リリカルアドベンチャーGT~奇跡と優しさの軌跡~
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第三十五話 氷炎の狼
前書き
ガブモンX進化の回。
チビモン[リリカルアドベンチャー、始まるよ!!]
子供達は出口を求めて、地下水道を歩いていた。
大輔、賢「「……」」
フェイト「大輔、どうしたの?」
はやて「賢兄?」
フェイトが大輔を、はやてが賢を不思議そうに見つめる。
大輔「ああ、いやな…」
賢「こういうジメジメとした所には決まってあいつがいるんだよ」
フェイト「あいつ?」
はやて「あいつって誰や?」
ブイモン[ああ、あいつか]
ワームモン[出来ることなら会いたくないよね]
ブイモンとワームモンは大輔と賢の言う“あいつ”を思い出したのか顔をしかめた。
すずか「(大輔さんと賢さんがこんなにも嫌がるなんてどんなデジモンなんだろう…?)」
大輔「ああ…思い出しただけで鳥肌が立つ…」
賢「出来ることなら会わずにここを出たいね…」
しかし、その願いは脆くも崩れ去るのであった。
……鋭敏な感覚を持つツカイモンとルナモンの耳に微かに耳障りな声が届いた。
ルナモン[あの声……ヌメモンだ!!]
すずか「ヌメモン?」
プロットモン[暗くてジメジメしたトコが好きで、知性も教養もないデジモンよ!!]
なのは「強いの?」
大輔「いや、弱い。そこらの成長期より弱い」
賢「弱いけど…汚いんだ……」
なのは「汚いのぉ!?」
ツカイモン[デジタルワールドで文句なしの嫌われ者ぶっちぎりでNo.1だ]
ユーノ「嫌われ者って…」
アリシア「…なんか声、近付いてこない?」
耳を澄ますと、確かに声はどんどん大きくなる。
大輔「…皆、逃げる準備しとけ」
賢「…了解」
デジモン達【おう!!】
子供達【え?】
大輔と賢を除いた子供達が疑問に思うと同時に全員の目にも見えるくらいに近付いてきた。
フェイト「ひっ…!?」
すずか「嫌ぁ、ナメクジ…!!?」
大輔「やっぱりヌメモンかよ!!総員退避!!!」
大輔の合図で、走り出す一同。
アリサ「弱いならどうして逃げるのよ!?」
賢「今に分かる!!!」
別にヌメモンの攻撃手段がアレでなければ、大輔も賢もここまで必死に逃げたりはしない。
ちなみにヌメモンは、デジモンアドベンチャーにおけるギャグ担当の汚物系デジモン代表格の筆頭である。
勿論ギャグはギャグでも下ネタ方面で。
そのあまりにもあからさますぎる必殺技は、冒頭とあらすじ、デジモン紹介などを担当したナレーターが唯一言い淀んだ程の破壊力を誇るのだ。
ぼちゃんと音を立てて足元の下水に落ちるのは、なんとヌメモンのアレ。
20匹はいようかというヌメモンの大群は、一斉に子供達に向かってアレによる攻撃を仕掛けてきた。
なのは「にゃあああぁぁーっ!!!!」
大輔「こっち来んじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!」
フェイト「嫌あああああっ!!!!」
なのはと大輔とフェイトは全速力で走った。
特に運動が苦手と自負しているなのはは普段からは考えられない程のスピードだった。
フェイトも普段の冷静さは無くなり半泣きで必死に逃げている。
すずか「塩ー!!誰か塩持ってきてー!!」
すずかが泣きながら残酷なことを言う。
ルカ「(…ヌメモンには効果ないと思うけど…)」
すずかの叫びにルカは内心で突っ込む。
ユーノ「何て嫌な攻撃なんだ…」
なるほど、これは下手に強いデジモンにやられるよりダメージはでかいかもしれない。
主に精神的ダメージが。
アリシア「皆!!あれ!!」
半泣きのアリシアが出口を指差す。
