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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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異なる物語との休日~クロスクエスト~
  休日の③

「えーっと……記憶と照合させてくれ。
 《漆黒の勇者》のライト?」
「おう。陰原雷斗だ。よろしくな!」

 旅館《白亜宮》の男子部屋。
 
 セモンは(一回目は記憶にはないが)再会を果たした少年たちの名前を思い出すべく、彼らと自らの記憶を照合させていた。

 一人目は真っ黒の少年。《漆黒の勇者》ライトで間違いなかったらしい。数々のチート能力が跋扈する、『選ばれた者のためのSAO』から来たプレイヤー。

「《狩人》のライト」
「俺だ。天城来人。よろしく」

 次は黒髪の、セモンと同じくらいか少し上程度の青年。無数の武器を使いこなす、《狩人》ライト。別のゲームのシステムが組み込まれているSAOの世界の住人だったはずだ。

「《流星の獅子》リオン」
「その二つ名苦手なんだけどな。まぁおれの事だよ。歌原理央だ。よろしく」

 先ほど投剣を投擲しまくっていた少年が答えた。《投擲》という、ソードスキルを『投げる』スキルを使いこなすプレイヤー。先ほど長槍をぶん投げて来たのも彼だろう。

「《月の剣士》ジン」
「俺だよ。月村刀馬。よろしく頼む」

 応じたのは刀使いの少年だ。ぼさぼさの髪型で、今どきの体育会系を思い起こさせる雰囲気の漂う人物だった。相手のステータスを見通す《千里眼》の使い手。

「《炎帝》ゼツ」
「イエス。影村隆也だ。よろしくな」

 次は長い髪をポニーテール調にした背の高い少年。細いが数々の修羅場をくぐってきた気迫のようなものがある。炎を操る汎用型ユニークスキル《爆炎剣》の使い手だったはずだ。

 お次は黄色いコートの少年。

「えっと……《幸運少年》リュウ?」
「俺としては『不運』の割合が多いと思ってるけどな……一応あってるよ。《リュウ》のままで呼んでくれ」

 スキルのほとんどが運任せの、セモンの両剣とよく似た武器を操る《双刀》スキルの使い手。その運任せを大抵高確率で大成功させてしまう事から、《幸運少年》の異名が付いていたはずだが、本人は否定したいらしい。なぜなのだろうか、と疑問に思ったが、深追いはしないでおく。きっと何か理由があるのだ。

「《十一人目》リオン?」
「そうだな。SAO時代じゃ《白の死神》とか呼ばれてたこともあった。(ひいらぎ)理音(りおん)だ。よろしく」

 銀色の髪の毛の少年が、苦笑しつつ応じた。自分のHPを犠牲にして、強力な武器や権能を作成する、茅場以外の人物によって作られたユニークスキル、《錬金術》の使い手。

「で、《星崩しの剣士》メテオ」
「おうよ! よろしくな!」

 銀色っぽい髪色の、やんちゃそうな顔の少年が答えた。軌道上に爆発を引き起こす《破星剣》の使い手だ。明るい彼の性格はきっと周囲の人々を救ってきたのだろう。

「あとは俺も覚えてるよ。《二対大剣》のアツヤに、《神殺し》ハリンだよな」
「ああ。盾神アツヤだ」
「衿希頗臨だよ。改めてよろしく」

 青いコートの青年は、二対の大剣を使いこなすプレイヤー、アツヤだ。《双大剣》と《ソードビット》の二つのスキルで、どんな状況も打破してしまう。

 ハリンは二本の刀を操る《双刀》スキルの使い手。リュウのそれと名前は同じでも中身の全く違う二つのスキル。「そんなこともあるんだなぁ」と、並行世界事情に感嘆するセモンだった。

 あとは並行世界のキリトだけ。もう彼についてはセモンの知っているキリトよりも強い、という事実以外は説明する必要はないだろう。きっとみんな知ってる……って『みんな』って誰だよ。

