シャガルは転移魔法と言う大魔法を使い、さらに高位魔法使いと戦闘し、これまた
砦でも戦闘を行い、疲弊していた

そう言う意味では、アルファが『外』に出たがるのはシャガルにとっては好都合
だった。

体は休まることはないが、精神的には休むことができる

アルファは退屈していたし、カイルも居る

シャガルは、この世界に来て初めて、心労を癒した

シャガルが意識を沈めてからすこし

道の先に建物が姿を現した

「あっ、アルファさん。あれがアリアドネーの関所ですよ」

「ほう、あれが・・・」

道を歩く二人の前に、簡素な関所が見えた

「アルファさん。話をつけてくるので、少し待っていてください」

カイルが、そう言って小走りで関所へと向かう

少しのあいだ、関所の番と話をしたかと思うとまた小走りで戻ってきて

「大丈夫です。行きましょう、アルファさん」

早々に話をつけ、手招きするカイルを見て、アルファは笑った

「カイル、なかなかやるじゃないか」

いやぁ、父の力ですよと苦笑しながらカイルは言った








二人は関所を過ぎ、しばらくして街に入った

「ほう、どれも見たことのないものだ。建造物も、其処らで売っている物も」

「そうなんですか?僕はお二人の居た世界を知りませんから・・・」

その街には、数え切れない程の人と遥か先まで立ち並ぶ店があった

アルファにしてみればそもそも建造物や服装などからして物珍しい。

販売されている食べ物は見たことのないものばかり。

人は溢れんばかり、空を見上げればそこにも魔法使いが飛んでいた

アリアドネーという国は、魔法の学習、研究を国の基盤においた謂わば魔法都市国
家。

それゆえに魔法を学ぶものでなくとも魔法をある程度は使いこなせるし、生活の
所々に魔法や、魔法を用いた道具が取り入れられている

無論、複写眼《アルファ・スティグマ》の大元たるアルファの目で見ればそれらす
べてを見通すことになり、どれだけこの国家の魔法技術が発達し、尚且つ普及して
いるかが一目に分かる