大輔「よし!!皆、あの出口に向かって突っ走れ!!」
子供達は凄まじいスピードで出口を目指す。
その速さはライドラモン顔負けのスピードであった。
勿論ヌメモン達も追ってくるが、出口に駆け込み、間一髪で子供達は外に出る事が出来た。
太陽の光が苦手なヌメモン達は悔しそうに下水道へと退散して行く。
太陽をこれほどまでにありがたく感じたのは、多分これが初めてだろう。
子供達は肉体的にも精神的にも疲労していたがヌメモンから離れる為に足を動かした。
アリシア「……あっ!!」
ルカ「……え?」
不意に、アリシアとルカが驚きの声を上げて立ち止まった。
その視線の先にあるのは、自動販売機。
電気が通っているかどうかは分からないが、電話ボックスや電車の例もあるから恐らく使う事が出来るだろう。
アリシア「こんな所に、自動販売機が沢山……!!」
フェイト「アリシア、まさか飲みたいなんて……」
アリシア「うん!!」
ユーノ「アリシア、どうせ出やしないよ!!」
キラキラと目を輝かせたアリシアはユーノが止める暇もなく駆け出した。
プロットモンも慌ててアリシアを追いかける
アリサ「全く……」
ルカ「ジュース…出るのかな?電話っていうの使えなかったんでしょ?」
はやて「確かになあ……」
アリサ達の小さな呟きはアリシアには届かない。
アリシアは自動販売機の中でお目当ての商品を売っている物を見つけたのか、嬉しそうな声を上げて立ち止まり目を輝かせていた。
アリシア「わぁ、オレンジジュース!!プロットモンも飲む?」
プロットモン[え?わ、私は遠慮するわ…]
アリシア「何で?」
プロットモン[いや、何でと言われても…]
プロットモンは何と言えばいいのか分からず口ごもった。
ただ自動販売機からとてつもなく嫌な予感がしたからだ。
それを目を輝かせているアリシアに言うべきだろうか…。
パートナーを不思議そうに見上げ、アリシアは持っていた硬貨を機械に投入する。
だがランプが灯ることはなく、自動販売機は突然真っ二つに割れ空洞な中身をさらけ出した。
商品の缶など無い機械の中に鎮座していたのは、ヌメモンだった。
[お姉ちゃん、オイラとデ~トしない!?]
アリシア「え…!?」
ヌメモンのデートの誘いにアリシアが顔を真っ青にする。
これが当時のミミなら怒鳴り付けるだろうがアリシアは違う。
アリシアから出た言葉は…。
アリシア「えっと…ごめんなさい」
[ガーン!!]
アリシアの言葉にヌメモンはショックを受けて固まった。
しかし直ぐに硬直を解いた。
[成る程…]
ヌメモンが納得したように呟いた。
アリシア「?」
[これがツンデレって奴か!!お姉ちゃん!!俺とデートしてえええ!!!!]
アリシア「嫌だあああああ!!!!!!」
都合のいい脳内補正でアリシアの言葉をプラス方向に受け止めたヌメモンのデートの誘いをアリシアは全身全霊で拒否した。
大輔「ツンデレ…か…」
ヌメモンのツンデレ発言に大輔は思わずアリサを見遣る。
アリサ「…何で私を見るのよ……」
大輔「あ、いや…ツンデレと言えばお前だろ?まあ、それがお前の魅力なんだろうけど」
アリサ「なっ!?」
はやて「大輔さん大胆やな~」
大輔の発言にアリサは顔を真っ赤にする。
フェイト「……」
フェイトはジト目で大輔を見遣った。
なのは「アリシアちゃん。可哀相…」
なのはがアリシアを哀れみの目で見る。
不意にがこん、と自動販売機が揺れ1匹のヌメモンが新たに姿を現した。
1匹いたらなんとやら…。
賢「(ゴキ〇リかこいつらは…!!)」
賢は眉間に手の甲を当て、深く溜め息を吐いた。
まるでゴキ〇リの如く他の自動販売機からも次々とヌメモンが飛び出してくる。
[[[[お姉ちゃん!!俺とデートしてえええええ!!!!!!]]]]
