ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
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第3部 始祖の祈祷書
第9章 宣戦布告
前書き
祝!累計PV100000回・累計UA30000人達成!!
どーも、作者です。
最初は遊び程度で書き始めたのですが、まさかこんなに読んでいただけるとは…感激です!
何回か、もうめんどくさい…と思うこともありましたが、更新を楽しみに待っていて下さっている方々のことを思うと、止められませんでした!
未熟者ゆえ、文が変なところもありますが、これからも頑張っていきたいと思います!
応援、よろしくです!!
ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式は、ゲルマニアの首都、ヴィンドボナで行われる運びであった。
式の日取りは、来月……、三日後のニューイの月の一日に行われる。
そして本日、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を迎えるために、艦艇を率いてラ・ロシェールの上空に停泊していた。
後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵が、国賓を迎えるために正装して居住まいを正している。
その隣には、艦長のフェヴィスが口ひげをいじっていた。
アルビオン艦隊は、約束の刻限をとうに越している。
「奴らは遅いではないか。艦長」
イライラしたような口調で、ラ・ラメーは呟いた。
「自らの王を手にかけたアルビオンの犬どもは、犬どもなりに着飾っているのでしょうな」
そうアルビオン嫌いの艦長が呟くと、鐘楼に登った見張りの水兵が、大声で艦隊の接近を告げた。
「左上方より、艦隊!」
なるほどそちらを見やると、雲と見まごうばかりの巨艦を先頭に、アルビオン艦隊が静静と降下してくるところであった。
「ふむ、あれがアルビオンの『ロイヤル・ソヴリン』級か……」
感極まった声で、ラ・ラメーが呟いた。
あの艦隊が、姫と皇帝の結婚式に出席する大使を乗せているはずであった。
「しかし……、あの先頭の艦は巨大ですな。後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船のように見えますぞ」
艦長が鼻を鳴らしつつ、巨大な艦を見つめて言った。
「ふむ、戦場では会いたくないものだな」
降下してきたアルビオン艦隊は、トリステイン艦隊に並走する形になると、旗流信号をマストに掲げた。
「貴艦隊ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長」
「こちらは提督を乗せているのだぞ。艦長名義での発信とは、これまたコケにされたものですな」
艦長はトリステイン艦隊の貧弱な陣容を見守りつつ、自虐的に呟いた。
「あのような艦を与えられたら、世界を我が手にしたなどと勘違いしてしまうのであろう。よい。返信だ。『貴艦隊ノ来訪ヲ心ヨリ歓迎ス。トリステイン艦隊司令官長官』以上」
ラ・ラメーの言葉を控えた士官が復唱し、それをさらにマストに張り付いた水兵が復唱する。
するするとマストに、命令どおりの旗流信号がのぼる。
どん!どん!どん!とアルビオン艦隊から大砲が放たれた。
礼砲である。
弾は込められていない。
大砲に詰められた火薬を爆発させるだけの空砲である。
しかし、巨艦『レキシントン』号が空砲を撃っただけで、あたりの空気が震える。
その迫力に、ラ・ラメーは一瞬あとじさる。
よしんば砲弾が込めてあったとしても、この距離まで届くことはない。それがわかっていながらも、実戦経験もある提督を後じらせるほどの、禍々しい迫力を秘めた『レキシントン』号の射撃であった。
「よし、答砲だ」
「何発撃ちますか?最上級の貴族なら、十一発と決められております」
礼砲の数は、相手の格式と位で決まる。
艦長はそれをラ・ラメーに尋ねているのであった。
「七発でよい」
子供のような意地を張るラ・ラメーを、にやりと笑って見つめると、艦長は命令した。
「答砲準備!順に七発!準備出来次第打ち方始め!」
アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号の後甲板で、艦長のボーウッドは、左舷の向こうのトリステイン艦隊を見つめていた。
隣では、艦隊司令長官及び、トリステイン侵攻軍の全般指揮を執り行う、サー・ジョンストンの姿が見える。
貴族議会議員でもある彼は、クロムウェルの信仰厚いことで知られている。
しかし、実戦の指揮は執ったことがない。
サー・ジョンストンは政治家なのであった。
「艦長……」
