義侠
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第一章
第一章
義侠
一九四二年冬。ドイツ軍は苦境に立たされていた。
カフカスの資源を狙いそこに攻め込んだ。ソ連との戦いはモスクワ攻略に失敗してから作戦を転換させていた。その結果である。
それに際してだ。ソ連南部の重要都市であり物資の集積地でもあるある街にだ。ヒトラーは異常なまでの関心と執着を見せたのだ。
「あの町をですか」
「絶対にですか」
「そうだ、攻略しなければならない」
将軍達への言葉は絶対のものだった。
「あの町は絶対にだ」
「スターリングラードをですか」
「必ずですか」
「そうだ。あの町は必ず攻略しなければならないのだ」
彼の宿敵とも言えるソ連の独裁者の名前を冠したその町の攻略に対してだ。ヒトラーはモスクワに対する以上に関心を見せたのだ。
それでだ。ドイツ軍はその町に進撃した。そしてだ。
スターリングラードを巡ってだ。激しい攻防が繰り広げられた。やがてドイツ軍第六軍はスターリングラードのソ連軍を包囲した。
しかしそれでもだ。その第六軍がだ。
彼等自体が包囲されてしまった。自力では脱出できなくなった。それでだった。
ドイツ軍は彼等を何とか救出しようとだ。陸軍だけでなく空軍も総動員した。だが戦局は泥沼と化してだ。彼等にとって不利な状況になった。
それを受けてだった。多くの者がだ。
スターリングラードで倒れていった。陸でも空でもだ。
今日も空にだ。出撃する機体があった。それを見てだ。
一人の整備将校がだ。浮かない顔で言うのだった。
「今日は何人帰られるかな」
「何人が、ですか」
「ああ。何人帰られるかな」
こう部下達に言うのだった。
「果たしてな」
「どうでしょうね。最近さらに激しい戦いになってますし」
「イワンも必死ですしね」
「向こうも」
「ああ、だからな」
それでだとだ。彼は話すのだった。
「果たしてどれだけ帰られるかな」
「この前帰って来られたのは八割でしたね」
「それだけ帰られて何よりですよ」
「全くですよ」
兵士達はだ。それでほっとしているのだった。
「全滅とかそういうこともあるらしいですし」
「損害増えてますしね」
「ドイツ軍全体で」
「ああ。だからな」
また話す将校だった。軍服を着ているその顔が浮かない。
「本当に何人帰られるかな」
「わかったものじゃないですね」
「できれば全員帰って欲しいけれどな」
将校の今現在の第一の願いだった。
「無理なのはわかってるけれどな」
「そうですね。本当に皆帰ってくれば」
「いいんですけれど」
こんな話をしながら出撃を見送るのだった。そしてその出撃したパイロット達の中にはだ。
二人のパイロットがいた。彼等は。
「おい、リヒャルト」
「何だヨアヒム」
御互いに無線で連絡する。それぞれが乗るメッサーシュミット109のコクピットの中からだ。
「今度はスターリングラードの何処で戦うんだって?」
「中心部の上空らしいぞ」
そこでだとだ。リヒャルト=ホルバイン少尉がヨアヒム=ハイデッケン少尉に述べる。
「あそこでだ」
「やれやれ、あそこか」
中心部と聞いてだ。ハイデッケンは嫌そうな声を出した。
「あそこが一番敵が多いからな」
「そうだな。戦闘機の数が尋常じゃないからな」
「只でさえイワンは数が多いっていうのにな」
ソ連軍の戦い方は人海戦術だ。それは空でも変わらない。
「あそこが一番多く来るからな」
「おい、注意しとけよ」
ホルバインがハイデッケンに言った。
「いいな、撃墜されたら洒落にならないからな」
「わかってるさ、それはな」
強い声でだ。ハイデッケンも答える。
「今のスターリングラードに落ちたらな」
「イワンの奴等に囲まれてるからな」
包囲されている。それではだった。
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