アリシア「嫌だああああああああああ!!!!!!!!!!」
アリシアは全速力で大輔達に向かって走る。
当然ヌメモン達はアリシアを追う。
状況を理解した子供達は弾けるように逃げ出した。
なのは「もう…嫌だあ……っ!!」
ユーノ「最悪すぎる!!」
賢「晴れろ…頼むから今すぐ晴れてくれ…!!」
すずか「なんかトラウマになりそう…」
薄暗い原っぱを駆け抜ける子供達とヌメモン。
これほどまでに嫌な鬼ごっこは生まれて初めてだ。
恐る恐る振り返れば、ヌメモンの大群は徐々に距離を狭めてきていた。
大輔「やべえ!!」
アリサ「こうなったら分かれるわよ!!」
ユーノ「それしかない!!なのは、こっちへ!!」
なのは「え?あ、うん!!」
大輔「フェイト、アリサ。ついて来い!!」
賢「はやてとすずかはこっちに!!」
ルカ「僕達は…あっち…だね…」
アリシア「うん!!」
子供達は別々の方向に逃げた。
ルカとアリシアは走り続けるが、とうとうアリシアが膝をついた。
プロットモン[アリシア、大丈夫?]
フレイモン[ヌメモンも撒けたことだし、少し休憩するか?]
プロットモンとフレイモンがアリシアを心配そうに見下ろす。
ルカ「……」
フレイモン[ルカ?]
何かを見つめているルカをフレイモンは不思議そうに見つめる。
ルカ「…何か…来る…」
アリシア「え!?」
[お姉ちゃん達!!ここに隠れな!!奴が来るぞ!!]
ヌメモンがこちらに来るように手招き?する。
プロットモン[ここは隠れましょう!!]
フレイモン[おう!!]
ルカ達が隠れると同時に熊の縫いぐるみのようなデジモンが現れた。
ルカ「あれは…?」
フレイモン[もんざえモンだ…]
もんざえモン[おもちゃの町へようこそ。おもちゃを愛し、おもちゃに愛されるおもちゃの町の町長ですよ]
アリシア「あれ…いいデジモンなの…?」
プロットモン[そのはず…なんだけど…]
[騙されるな、最近奴はどうも様子がおかしいんだ…]
ヌメモンがアリシア達に注意する。
もんざえモン[皆と一緒に遊びましょう]
もんざえモンはそう言うと町に向かって行った。
フレイモン[行っちまった…]
ルカ「皆と一緒にって言ってた…もしかしたら皆、おもちゃの町に…」
アリシア「行こうよ!!」
[おもちゃの町で俺とデートか!!]
アリシア「…ごめんなさい」
アリシアは頭を下げると同時に駆け出した。
[ハッキリ言うお姉ちゃんだな…でも…そこがまた堪らなーい!!待ってくれよ、お姉ちゃん達ぃぃぃぃっ!!!!]
アリシア達はヌメモンの声を無視しながら走り続ける。
これがアリシアのクローンであるフェイト・テスタロッサには受け継がれなかったアリシア・テスタロッサという女の子が、何故か汚物系と呼ばれているデジモン達から異様に好かれて、モテモテであるという本人からすれば失神ものの事実が判明した瞬間である。
もちろんこの時まだアリシアは、自分の恐るべき体質について知るはずもなかった。
おもちゃの町はまるで遊園地のような街だった。
1番高い場所には三角柱の赤い屋根と大きな窓をいくつも持った、白い城が立っている。
観覧車やジェットコースター、メリーゴーランド、といった様々なアトラクションがここからでも見えるし、西洋風の素敵な街並みを再現した通りがアリシア達を待っていた。
色々な色の風船が空に上っていくのが見える。
状況が状況でなければ、わくわくする光景だったのかもしれない。
子供達だけでは滅多に来れない場所である。
アリシア「あ、大輔お兄ちゃん!!」
アリシアはベンチに座っている大輔を見つけると駆け寄る。
大輔「………」
大輔の瞳は何も映してはおらず、まるで人形のようであった。
アリシア「お兄ちゃん…?」
アリシアがまるで人形のようになってしまった大輔を見つめる。
次に見付けたフェイトも大輔と同じ状態になっていた。
賢もはやて達も同様に。
フレイモン[まるで感情を取られちまったみたいだ…]
プロットモン[まるで人形のようだわ…]
フレイモンとプロットモンが不安そうに大輔達を見つめながら言う。
不審に思いながらも先を歩くアリシア達。
しかし物音がして、そちらに向かう…。
なのは「わあ!!?」
アリシア「なのは!!?それにガブモンも…」
ガブモンX[無事だったんだ…]
フレイモン[そっちもな]
プロットモン[どうやって助かったの?]
