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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第3部 始祖の祈祷書
  第7章 竜の羽衣

ウルキオラは目を丸くして、『竜の羽衣』を見つめていた。

ここはシエスタの故郷、タルブの村の近くに建てられた寺院である。

そこにこの『竜の羽衣』は安置されていた。

というか、『竜の羽衣』を包み込むように、寺院が建てられた、と言った方が正しい。

シエスタの曽祖父が建てたというその寺院の形は、ウルキオラの記憶にあった。

寺院は、草原の片隅に建てられていた。

丸太が組み合わされた門の形。

石の代わりに、板と漆喰で作られた壁。

木の柱……。

白い紙と、縄で作られた紐飾り……。

そして、板敷きの床の上に、くすんだ濃緑の塗装を施された『竜の羽衣』は鎮座していた。

固定化のおかげか……、どこにも錆びは見られない。

作られたそのままの姿をしている。

「バカな…」

ウルキオラは目を見開いたまま、『竜の羽衣』を見つめ、ゆっくり近づいた。

そんなウルキオラの姿に、皆は驚いていた。

「ウルキオラさん、どうしたんですか?わたし、何か不味いものを見せてしまったんじゃ……」

ウルキオラは答えない。

ただ、呆けて『竜の羽衣』を見つめるばかり。

そんな状況なので皆と呆然としている。

「ウルキオラさん、ほんとに……大丈夫?」

心配そうにウルキオラの顔を覗き込むシエスタに近づいて、ウルキオラは熱っぽい口調で言った。

「シエスタ」

「は、はい?」

シエスタら頬を染めて、ウルキオラの目を見つめ直した。

「なに、なんなの?急にどうしたのよ?ウルキオラ!」

キュルケはウルキオラの背中に向かって大声で叫んだ。

ギーシュとタバサは興味津々と言った風に、『竜の羽衣』を見つめている。

「お前の曽祖父が残したものは、他にないか?」

「えっと……、あとは大したものは……、お墓と、遺品が少しですけど」

「見せてくれ」




シエスタの曽祖父のお墓は、村の共同墓地の一画にあった。

白い石でできた、幅広の墓石の中、一個だけ違う形のお墓があった。

黒い石で作られたその墓石は、他の墓石と趣を異にしている。

墓石には、墓碑銘が刻まれている。

「見たことない文字ね?タバサわかる?」

キュルケは墓碑銘を覗き込み、タバサに振り返る。

タバサも分からず、首を振る。

「ひいおじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石だそうです。異国の文字で書いてあるので、誰も銘が読めなくって。なんて書いてあるんでしょうね」

シエスタが呟いた。

「ふむ、確かに見たことない文字だな」

ギーシュも深々と墓碑銘を見つめた。

しかし、そんな中、ウルキオラだけがその文字を読み上げることができた。

「海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル」

墓碑銘を指でなぞりながら言った。

見慣れた、現世の文字。

日本語であった。

「「「「はい?」」」」

すらすらとウルキオラが読み上げたので、皆目を丸くした。

そして、タバサはこの前ウルキオラに返した本の文字と似ていたことを思い出した。

ウルキオラはシエスタを見つめた。

シエスタは熱っぽく見つめられたので、またまた頬を染めた。

「い、いやですわ……、そんな目で見られたら……」

黒い髪、黒い瞳……。

何処と無く、懐かしい雰囲気。

そんな風に感じた理由に気づき、なるほど、と思った。

「シエスタ、その髪と目、曽祖父似だと言われただろう?」

ウルキオラがそう言うと、シエスタは驚いた声をあげた。

「は、はい!どうしてそれを?」




再び寺院に戻り、ウルキオラは『竜の羽衣』に触れてみた。

すると左手の甲のルーンが光りだした。

ルーンが光ると、中の構造、操縦法が、ウルキオラの頭の中に鮮明なシステムとして流れ込んでくる。

そして、燃料タンクを開けた。

3分の1程度の燃料が入っていた。

原型も留め、燃料も多少だがある。

ウルキオラは何故飛ばなかったのかと、疑問に思った。

しかし、それ以上にこれに乗っていた人物は、どうやってこのハルケギニアに迷い込んでしまったのだろう?