 送信されてきた謎の怪電波を追い払い、セモンは今ひとたび全員に問いかけた。

「じゃぁ一応、これで全員そろった、と……?」
「何の、なのかは分からないけどな。でも布団の数はちょうどこの人数分だった」

 理音が答える。すでに彼らは部屋中の備品は大抵調査しつくしたらしい。

 ――――なるほど。優秀だ。

 セモンは内心で感嘆する。ここに居る人物は、そのほぼすべてがSAOにおいてデスゲームを解放した英雄だ。状況に気を配ることは忘れないらしい。

「しっかし……暇だな。何する?」
 
 問いかけたのはゼツ。確かに、部屋の中は比較的殺風景だ。無駄に広いが、大規模に戦闘ができる規模ではないが故にデュエル大会、などと言った脳筋イベントは起こせない。

 一応大形のTVはあるものの、まさか十人近くでじぃ~っ、とテレビを見続けるわけにもいかないだろう。

 と、そこで雷斗が救済策を提示した。

「よっしゃ、罰ゲームトランプやろうぜ。神経衰弱」

 地雷だったが。

「いや駄目だろそれ」
「圧倒的なお前有利企画じゃん」
「というか罰ゲームトランプさっきもやったじゃねぇか!!」

 上から順番にアツヤ、リュウ、ジンの順番である。

 陰原雷斗は完全記憶(アイテディック・イメージ)能力の保持者だ。見たものを直接脳内に記録できる、究極の記憶力。

 素ではほとんど活用しない雷斗だが、こんな時にこそとばかりに乱用してくる。

 だが。

「いいぜ、やろう」
「おい、本気かセモン」

 来人が驚いた、とばかりに目を見開く。

「くっくっく。この俺様に挑戦するか? セモン!」
「大丈夫。こればっかりは負ける気がしない」

 不敵に笑うセモンに、会場は騒然とする。

「えー、では、カードを並べたいと思います」

 ハリンがどこからともなく取り出したトランプを裏向きに配置していく。やけにきっちりと並べられたそれらは、何の変哲もない絵柄。どれがどれだかなど、見分けがつくわけもない。

「それでは用意……スタート!」


 

 三分後。




「馬鹿な……俺に番が回ってくる前に全て取られただと……ッ!?」
「完全記憶能力も、使う前にゲームが終わっちゃったら意味ないよな」

 並べられた五十二枚のカードは、全てセモンの手の中に在った。

 もともと、セモンは直感だけは野生動物並みに優れている。加えて、半年前の《白亜宮》騒動以後感覚が鋭敏になってしまったセモンは、直感がほぼ予知に近しいほど強化されてしまっている。その精度たるや、頭上から降ってくる鉢植の存在を、落下三十秒前から知覚できるほどだ。

 当然――――トランプ五十二枚のどれが何のカードなのかを察知するなど、少し気を張れば可能になってしまう。

「いやー、まさかこうなるとは思わなかった。すげぇなセモン」

 雷斗はけたけたと笑う。それに対するセモンは苦笑。
 
「まぁ、戦闘能力はみんなより低いからな。こういうサブ的なところで特化してるんだ。……というかそもそも一対一でやったら意味ないだろ」
「畜生気付かなかった! 図ったなセモン!」
「キミの生まれの不幸を呪うといい」
「何でその返し!? ……って、え?」

 雷斗の台詞に応答したのは、セモンでも、この場にいる全員でもなかった。

 《ソレ》は、いつの間にか部屋の中にいた。

 聖堂教会の聖職者が着用する修道着(カソック)と、法被型の陣羽織を足して二で割ったような黒い服。チェーン状のネックレスの先には、二本の鎌と《Y》の字が交差した奇妙な文様をかたどったストラップ。

 髪の毛は黒と茶色と灰色と、なんでも入り混じった長いくせ毛。目つきはセモンの良く知っている誰かによく似ていて、表情もそっくりだ。

 青年の姿をした《ソレ》は、ふてぶてしい笑みを浮かべていた。

「「「……《天宮陰斗》……ッ!!」」」

 一部の人間が、その人物を見て絶叫した。だが、その名前はセモンの知っている人物のモノだ。そしてその人物は、こいつではない。

「いや違う……お前、シャノンじゃないな。誰だ!」
「辛辣だな、セモン君。僕は彼と非同一でありながら同一の存在であるというのに」

 その言葉で気付く。

 青年が、天宮陰斗(シャノン)とそっくりな目つきと、表情をしていることに。

「僕は《星龍明日華》……アスリウ。《エゴイズム・ゾーネン》よりもずっと前から存在する《触覚》だ。だが安心したまえ。本来ならばキミ達という《セカイ》ごと『閉ざす』ことも可能な僕だが、べつにそんな事をしに来たわけじゃない」

 ゆらり、と形容すべき動作で立ち上がった《アスリウ》は、一同を睥睨すると、にやにや笑いから、急きょとして奇怪な営業スマイルに変貌すると……

「お客様方、お風呂のご用意ができました。大浴場へどうぞ」
「「「「ズゴ―――――ッ!!」」」」
「「「「風呂屋かよッ!!」」」」

 何をしに来たのかと思えば、アスリウは従業員だった。しかも風呂当番だった。

 彼を送り込んできたのは十中八九《白亜宮》の者であろう。それも多分アイツだ。《主》だ。

 本当に何がやりたいんだ……セモンがそんな事を内心で思っていると、突然振り返ったアスリウが、ドヤァと笑って言った。

「やだなぁ。ただの暇潰しに決まってるだろ?」

 思わずぶん殴ったら易々と回避された。余計頭に来た。



 ***



 セモンたちの男子部屋と反対、女子部屋へと通されたコハクは、そこで初めて会ったながらも、どこか懐かしさを感じさせる少女たちと団欒していた。

「うわぁぁっ……コハクちゃんババ抜き強い……!」
「まぁ……鍛えられてるから……」

 中本理奈(リナ)と名乗った黒髪と白黒マフラーの、快活げな瞳の少女が笑う。それに対して、コハクは苦笑で答えた。

 現在コハク、リナ、皇季桃華(オウカ)姫乃臨花(ヒメカ)、そして華之美紗奈(サナ)は、サナ持ち込んだトランプによるババ抜きに興じていた。野生動物を容易に超越する直感能力を有するセモンとやり合っていくために無駄に鍛え上げられた直感で、コハクはそこそこ良い戦績を上げている。まぁ他のみんなもかなり強いので五分五分なのだが。