なのは「ユーノ君が咄嗟に庇ってくれて…」
なのはが俯きながら事情を説明する。
ユーノに助けられたなのはは、もんざえモンを追ってこのおもちゃの町まで来たのだ。
しばらく歩くと6人の耳に、微かに聞き覚えのある声が届いた。
アリシア「…ブイモン?」
ブイモン[アリシア!!無事だったのか!?]
アリシア「うん!ルカもなのはもフレイモンもガブモンも一緒だよ!!」
薄暗い小さな家の中のおもちゃ箱に押し込められているのはブイモン達。
ギルモン[はやて達はもんざえモンにやられちまったんだ…]
ギルモンは悔しそうに言う。
チビモン[お願いなのは、アリシア、ルカ。もんざえモンを倒して、みんなを助けて!!]
アリシア「えぇっ!?無理だよ!!完全体相手にどうやって戦えばいいの!!?」
ルカ[ガブモンもフレイモンもプロットモンも進化出来ない…]
ルナモン[そ、それは…]
どすんどすん。
大きな足音が響いてきた。
もんざえモン[ようこそ、いらっしゃいました。ここはおもちゃの町、どうぞごゆっくり楽しんでいってください]
ぎぎぎぎぎ、と壊れてしまった機械のように、恐る恐る背後を見遣るともんざえモンがいた。
ツカイモン[早く逃げるんだ!!]
ツカイモンが叫ぶ。
アリシア達は即座にもんざえモンから距離を取った。
アリシア「もんざえモンはおもちゃの町の町長さんなんでしょ!?何でお兄ちゃん達を酷い目に合わせるのっ!!?」
もんざえモン[酷い目に合わせているのは、皆さんの方でしょう?おもちゃを買ってもらっても、飽きたらすぐに捨ててしまう。そんな子供達が許せないのです。だから、そんな悪い子には、感情を奪っておもちゃのおもちゃになってもらいます。勿論、皆さんにもなってもらいましょう。寂しくないですよ、皆、一緒ですから]
アリシア「お兄ちゃん達をおもちゃのおもちゃに…?」
フレイモン[そんなことさせるかよ!!ベビーサラマンダー!!]
ガブモンX[プチファイアーフック!!]
もんざえモンの顔面にフレイモンとガブモンXの炎の拳が直撃するが、もんざえモンは平然としている。
プロットモン[パピーハウリング!!]
プロットモンも必殺技を繰り出すが全く効かない。
なのは「ああ…」
ルカ「全然効いてない…!!」
アリシア「どうしよう…!!」
[俺に任せとけええええ!!]
なのは、ルカ、アリシア「「「え?」」」
後ろからした声にルカとアリシアは振り向いた。
飛び出したのはヌメモンの大群。
[行けえー!!]
もんざえモンに向かって次々ととんでいくアレのいくつかは、べしゃっともんざえモンの身体で潰れた。
…助けてもらったのに手放しに喜べないのはどうしてだろう。
フレイモンは微妙な顔をしていた。
なのは「………ヌメモンが、私達のために戦ってくれてる。アレを投げるしか取り柄がないのに…!!」
ガブモンX[根性なしで、ヘタレで変態で救いようのない汚物デジモンのヌメモンが…]
アリシア「ええ…?」
ルカ「………(取り柄と言っていいのかな…)」
しかし、無常にももんざえモンの青いハートマークの風船が沢山現れ、ヌメモン達を捕まえていく。
その勇敢な姿に煽られる形で、自分達も何かしなければならない。
逃げ出すばかりではいけないと感じた。
なのは「ガブモン」
ガブモンX[何?]