街のいたる所で魔力の変化が生じ、弾けている

空を飛んでいるのも解析したが、あれは媒介が必要らしい

様々なものを見渡し、その都度カイルに質問を投げかけていたアルファだったが、
目的地についた事を告げられると「む」と黙った

そこはかなり大きな屋敷で、その風貌だけで家主の権力の程が知れる程

屋敷に足を踏み入れると、使用人が応対に現れカイルと少し話したあと、二人を中
へと引き入れた

扉を過ぎるとまず、かなり広い空間が広がっていた

そこには大小様々な賞状や絵画が飾ってあり、ほかの部屋へと続く扉がある

そのうちの一つに案内され、部屋の中央にある椅子へと誘引された

二人を案内し終え、パタパタと足音を立てて部屋を去る使用人

家主を呼びに行ったのだろう、自然、部屋にはカイルとアルファのみとなる

美しい卓を囲む椅子のうち二つに、腰掛けてカイルが口を開いた

「ここの家主は、僕の村と取引をしていた人でしてね」

カイルは、ゴソゴソと何かを探し

「アリアドネーの数ある学校のうち数個の学園長を務める人でして・・・これ」

「それは先刻使っていたものだな」

アルファに先ほどの珠を見せた

「これは魔法珠と言いまして、僕の村で管理していた森で取れる材木からできてい
ます」

説明しつつ、カイルは魔法珠を机に置く

それを、アルファは拾い上げ物珍しげに解析した

「これは、ただの木材ではないな。魔力を蓄え形を保つ性質を持っているようだ」

「ええ、その通りです。それの素になった樹は魔力を持つ樹です」

アルファは、この世界に来てすぐのことを思い出した

「確かに、あの森には魔力を帯びた樹があったな」

確かに、あの巨大な樹には魔力が満ち溢れていた

「僕たちはその樹から落ちた枝や葉を加工して道具を作っていました。それと同時
に、その材料をアリアドネーの学園へ授業材料として送っていたんです」

「それが、ここの家主の学園か。なるほどな」

話の流れを察し、頷く

すると程なくして、部屋の外から足音が近づいてきた

足音は部屋の前で止まり、コン、と一度ノックをしてから扉が空いた

「・・・失礼するよ」

ゆっくりと扉を開け、家主用の椅子に歩を進め腰掛ける初老の男

「お久しぶりです、ヘンリーさん」

カイルの言葉に、ヘンリーと呼ばれた男は笑みで返した

そして、アルファへと顔を向け、名を名乗った

「ヘンリー・ロイズです」

よろしく、とこれも笑みを持って行う

なるほど、悪い人間ではないらしい、というのが印象

「この方は、シャガル・リルラさんです」

この場では、アルファではなくシャガルの名を使う

カイルが自らを紹介しているあいだにも、アルファはヘンリーを観察していた

紹介のあいだ、ヘンリーという男は終始にこやかな表情だった

だがお互いの紹介が済んだ後、不意にヘンリーから笑みが消える

「何があったかは、報告を受けています。大変だったでしょう」

ヘンリーはいきなり本題を切り出した

「えぇ。父も殺されてしまいました。僕はこの方に助けていただいたので無事でし
たが、帰る場所もなくて・・・ヘンリーさんに頼らせていただきたい、と」

ヘンリーは言葉を返さない。カイルはもちろん、と続けた

「僕とシャガルさんはこの国で学舎に入るつもりでいます。そうすれば最低限の生
活は保障されますし。ヘンリーさんには、学舎の紹介をしていただきたいのです」

しかし、とヘンリーは遮った

「今やこの世界で帝国によって生み出された難民は数をしれず、このアリアドネー
もまさに溢れかえる寸前。どこの学園も新規の生徒の入学を認めないでしょう。」

まあ、と一間隔

「私の管理する学園ともなれば話は別、君もそれを分かってここへ来たのでしょ
う?」

「・・・ええ、その通りです。ヘンリーさんには大変なご迷惑をかけることになります
が・・・」

確かに、このヘンリーという男はアリアドネー国内でも有数の大学園長であり、彼
ら二人をねじ込むことぐらいなら朝飯前といったところである

しかし、それを聞いてはいても実際に知らない者も居る

「ヘンリーとやら。これだけの住居を構え、それだけの数を仕切っているというな
ら、我らの事などどうにでもなる些事にすぎんのではないか?」

アルファにしてみれば自らが間違いなく最上位であり、本来この場面で格上である
ヘンリーに対しても上から言葉を叩きつける


「それに我は兎も角、カイルに対してはその程度の義理はあるはずだろう?」

そもそも、この世界の住人ではなく、人間ともあまり関わってこなかった以上、多
少常識に欠けているところもあるだろうが

「し、シャガルさん!?」

この場における常識を持ち合わせるカイルは、慌てて制止するがアルファは事を成
した後

既に口を閉じてヘンリーからの返答を待っている

カイルはヘンリーが気分を悪くしないかと気が気でない

しかし、カイルの心配をよそにヘンリーは当初の笑みを顔に浮かべた

「ええ、その通りですよ。もとより君が私を訪ねてきたら、最大限の支援をするつ
もりでした」

カイルが予想していなかった応え

「え?」

「そもそも、わが学園に長年授業材料を提供していただいた上に個人的に交流もあ
る君を放っておいては、私の底が知れるというものでしょう」

ヘンリーは、当然とそう応えた

確かに、ヘンリーの言うことは分かる

更に言ってしまえば、ヘンリーがこう応じるのはカイルにしてみても分かるはず
だった

幾度となく交流があり、この屋敷に呼ばれたことも数度ある



「何より、ここで君たちを突き放したら、亡き君の父上に申し訳がない」

ヘンリーの性格にしてもカイルは知っているはずだった

(ああ、僕は考えすぎていたのですね・・・)

