普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
056 それから…
前書き
超☆展☆開
SIDE 平賀 才人
「サイト・ヒラガ・オブ・ペンドラゴンの名に於いて、ヒラガ公国の建国をここに宣言する!」
――ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
俺がそのスピーチを〝拡声〟の魔法で〝国民〟に伝える。……しん、となったと思ったら、その数秒後、地響きとも取れる歓声が俺の鼓膜を、身に纏っている豪奢な服をものともせず全身の肌を蹂躙する。……俺を称えるはずの歓声も、幾多とも集まれば、ぴりりと痛いと云う事を今は実感している。
……どうしてこんな事になったかと云うと、それは1ヶ月ほど前の〝ロマリア戦役(仮)〟の戦後会談に遡る──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ウェールズ陛下、詳しい話は後々伺いますので、どうか今は御着席下さい」
「……判ったよ、サイト」
ウェールズは喉まで出掛けていたいたであらう言葉を呑み込んで腰深く着席する。
「……そんな…私のしてきた事は一体…」
「……ヴィットーリオ卿は、ただ空回りしていただけです。ハルケギニアを愛する気持ちは痛いほど伝わりました。……ですが、ヴィットーリオ卿がこれ以上ハルケギニアの未来に腐心する要因は無くなりました。……ヴィットーリオ卿もそろそろ始祖の柵から解き放たれても、始祖からの赦されるでしょう」
「………」
ヴィットーリオは呆気に取られた表情をしている。
(……後はヴィットーリオ次第だな…)
「司会、私の訊きたい事は無くなりました。……他の御三方も、貴重なお時間頂き有難う御座いました」
ヴィットーリオはこの部屋に常駐していた衛兵に別室へとに連れて行かれたのを確認する。……そして俺は一礼することも忘れず、元の位置へと──ウェールズの傍らへと戻る。
「……さてそれでは、するべきだった議論に戻すとしよう」
その後も戦後会談は、多少のあれそれ──アルブレヒト3世のやっかみやアンリエッタ姫のノーテンキな発言が飛び交いつつも粛々(?)と、恙無く…とは上手くは無かったが、それでも議論は重なっていく。……そして、今会談の本丸の内容に議論の内容は移ろっていった。
……今回の会談の本丸…。それは、元・ロマリアの今後だった。
今のロマリアはブリミル教の権威が振るえなくなっていて、〝国〟としての威厳が保てていないフワフワの状態だった。……それこそ、それなりの求心力があり頭の良い者なら誰でもトップに立てそうなくらいには。
「さて、ロマリア…だった土地についてだが。……いっその事、今回の戦争の〝真の〟立役者であるヒラガ殿に委任しようと思うが…どうだろうか?」
(やはり来たか…っ)
「っ──」
ジョゼフがロマリアだった土地を俺に押し付けようとしているのは判っていたので──
「トリステイン国は異存ありませんわ」
「ゲルマニア国も異存なし」
「アルビオン国も異存なし」
「提案者は俺だ。故に当然、ガリア国も異存はない」
国なんか統治するつもりも無い俺は周囲の〝反対〟を得つつ、やんわりと断ろうとしたら、俺のその言葉に被せるように各国の首脳が間髪を入れずに次々と宣う。
(あれ…? 詰んでる…?)