心配そうな声で、ジョンストンは傍らのボーウッドに話しかけた。
「サー?」
「こんなに近づいて、大丈夫かね?長距離の新型の大砲を積んでいるのだろう?もっと離れたまえ。私は、閣下より大事な兵を預かっているのだ」
クロムウェルの腰ぎんちゃくめ、と口の中だけで呟いて、ボーウッドは冷たい声で言った。
「サー、新型の大砲といえど、射程いっぱいで撃ったのでは、当たるものではありません」
「しかしだな、何せ、私は閣下から預かった兵を、無事にトリステインに下す任務を担っている。兵が怖がってはいかん。士気が下がる」
怖がっているのは兵ではないだろう、とボーウッドは思いながら、ジョンストンの言葉を無視して命令を下す。
空では自分たちが法律だ。
「左砲戦準備」
「左砲戦準備。アイ・サー!」
砲甲板の水兵たちによって大砲に装薬が詰められ、砲弾が押し込まれる。
空の向こうのトリステイン艦隊から、轟音が轟いてきた。
トリステイン艦隊が、答砲を発射したのだ。
作戦開始だ。
その瞬間、ボーウッドは軍人に変化した。
政治上のいきさつも、人間らしい情も、卑怯なだまし討ちであるこの作戦への批判も、すべて吹き飛ぶ。
神聖アルビオン共和国艦隊旗艦『レキシントン』号艦長、サー・ヘンリ・ボーウッド矢継ぎ早に命令を下し始めた。
艦隊の最後尾の旧型艦『ホバード』号の乗組員が準備を終え、『フライ』の呪文で浮かんだボートで脱出するのがボーウッドの視界の端に映った。
答砲を発射し続ける『メルカトール』艦上のラ・ラメーは、驚くべき光景を目の当たりにした。
アルビオン艦隊最後尾の……、一番旧型の小さな艦から、火災が発生したのだ。
「なんだ?火事か?事故か?』
フェヴィスが呟く。
次の瞬間、もっと驚くべきことが起こった。
火災を発生させた艦に見る間に炎が回り、空中爆発を起こした。
残骸となったそのアルビオン艦は、燃え盛る炎と共に、ゆるゆると地面に向かって墜落していく。
「な、なにごとだ?火災が火薬庫に回ったのか?」
『メルカトール』号の艦上が、騒然となる。
「落ち着け!落ち着くんだ!」
艦長のフェヴィスが水兵たちを叱咤する。
『レキシントン』号の艦上から、手旗手が、信号を送ってよこす。
それを望遠鏡で見守る水兵が、信号の内容を読み上げる。
「『レキシントン』号艦長ヨリ、トリステイン艦長旗艦。『ホバード』号を撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ」
「撃沈?何を言っているんだ!勝手に爆発したんじゃないか!」
ラ・ラメーは慌てた。
「返信しろ!『本艦ノ射撃ハ答砲ナリ。実弾ニアラズ』」
すぐに『レキシントン』号から返信が届く。
「タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ハ、貴艦ノ攻撃二対シ応戦セントス」
「バカな!ふざけたことを!」
しかし、ラ・ラメーの絶叫は、『レキシントン』号の一斉射撃の轟音でかき消される。
着弾。
『メルカトール』号のマストが折れ、甲板にいくつもの穴が開いた。
「この距離で大砲が届くのか!」
揺れる甲板の上で、フェヴィスが驚愕の声をあげる。
ラ・ラメーは怒鳴った。
「送れ!『砲撃ヲ中止セヨ。我ニ交戦ノ意思アラズ』」
しかし、『レキシントン』号はさらなる砲撃で、返事をよこしてきた。
着弾。
艦が震え、あちこちで火災が発生した。
『メルカトール』号から、悲鳴のような信号が何度も送られる。
「繰リ返ス。砲撃ヲ中止セヨ。我ニ交戦ノ意思アラズ!」
しかし、『レキシントン』号の砲撃は一向にやむ気配がない。
着弾。
砲撃の破片で、ラ・ラメーの体が吹っ飛び、フェヴィスの視界から消えた。
同時に着弾のショックでフェヴィスは甲板に叩きつけられる。
フェヴィスは悟った。
これは計画された攻撃行動だ。
奴らは初めから、親善訪問のつもりなどない。
自分たちはアルビオンに嵌められたのだ。
艦上では火災が発生している。
回りでは傷ついた水兵たちが、苦痛のうめき声をあげている。
頭を振りながら立ち上がり、フェヴィスは叫んだ。
「艦隊司令官戦死!これより旗艦艦長が艦隊指揮を執る。各部被害状況知らせ!艦隊全速!右砲戦用意!」
「奴らは、やっと気が付いたようですな」
ゆるゆると動き出したトリステイン艦隊を眺めつつ、ボーウッドの傍らでワルドが呟いた。
ワルドも、名ばかりの司令長官であるジョンストンにいかほどのことができるとも思っていない。
上陸作戦全般の実際の指揮は、ワルドが行うことになっていた。
「の、ようだな、子爵。しかし、すでに勝敗は決した」
行き足ついていたアルビオン艦隊は、全速で動き出したトリステイン艦隊の頭を抑え込むような機動で、既に動いていた。
アルビオン艦隊は一定の距離を保ちながら砲撃を続けている。