カイルは、そう心中で呟き嘆息する

カイル自身は至って冷静でいるつもりでも、今日は彼の人生がぐるりと変化した

さらに言えばそこからも非日常的な出来事ばかりに取り巻かれた中で、知らずのう
ちに思考が偏って行ったようだ

ヘンリーが何色を示すとばかり考え、それ以外にも難関が待っているとばかり考え
ていた

いくら冷静を装っていたとしても、気づかぬうちに限界は来るものである

カイルは、そんな思考を振り払うように目の前のヘンリーに向き合う

「ヘンリーさん、ありがとうございます。これから、よろしくお願いします」

「ええ。しかし、今後について考えるのは明日にしましょう。とても疲れているようですし、部屋を用意させますから」

そう言ってヘンリーは席を立つ。

カイルは、どっと疲労が襲ってくる感覚に襲われた

ヘンリーが部屋から退出し、外に控えていた使用人に伝えたのだろう。数人が部屋
へ入る。

「コイツはかなり疲弊している。手を貸してやれ」

アルファは仕様人に対してそう言うと、自身は他に先んじて部屋を出た

どちらへ向かわれるのですか、と問う使用人のひとりに対し

「ヘンリーに少し用がある。内密の要件だ」

そう言った








少し話は戻る

カイルとアルファ、そしてヘンリーの話をシャガルは聞いていた

元々この身体の持ち主であるシャガルは内側に引っ込んでいたとしても多少外界の
様子が分かる。

勿論、目覚めたからといってすぐに表へ出るわけではない

事情を知らないヘンリーの前で急に表へ出たとしても混乱を招くだけだ。

流石に、アルファが出しゃばった時には肝を冷やす思いだったが。

そしてアルファに対して声をかけたのはヘンリーの退出後

『アルファ』

(む、シャガルか。いつから目覚めていた)

『ほぼ最初からだな。話の内容は理解している』

(ふむ、それで、何かあったか?)

ここでいう《何か》というのは疑問や不満などである

『いや、不満は全くないし、むしろ感謝しかない。・・・まあ、自己紹介ってところだ
な』

(なるほど、あの男にか)

シャガルは、ヘンリーに対して《シャガル》を紹介するという

確かに、今なら彼と二人きりで話せるだろう

(わかった。ならばとりあえずこの部屋から出ようか)

「コイツはかなり疲弊している。手を貸してやれ」

シャガルと話すうちに部屋にいる数人に声をかける

部屋を出る途中、どこへ行かれるかと問われたが

「ヘンリーに少し用がある。内密の要件だ」

暗に、詮索するなと釘を刺した

あちらにしてもその手のことはなれているのだろう

軽く頭を下げ、扉を閉めた

「なるほど、中々優秀なようだ。では、シャガルよ」

「・・・ああ」

お互いに計ったように入れ替わる二人

現在、表にシャガルがいる

シャガルは、ヘンリーの歩いて行った方向へと歩を進めた

道中、問いかける

(あの人は、信用できると俺は思うが、どう思う?)

『まぁ、今すぐどうこうする気はないだろうな。我も同じ意見だ』

『ま、最悪消してしまえばいい』

さらり、と殺害を予告するアルファ

(現状頼れるのは彼だけのようだし、最悪はそういう手段もあるしな)
シャガルも、最悪の事態は意識している

が、現状頼るべきはヘンリーだし、そもそもヘンリーなくして平穏はない

ヘンリーを殺しても、その財産は手に入らない

ならば今取るべきはヘンリーの下手に回ることだ

などと考えているうちに仰々しい重厚な扉にさしあたった

「ここか」

シャガルは、扉を叩いた

「シャガルです」

少し間を置いてから、どうぞ、と一声がかかる

扉を押しあけ、シャガルは部屋へと入った

「なにか、ご不便でもありましたかな?」

ヘンリーは、開口一番そう聞いた

シャガルは、首を振り

「これからお世話になるに当たり、お話しなければならないことが」

勿論、人格の話と、その魔眼のことである

「それは丁度良い。実は私からもお聞きしたいことが幾つか」

「おそらく、知りたいことは全てこちらから話すことに含まれるでしょう」

先程と様子も雰囲気も全く違うシャガルを見て訝しむヘンリー

「ならば、まずはそちらの話をお聞きしましょうか」

「えぇ、では・・・―――」

シャガルの口が開いた 
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