静かに主導権を
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第三章
第三章
「浅原のところね」
「そこに行ってきたのね」
「そういうこと。やっぱり貸してくれたわ」
こう言ってまた笑うのであった。
「大成功ね。これでね」
「そうなの。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「次の段階に移るわ」
にこにことしたままでこれからのことを考えるのであった。
「さて、次はね」
「次は?」
「何か楽しくなってきたわ」
自分で自分のことがそうなってきているのである。完全に恋に染まっていた。
そうして授業の後である。鈴は康史のクラスに来てだ。彼に対して言うのである。
「有り難う」
「ああ、役に立った?」
「立ったわ」
そうだったと満面の笑顔で話すのである。
「助かったわ。有り難う」
「そうだったの、よかったよ」
「それじゃあお礼をしないといけないわね」
そして鈴は彼に気付かれないうちに次の段階に移ったのだった。
「あのね、いいかな」
「うん、何?」
「お昼だけれどね」
まずは些細なことと考えてである。彼女は言うのであった。
「お昼ね。奢らせてもらうわ」
「いや、いいよそれは」
康史はその申し出は笑って拒もうとした。
「こんなのよくあることじゃない」
「いや、そういう訳にはいかないのよ」
鈴はそれは許さなかった。まさに彼女にとって今の作戦の根幹であるからだ。それを逃がす程彼女は迂闊な人間ではないということであろうか。
「それじゃあね」
「それじゃあ?」
「お昼ね」
少し強引に決めてしまった鈴だった。
「お昼一緒に食べましょう」
「お弁当あるけれどいいよね」
「お弁当も一緒に食べたらいいじゃない」
やはりここでも強引であった。
「それじゃあ。お昼ね」
「うん、悪いね」
「だからこっちは御礼だからいいのよ」
こう話してそのうえでお昼の約束を取り付けたのであった。そうして皆ががやがやと楽しく食べている食堂で向かい合って座りラーメンを食べるのであった。鈴はラーメンがいいと言ってそれを頼んだ康史に対してこれまたにこにことしながら言ってきたのだった。
「浅原ってラーメン好きなの」
「うん、そうなんだ」
このことを実際に認める彼だった。
「実はね」
「そうなの。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「美味しいラーメン屋知ってるわよ」
こう言ってきたのである。チャンスは逃さなかった。
「紹介していいかしら」
「何処のお店なの?」
「ええとね、ドライブインの近くにあってね」
「うん」
「そこで結構繁盛してるのよ」
そうしたお店だというのである。
「そこ。どうかしら」
「ふうん、ドライブインね」
「ラーメンは豚骨よ」
これも言うのであった。
「博多ラーメンっていうのかしら」
「あっ、博多なんだ」
それを聞いて明るい顔になった康史だった。
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