「艦長、新たな歴史のページが始まりましたな」
ワルドが言った。
「ただの戦争が始まっただけさ」
苦痛の叫びをあげる間もなく潰えた敵を悼むような声で、ボーウッドは呟いた。
トリステインの王宮に、国賓歓迎のため、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の報がもたらされたのは、それからすぐのことだった。
ほぼ同時に、アルビオン政府からの宣戦布告が急使によって届いた。
不可侵条約を無視するような、親善艦隊への理由なき攻撃に対する非難がそこには書かれ、最後に『自衛ノ為神聖アルビオン共和国政府ハ、トリステイン王国政府二宣戦ヲ布告ス』と締められていた。
ゲルマニアへのアンリエッタの出発でおおわらわであった王宮は、突然のことに騒然となった。
すぐに将軍や大臣たちが集められ、会議が開かれた。
しかし、会議は紛糾するばかり。
まずはアルビオンへ事の次第を問い合わせるべきだ、との意見や、ゲルマニアに急使を派遣し、軍の要請をするべきだ、との意見が飛び交った。
会議室の上座には、呆然とした表情のアンリエッタの姿も見えた。
本縫いが終わったばかりの、眩いウェディングドレスに身を包んでいる。
これから馬車に乗り込み、ゲルマニアへと向かう予定であった。
会議室に咲いた、大輪の花のようなその姿を、気にとめるものは誰もいない。
アルビオンへと特使派遣が決定した矢先に、急報が届いた。
「急報です!アルビオンの艦隊は、降下して占領行動に移りました。
「場所はどこだ?」
「ラ・ロシェールの郊外。タルブの草原です」
時刻は昼を過ぎた。
王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。
一向に会議はまとまらない。
枢機卿マザリーニも、結論を出しかねていた。
未だ彼は、外交での解決を望んでいるのだ。
怒号飛び交う中、アンリエッタは、薬指に嵌めた『風』のルビーを見つめた。
ウェールズの形見の品だ。
それを自分に託したウルキオラの顔を思い出した。
あの時、自分はこの指輪に誓ったのではないか?
愛するウェールズは、勇敢に死んでいったのだ。
なら、自分は勇敢に生きてみようと。
「タルブの村、炎上中!」
その急使の声で、呆然としていたアンリエッタは我に返った。
大きく深呼吸して立ち上がる。
一斉に視線が王女へと注がれた。
アンリエッタは、わななく声で言い放った。
「あなた方は、恥ずかしくないのですか?」
「姫殿下?」
「国土が敵に侵されているのですよ。同盟だなんだ、特使がなんだ、と騒ぐ前にすることがあるでしょう」
「しかし……、姫殿下……、誤解から発生した小競り合いですぞ」
「誤解?どこに誤解の余地があるというのですか?礼砲で艦が撃沈されたなど、言いがかりも甚だしいではありませんか」
「我らは、不可侵条約を結んでいるのです。事故です」
「不可侵条約?結んでいた…の間違いではないですか?アルビオンには明確な戦争の意思がある」
「しかし……」
誰も何も言わなくなった。
「なるほど、あなた方は怖いのですね?」
「姫殿下」
マザリーニがたしなめた。
しかし、アンリエッタは言葉を続けた。
「ならば私が率いましょう。あなた方は、ここで会議を続けなさい」
アンリエッタはそのまま会議室を飛び出していった。
マザリーニや、何人もの貴族が、それを押しとどめようとした。
「姫殿下!御輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
「ええい!走りにくい!」
アンリエッタは、ウェディングドレスの裾を、膝上まで引きちぎった。
引きちぎったそれを、マザリーニの顔に投げつける。
「あなたが結婚なさればよろしいわ!」
宮廷の中庭に出ると、アンリエッタは大声で叫んだ。
「私の馬車を!近衛!参りなさい!」
聖獣ユニコーンが繋がれた、王女の馬車が引かれてきた。
中庭に控えた近衛の魔法衛士隊が、アンリエッタの声に応じて集まってくる。
アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外すと、ひらりとその上に跨った。
「これより全軍の指揮をわたくしが執ります!各連隊を集めなさい!」
次々に中庭の貴族たちは駆け出していく。
城下に散らばった各連隊に連絡が飛んだ。
その様子をぼんやりと見つめていたマザリーニは、天を仰いだ。
姫の言う通りであった。
騒ぐ前に、すべきことがあった。
マザリーニは被った球帽を地面に叩きつけた。
アンリエッタが自らに投げつけたドレスの裾を拾い、頭に巻いた。
「各々方!馬へ!姫殿下一人を行かせたとあっては、我ら末代までの恥ですぞ!」
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