なのは「逃げてばかりじゃ駄目、戦おう」
ガブモンX[OK!!]
なのはとガブモンXが互いの顔を見合わせ、頷いた時だった。
なのはのD-3から光が放たれた。
ガブモンX[ガブモンX進化!ガルルモンX!!]
ガブモンXは狼のような姿をした獣型デジモン。
寒冷地帯に住み、知能が高く、肉食獣的な敏捷さと正確さを持ち、肩のブレードが金属化した他、全体的に毛の質感が増したガルルモンXに進化した。
なのは「ガルルモン…」
アリシア「ガブモンが進化した…」
ガルルモン[さてと、皆は少し離れてて]
ガルルモンXはそう言うと同時に駆け出した。
もんざえモンが目からビームを放つがガルルモンXには掠りもしない。
パワーではもんざえモンに分があるがスピードはガルルモンXの方が上だ。
ガルルモンX[フォックスファイア!!]
ガルルモンXはもんざえモンの周りを駆け回りながら口から高熱の炎を放つ。
もんざえモンはガルルモンXに向けてパンチを繰り出すがかわされた。
もんざえモンのパンチは地面に減り込み、抜けなくなってしまう。
ガルルモンXはその隙を逃さなかった。
ガルルモンX[アイスキャノン!!]
口から放たれた冷気の弾がもんざえモンに炸裂した。
もんざえモンの身体が凍結していく。
動きが完全に止まったのを見てガルルモンXはとどめの一撃を繰り出す。
ガルルモンX[ガルルスラスト!!]
後方宙返りと同時に相手を蹴りつける技を繰り出す。
その衝撃で、もんざえモンが吹き飛び、背中のファスナーから黒い歯車が飛び出した。
ルカ「黒い歯車…」
フレイモン[またかよ…]
なのは「ガルルモン!!」
なのははガルルモンXに嬉しそうに抱き着いた。
ガルルモンX[俺、強かっただろ?]
なのは「うん!!」
アリシア「いいな~」
アリシアは羨ましそうにガルルモンXとなのはを見ていた。
もんざえモン[おもちゃは飽きられるとあっさり捨てられ、壊されてしまう……それが許せなかったのです]
正気を取り戻したもんざえモンは語る。
背を丸め、申し訳なさそうに語る背中が寂しかった。
もんざえモン[おもちゃが遊ばれちゃいけない、おもちゃが遊ばなくちゃいけないと思って…すみません、思い上がっていたんです]
アリシア「思い上がってるなんて、そんなことないよもんざえモン。もんざえモンの言ってる事はは間違ってないもん」
プロットモン[そうよ。少しやり方を間違えていただけだわ。]
アリシアだって、他の子供達も、皆小さい頃は沢山のおもちゃに囲まれていたのだ。
その時の気持ちは、まだちゃんと覚えている。
顔を見合わせてにっこりと笑うアリシアとプロットモンにもんざえモンは微笑みかけた。
もんざえモン[ガブモン、ワシを正気に戻してくれてありがとう。お礼にハッピーにしてあげましょう。ラブリーアタック!!]