……何のことも無い。ジョゼフは既にロマリアを俺に委せる(押し付ける)事を各国の首脳に周知していただけ。……それに気が付いた時には、時既に遅し。俺に出来る事が有るとすれば、内心で何の汚れも無い白旗を両手で降って降参することだけだった。
(……嗚呼、やられた…)
……舐めていた。俺はジョゼフ・ド・ガリアと云う──宮廷雀飛び交う宮殿で、文字通りその身1つその舌1つで生き抜いてきた百戦錬磨のこの傑物を舐めていた、侮っていた。それに、漸く先ほどジョゼフが薄く微笑みを浮かべていた理由も判った。ジョゼフからしたら、これはちょっとした俺への意趣返しだろう。
今のところ一アルビオン貴族でしかない俺にそんな首脳陣の意見を翻させる様な弁舌を持ち合わせているわけもなく──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……と、まぁそんなこんなでジョゼフにやり込められた。書かなければならない書類を纏めていたら、この1ヶ月間は目まぐるしく過ぎ去り、今や建国セレモニーの真っ最中。
……ちなみにこれらは余談だが…この元・ロマリアの土地、〝委任〟と云う形は何だかイヤだったので、自腹を切って──他の4国家に財を出して買った。……一国を丸々買う事になったので、それはそれは大層な散財になってしまったが、それもまた致し方無しだろう。……そこでまた、ジョゼフに〝買わされてる感〟が凄まじかったが…。……名前が〝騎士〟から変わっているのも仕様である。
閑話休題。
地を、肌を揺るがしていた歓声も止んだ。やがて、建国セレモニーも恙無く終了させる事が出来た。……ヒラガ公国の建国1日目は笑顔の絶えない1日として過ぎ去っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒラガ公国が──自分の国の建国から、1日、1週間、1ヶ月、1年、10年…そして、やがて80年近くもの歳月が流れた。……元・ロマリアの土地を再興させる為に、色々な策を施行した。例えば、あの手この手で国民の意識改革を促したり、識字率を上げる為に学校の様なものを建設したりもした。……果てには、エルフや翼人などの、〝言葉の通じる亜人〟との交渉の先鋒にも立ったたりもした。
……いつしか、ヒラガ公国は≪希望の国≫と呼ばれるようになった。愛する女性達と結ばれたし、生まれた〝宝〟の数は両手では数えきれない。良いこともあれば、悪い事も有った。……例えば〝出会い〟の分だけ〝別れ〟も経験した。……ただ、只の〝別れ〟ならどれだけ良かっただろうか──
「ルイズ、バレッタ、ユーノ…まだまだ〝そっち〟に逝けなさそうだ…」
俺が〝それ〟に気付いたのは30歳を過ぎた頃だったか。……俺の肉体は〝老化〟をしないようで、80年経っても俺は健常な身体で肌──もとい肉体は〝成長〟が終わってしまったであろう、20~21歳程度のままで止まっている。
……〝それ〟に気付いた時点で、あっち──地球側で結婚する事は諦めた。両親の最後を看取ったら、直ぐ様ハルケギニアに居を移した。
閑話休題。
(そういえば、仙術をちゃんと修めた頃だったか?)
……それがどういう意味を持っているかは判らないが、外見の年齢はルイズ達に合わせて、魔術やらスキルで度々変化させていた。……それでも、軽く先にも述べたが往々にして〝別れ〟というものはあり、何回〝死のう〟と思ったかは数えるのも億劫だった。……だが──
「……死にたくないなぁ…」
無意識だった。誰に聞かせるでも無く当たり前の事を溢していた。だが思うだけで…考えるだけで、〝自ら命を絶つ〟という選択肢を採る事は無かった。〝死にたくない〟、〝生きていたい〟。……いくら生きる価値の無いと断ぜられる様な罪人の生命を終わらせて懺悔に暮れる毎日を送ろうと…。……いくらベッドの上で力無く落ちていく愛する妻達を看取ろうと…。〝生〟へと、俺の精神は浅ましく縋り付いていて、全然…これっぽっちも〝そこ〟から剥がれる気配を見せない。
……それに今に思えば、なまじっか〝死後の世界〟や死に逝く人間の様を知っているのも逆効果だったのかもしれない。同じく転生者である同輩──ユーノの様に、徐々に〝死〟と云う新たなる旅立ちを迎えられるなら話はまた別だろうが、誰が自ら望んであの仄昏い空間に行きたがるだろうか。……少なくとも、俺にその様な勇気は持てなかった。
「……寝るか」
――「それでは1名様、□□□へとご案内~♪」
空耳だろうそんな〝胡散臭さ〟が溢れ、どことなく喜色ばんでいる女性の声を聞きながら俺は意識を深淵へと落として往った。……それがこの世界──ハルケギニアとの、永遠の別れになるとは須臾ほども思わずに──
SIDE END
後書き
ゼロ魔編はこれにて終了です。
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