 ――――みんな苦労してるんでしょうね……。

 どこか遠い目をしてしまうコハク。この中では新羅北斗(ミザール)を除けばコハクが最年長だ。彼女はミヤビ、マリー、桐ヶ谷時雨葉(シーナ)七星音緒(アステ)と一緒に飲み物を買いに行ったので今はいない。

「それにしても素晴らしい直感です。SAO時代はさぞ優秀だったのでしょう?」
「うーん……周りがチートだらけだったから……ちょっとね。それに、ここぞという所で無力だったから」

 アリス・ツーベルクと名乗った金髪の少女の問いに、再び苦笑で答えるコハク。SAO時代だけでなく、無限の仮想世界を旅していく中で、本当に必要な時にセモンの力に成ってやれなかったことは何度もある。それがひどくつらかった時期もあった。

「……わかります。私にも、経験がありますから」

 しかしアリスは、神妙な顔でうなずいた。

 この少女は、キリトの友人である世界初のボトムアップ型AIの完成形、《ALICE》のアリス・シンセシス・サーティとは別人の、本物の人間だ。当然あのアリスとは別の歴史をたどっており、どことなく雰囲気も異なっている気がする。

 雰囲気が違う、といえば。

「それはきっと、ここに居るみんなに経験があるんじゃないかな。私も、自分のせいで理央に人を撃たせちゃったわけだし……まぁ、彼は許してくれたけどね」

 ふふ、とほほ笑んだのは、眼鏡を掛けたショートカットの少女。朝田詩乃(シノン)だ。こちらもキリトの友人のシノンとは同一人物でありながら別人。コハクが知っている彼女と比べると、少し明るい性格をしている気がする。

「だからコハクさんも、そんなに気にする必要はないんじゃないかな。きっとあなたの彼氏さんも気にしてないと思うよ」
「そっ……か……そうだよね。清文だし」

 「失礼だぞ」という声が聞こえそうな気がして、コハクはクスリ、と笑った。

 ――――その瞬間だった。

「……だれっ!」

 サナが鋭く叫んで、空中に五十を超える数の白銀のレイピアを出現させたのは。

 まるで意思を持ったかのように飛行するそれらは――――しかし、標的に突き刺さる前にいずこへと姿を消してしまった。

「おやおや、乱暴だな。いくら私が怪しい者でも、いきなり攻撃する必要はないと思うぞ」

 つつつ、と笑い声が響く。いつの間にか、部屋の中に見知らぬ少女がいた。否――――『見知らぬ』という表現は正しくない。コハクは、彼女とよく似た人物を知っていた。

「ガラディーン……?」

 《白亜宮》の城で、コハクと一騎打ちを繰り広げた剣士の少女、ガラディーン。あるいは、天宮陰斗の友人、星龍そう。彼女たちに、目の前の少女は酷似していた。相違点を上げるとすれば、その王者然とした気質と……なにより、十二歳ほどの幼女の姿をしていることか。

 コハクの問いに、少女はつつつ、と再び笑った。

「否、否。私はあの存在の触覚だよ。あの存在自体ではない。私はシェイド様より《アーニャ》の名を賜った者。本日はお前たちにひとつの報告をするために参上仕った」
「……何が、したいの?」

 どこからか弓を取り出したシノンが、矢を構える。

 アーニャと名乗った少女は、その瞬間に、ふいっ、と、謎の営業スマイルを見せて言った。

「お客様、お風呂のご用意ができております。大浴場へどうぞ! ……だったかな。こうやったら喜んでくれると思うってシェイド様言ってたんだけど」

 どたどたっ、と言うような音が背後から聞こえた。コハクも咄嗟に眩暈を感じてしまった。

 そりゃぁ――――

「失礼だな」
「いや、何しに来たのかと思ったら風呂屋だったら誰でも驚くでしょ!!」

 顔をしかめたアーニャに向かって、コハクは怒鳴る。すると彼女は三度笑って、

「大浴場は通路を曲がって左だ。どうぞごゆるりと」

 来た時と同様に、音もなく部屋から出て行った。

「……結局、何だったんでしょうか」
「さぁ……?」

 オウカの呟きに、リナが困惑顔で答える。

 ちょうどその時、四人分の足音が聞こえた。飲み物の買い出しに行っていた残りのメンバーが帰ってきたらしい。

「ちょうど良いわ。ちょっと早いけど、お風呂行っちゃいましょう」 
 

 
後書き
 お ま た せ し ま し たぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!
刹「お久しぶりです、皆様!」
 やっとPCに触れた!! 今まで更新が止まっていた理由については大分前のつぶやきを参照ください。いやぁ……本当にお待たせしました。これからは週一に戻れそうです。
 そんなわけでコラボ編第三話です。主人公勢は出そろいました。足りなかったらご一報ください。

刹「次回の更新は来週の明けか、土日の予定です。お楽しみに」 
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