その手がかりが欲しい。

なんでもいい。

そこに生家から帰っていたシエスタが戻ってきた。

「ふわ、予定より、二週間も早く帰ってきてしまったから、皆に驚かれました」

シエスタはいそいそと手に持った品物を、ウルキオラに渡した。

それは、古ぼけたゴーグルだった。

海軍少尉だったシエスタの曽祖父がつけていたのだろう。

ウルキオラとは異なった次元から来たものの、同じ世界の住人。

ウルキオラと同じ異邦人。

「ひいおじいちゃんの形見、これだけだそうです。日記も、何も残さなかったみたいで。ただ、父が言ってたんですけど、遺言を残したそうです」

「遺言?」

「そうです。なんでも、あの墓石の銘を読める者が現れたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにって」

「すると、俺にその権利があるというわけか」

「そうですね。そのことを話したら、お渡ししてもいいって言ってました。管理も面倒だし……、大きいし、拝んでいる人もいますけど、今じゃ村のお荷物だそうです」

ウルキオラは言った。

「ありがたく、貰うとしよう」

「それで、その人物にこう告げて欲しいと言ったそうです」

「なんだ?」

「なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです。陛下ってどこの陛下でしょう?ひいおじいちゃんは、どこの国の人だったんでしょうね」

ウルキオラは呟いた。

「俺の世界の人間の国だ」

「ほんとですか?なるほど、だからお墓の文字が読めたんですね。うわあ、なんか感激です。私のひいおじいちゃんと、ウルキオラさんが同じ世界の人だなんて。なんだか、運命を感じます」