優しいピンク色のハートが、子供達とデジモン達を包んでふわりと空を飛ぶ。
暖かくて幸せな気持ちが沸き上がる。
今度こそ本物の笑顔が、笑い声が、おもちゃの街に溢れた。
~おまけ~
時間軸は闇の書事件終結後から数年後、大輔達は高校生くらいの年齢。
教会でカリムに報告をしていた一輝は礼拝堂に入ってきた気配に気付いて後ろを向いた。
一輝「大輔、フェイト?」
大輔「兄ちゃん久しぶり」
フェイト「一輝さん、お久しぶりです」
一輝「ああ、大輔も前より背が高くなったし、フェイトも綺麗になったな」
カリム「はい、見違えました。」
大輔「ありがと、二人共、今日は何か予定はあるか?」
大輔の問いに一輝とカリムは互いの顔を見合わせ、疑問符を浮かべたが、首を横に振る。
大輔「最近オープンした焼き肉屋に一緒に行こうと思ってさ。カリムさんは初めてだろうし、兄ちゃんも久しぶりだろうと思ってさ」
そして焼き肉屋に着いた一行。
因みに焼き肉屋に行こうとした一行を止めようとしたシャッハは現在ブイモン達に足止めされていた。
カリム「私、こういう店は初めてです」
サングラス等で変装しているカリムにフェイトも笑いながら頷いた。
大輔が注文を頼み、どんどん肉と野菜が運ばれてきた。
一輝「…………」
フェイト「一輝さん?」
カリム「放心してます…」
一輝「俺は…?」
大輔「兄ちゃん?」
一輝「俺は死んだのか…?」
フェイト「はい?」
大輔「そういや兄ちゃんって施設暮らしだったよな…。おーい兄ちゃーん」
一輝「あ、な、何だ?」
大輔「肉焼けたから早く食えよ」
フェイト「頂きます」
こうして焼き肉を食べ始める一行。
大輔「美味い!!」
カリム「美味しいです。美味し過ぎてついつい食べてしまいます」
一輝「こんなに食うのは、父さん達が生きていた頃以来だな……それにしても」
大輔「ん?」
一輝「あんなに小さかったお前がこんなに立派になるとは思わなかった。」
あんなに小さくてジュンや自分の後ろにいた子供が、今や一人前の男となり、守る側に立ったことを一輝は誇らしく思う。
一輝「エリオとキャロも随分とお前達を慕っているようだし、もう立派な親だな」
大輔「…ありがと、俺さ。守る側に、兄ちゃんと同じ立場になって分かったことがあるんだ」
一輝「?」
大輔「守るって凄い大変なことなんだって。昔チビだった俺は、姉ちゃんや兄ちゃんが俺を守ろうとしてくれたのを、どこか鬱陶しいと思ってた。過保護だって…でも、フェイト達に会って、あの時の姉ちゃん達と似たような立場になってようやく分かったんだ。姉ちゃんも兄ちゃんも、この世界に来る前の俺よりも小さかったのに。見守ってくれたり、俺のために出来る精一杯をしてくれたんだって。」
一輝「大輔…」
大輔「ありがとう兄ちゃん」
一輝「礼を言うのは寧ろ俺の方だ大輔。家族を失って施設暮らしになった時、俺を支えてくれたのは両親とお前達と過ごした思い出だった。そして今でも俺はお前に支えられている。」
大輔「………」
一輝「これからも見守らせてもらうさ。お前達が幸せになる未来をこの目で見届けるまでは死ねないからな」
フェイト「一輝さんだってカリムさんの傍にいてあげないと」
カリム「…………」
一輝「俺が?」
大輔「カリムさんが頑張れるのは、兄ちゃんがいてくれるからなんだよ。」
赤面するカリムに疑問符を浮かべる一輝。
二人がくっつくのは、まだまだ先になりそうだ。
といっても、カリムの後継者が現れるまでは結婚もお付き合いも出来ないけれど。
大輔「とにかく、兄ちゃん。これからもよろしくな」
一輝「ああ、こちらこそな」
こうして大輔達は食事を再開した。
大輔「おい、兄ちゃん!!肉ばっか食ってないで野菜も食えよ!!」
さっきっから肉ばっか食っている一輝の横から肉の皿を取り上げ、妬いていたピーマンやら玉葱やらキャベツやらを載せる。
一輝「う……。た、食ってるって」
大輔「嘘つけ!!サンチュを片手で数えられるくらいしか食べてねえじゃん!!」
一輝「違う!!……ギリギリ両手で数えられるくらい…」
大輔「変わんねえから!!」
一輝の皿に野菜を盛りながら、大輔は笑った。
後書き
おまけは書いていて楽しかった。
守る側になって初めて親や兄弟の気持ちが分かるんですよね…。
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