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美しき異形達

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第三十三話 神もなくその八

「ペンギンってよく食うんだよな」
「そうそう、お魚物凄く食べるのよね」
「そういうところがいいんだよ、あとさ」
「あと?」
「この水族館って本当に色々いるな」
「そうでしょ、お魚だってね」
「海のお魚だけじゃないんだな」
 淡水の魚や哺乳類等もとだ、薊は言うのだった。
「亀だってな」
「亀も多いのよね、この水族館って」
「大体大きさ自体が相当だよな」
「この水族館は日本でも指折りの規模なのよ」
 裕香は少し上気した調子で薊に話しちく。
「実はね」
「そうか、ただな」
「ただ?」
「いや、裕香ちゃん何か機嫌よくね?」
 薊もこのことに気付いて言うのだった。
「ここに来てから一段と」
「だって。奈良よ」
「ああ、海ないからな奈良県って」
「しかも山奥で」
「だから水族館好きなんだな」
「今は京都にも水族館あるけれど」
 四方を山に囲まれた奈良市と同じ盆地である京都市にもだ、今は水族館がある。しかしそれでもだというのだ。
「けれど基本的に山、それも田舎だと」
「夢みたいなものか」
「こんなのね」
 とても、という口調でだ。裕香は薊に話していく。
「ないわ、というか私動物園にも滅多に行けなかったから」
「そんなに田舎だったのかよ」
「そう、奈良県の南のね」
「奈良県の南ってどうなんだよ」
「秘境って言ってもいいから」
 ここでもこの話をする裕香だった。
「お伊勢さんも山が多いけれどね」
「それでもなんだな」
「こんなのじゃないから」
 奈良の南の深さはというのだ。
「山が見渡す限り連なっていてね」
「で、その中に裕香ちゃんの村があってか」
「そんな中だから」
 それで、というのだ。
「私水族館大好きなのよ」
「じゃあ須磨の水族館も学園の中の水族館もか」
「大好きよ」
 そのどちらも、というのだ。
「特に学園の中の水族館はよく行くから」
「あそこには」
「そういえばよく行ってるよな、裕香ちゃん」
 その学園の中の水族館にとだ、薊もここで気付いた。
「動物園にもよく行ってるけれどな」
「ええ、海っていいわね」
 長い間山の中にしかいなかった人間の言葉だ、それだけに裕香の今の言葉は切実なものが含まれていた。
「見ていて飽きないわ」
「それで水族館の生きもの好きなんだな」
「カブトガニとかね」
 丁渡一行の目の前に丸く平たい、そして長い尾を持つ甲羅に覆われた身体の生物がいた。水槽の底に何匹もいる。瀬戸内にしかいない天然記念物である。
「いいわよね」
「カブトガニも好きなんだな」
「だから見たことないから」
 とかくこれに尽きた、裕香がカブトガニを好きな理由もまた。
「それに可愛くない?」
「まあ上から見たらな」
「丸くてね」
「ぬいぐるみにしたら面白そうよね」
 裕香はカブトガニを見つつ微笑んでこうも言った。 
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