シエスタはうっとりした顔で、そう言った。

「じゃあ、ほんとに。ひいおじいちゃんは、竜の羽衣でタルブの村へやって来たんですね……」

「これは竜の羽衣という名前じゃない」

「じゃあ、ウルキオラさんの世界では、なんて言うんですか?」

『竜の羽衣』と呼ばれるその姿を見つめながら、ウルキオラは昔の人間の争いを思い出した。

どうしてそんな名前で呼ばれたのか。

おそらく、そんな名前で呼んだ方が通りが良かったのだろう。

『破壊の剣』とそうだった。

翼と胴体に描かれた、赤い丸の国籍標識を見つめた。

もとは白い縁取りがなされていたらしいが、その部分が機体の塗料と同じ、濃緑に塗り潰されている。

そして、黒いつや消しのカウリングに白抜きで書かれた『辰』の文字。

部隊のパーソナルマークだろう。

全てが懐かしい。

何十年も前に見た、現世の記憶。

戦闘兵器。

天翔る翼。

『竜の羽衣』。

ウルキオラは言った。

「零式艦上戦闘機五二型。またの名をゼロ戦」

「せんとうき?ぜろせん?」

「ようするに、空を飛び、戦うモノだ」

「これが…飛んで、戦う?」

シエスタは『竜の羽衣』、『ゼロ戦』を見つめた。

ウルキオラは頷いた。




その日、ウルキオラたちは、シエスタの生家に泊まることになった。

貴族の客をお泊めすると言うので、村長までが挨拶に来る騒ぎとなった。

ウルキオラはシエスタの家族に紹介された。

父母に兄弟姉妹たち。

シエスタは、八人兄弟の長女だった。

父母は怪訝な顔でウルキオラを見たが、私が奉公先でお世話になっている人よ、とシエスタが紹介すると、すぐに相好を崩し、いつまでも滞在してくれるようにと言った。

久しぶりに家族に囲まれたシエスタは幸せそうで、楽しそうだった。

ウルキオラは紅茶を片手に、窓から月を眺めている。

その、余りにも似合った姿にシエスタは一瞬顔を赤く染め、ぼーっとしたが、すぐに首を振り、雑念を振り払った。

「ウルキオラさん…」

ウルキオラは月から目を離した。

「なんだ?」

「その…竜の羽衣…じゃなくて、ゼロ戦?は飛べるんですか?」

シエスタの言葉に、同じ部屋にいたギーシュ、キュルケ、タバサ、シエスタの父母、そして兄弟姉妹が固唾を飲んだ。

「ああ、飛べる。今すぐにでもな」

そう言って、ウルキオラは紅茶を啜った。

全員の顔が驚きの色に変わる。

「本当ですか!じゃあ…」

シエスタの言葉を遮るように、窓の外から四通の手紙が飛び込んできた。

ウルキオラはそれを拾い、眺めた。

そして、ギーシュ、キュルケ、タバサに向かって投げた。

「なんだね?」

「お前ら宛だ。魔法学院からな」

ギーシュ、キュルケ、タバサは手紙を開いた。

それを読んだギーシュとキュルケは真っ青になった。

タバサも少しだが、顔を歪めた。

「どうやら、よくない内容みたいだな」

ウルキオラはそういいながら、残りの一通をシエスタに渡した。

「私にですか?」

そう言いながら、手紙を開く。

「学院に戻らず、そのまま休暇をとっていいですって」

シエスタは嬉しいやら悲しいやら、そんな顔をした。

「そうか」

ウルキオラはそれを軽く受け流す。

視線をギーシュに向けた。

「どうする?今から帰るか?」

ギーシュは真っ青になった顔をあげ、答えた。

「い、いや、明日の朝にしよう。今日は休もう」

キュルケはすでに立ち直ったのか、笑っていた。

「まあ、なるようになるわよ」

「……仕方ない」

タバサも少し落ち込んだ様子であった。




さて、次の日の朝、村の側に広がる草原にはゼロ戦が堂々と鎮座していた。

朝早くにウルキオラがここに運んできたのだ。

そこで、少し奇妙なことがあった。

ゼロ戦を滑走できる場所に運ぼうと、寺院に入った。

そして、ゼロ戦に触れ、霊力の膜を外装に纏わせた。

すると、急に何処と無く声が聞こえたのだ。

《やっと…あえ………した》

突然の声に驚き、ウルキオラは身構えた。

「誰だ?」

探査回路を展開させる。

しかし、それらしき人物はいない。

空耳か?と思った。

ウルキオラはゼロ戦を見つめた。

「まさかな」

そう言って、ウルキオラはゼロ戦を寺院から取り出した。




あの声は一体…と考え事をしていると、後ろから声を掛けられた。

「早く行くわよ。ウルキオラ。でも、ほんとに動くの?それ」

風竜の上に乗ったキュルケは怪訝な顔でゼロ戦を見つめた。

「確かに、見た目はカヌーに羽根を付けたオモチャだね」

ギーシュもゼロ戦の羽根をパンパンと叩きながら言った。

「心配するな。きちんと飛ぶ」

ウルキオラはゼロ戦の翼に触れた。

すると、ルーンが光り輝いた。

ウルキオラは翼の上に移動した。

響転で移動したので、見物に来ていたシエスタの父母、兄弟姉妹と村人は驚いた。

そして、ウルキオラはコクピットに入った。

操縦桿を握り、外に顔を出した。

「タバサ」

タバサは自分の名前をウルキオラに呼ばれたので、少し驚いた。

「プロペラを回してくれ」

「プロペラ?」

「風車みたいなやつだ」

タバサはそれを見ると、こくんと頷いて、杖を振った。

すると、ゆっくりとプロペラが回り出す。

それを見たウルキオラは、電路開閉機をonにした。

ゼロ戦のプロペラが激しく回り出す。

そして、ゆっくりと前進していく。

「お、おお!動いてる!動いてる!」

デルフは動くゼロ戦を見て、大いに興奮していた。

暫くすると、ゼロ戦の速度は相当な速さになっていた。

ウルキオラは操縦桿を引いた。

すると、機体が浮く。

脚を格納し、上空に向かって飛び立った。




上空をクルクル回るゼロ戦に、ギーシュ、キュルケ、タバサは驚きを隠せなかった。

「ほ、ほんとに飛んだわ…」

「あ、ありえない…」

「……すごい」

タバサは杖で風竜の頭を軽く叩く。

すると、風竜が飛び上がり、ゼロ戦の後を追いかけるようにして、魔法学院へと飛び立った。




タルブの村の草原は、歓声で包まれていた。

まさか、ほんとに飛ぶとは思わなかったこともあるが、なにより見慣れたそれが空を飛び立った姿に興奮を隠せなかった。

シエスタの父の目からは涙がおちていた。

「お父さん?」

そんな父の姿にシエスタは心配になった。

「おじいさんの言っていたことは…本当だったのか…」

シエスタは笑みを浮かべ、徐々に小さくなっていくゼロ戦を眺めた。

「そうだね…」

シエスタの周りではわいわいと兄弟姉妹が騒いでいる。

村人の歓声が、草原に咲く美しい花を揺らしていた。 
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