剣の世界で拳を振るう
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最強の座を賭けて
「取り合えずどうする?」
リーファがそう言って聞いてきた。
「取り合えずやることは特にない。
精々次の町の行け方を調べる程度じゃないか?」
「そう言えばリーファ。メールが来てたんじゃないのか?」
そうなのか?
そんなところを見てなかったから知らなかったぞ。
「ああ、そうだった…。
ごめん、ちょっと落ちてくるから好きにしてて」
そう言ってログアウトしていくリーファ。
「メールなんていつ来たんだ?」
俺はキリトに聞いてみた。
「ああ、ローテアウトしたときだよ。
リアルの方であの…レコン?からメールが来てたんだとさ」
「なるほどね」
そう言うことか。
原作ではゲーム内での出来事だったが…まぁ良いか。
「なぁケン……助けられるかな?」
「…怖いのか?」
「そうじゃないんだ。
ただ、もしタイムオーバーになったらアスナは須郷と…」
「はっ、お前はアホの子か。
結婚だの何だのと言っている前に、さっさと先に進むのが道理だろうが。
現実の時間はここでの3日分相当。
つまり、そのタイムリミットが何時かは知らんが時間はそこそこに残されてるってことなんだよ」
「ケン…」
「自分を見失い、更には目的までも見失う。
それだけはあってはいけないことだ。覚えとけよ?」
「ああ…すまない」
そう言って謝ったキリトの瞳はヤル気に満ち溢れ、
心に覚悟を刻み付けたようだった。
「(流石、主人公…」
俺はそう心のなかで思考してキリトを見る。
「ごめん二人とも!ちょっと急用が入っちゃった!」
急にログインしたリーファが慌てて話した。
「シグルドが私達…いやシルフ全般を売ったらしいの!」
「なんだと?」
と、キリトが反応。話をようやくすると、ケットシーとシルフの同盟をシグルドがサラマンダーに売り、奇襲を掛けるつもりらしい。
「ケン君の言った通りだったよ…。
だからね、二人とも――――」
リーファは説明した後に続ける。
その表情は少し曇りを見せ、その肩は震えているように見える。
「これはシルフの問題だから君たちが付き合ってくれる理由はないよ。
あの洞窟を抜ければもうすぐアルンだし、多分会談場に行ったら生きて帰れないから、またスイルベーンから出直しで何時間も無駄になるだろうね。ううん、もっと言えば…」
そこで言葉を切るリーファ。俺もキリトも黙って聞く。
「世界樹に行きたいっていう目的のためにはサラマンダーに協力するのが最善かもしれない。
サラマンダーがこの作戦に成功すれば、充分以上の資金を得て、万全の状態で世界樹攻略に挑むと思う。だから、今ここであたしを斬っても、文句は言わないわ。
だって私も、アスナさん助けたいから…」
リーファは最後の言葉に涙ぐみ、服の裾を掴んで小さくなる。
「バカだなスグは」
「え?」
「こう言う時…こう言う時こそ俺を頼ってくれよ」
「キリトくん…?」
「なんだかんだでこの世界ではスグに助けられてばっかだからな。
これくらいは恩返しさせてくれ」
「…でも、世界樹はいいの?上に、アスナさんがいるんじゃ…」
「大丈夫、まだ一ヶ月もあるんだ。少しくらい遅れたって…」
「それは駄目だな」
――――かまわない。
そう言おうとしたキリトの言葉を、俺はバッサリ断ち切った。
理由を問い詰めるようにキリトは俺を強ばった表情で見る。
「いいか?お前が挑もうとしてるのはこの世界のゲームマスターだ。
万が一、お前の動きに気付いて大幅アップデートを行い、
一ヶ月間の長期サービス停止にされたらもう何も出来なくなる」
「そ、それは…」
「大体この先に何があるかが分からない。(イレギュラー的な意味で)
もしかしたら結婚式を早めて来るかもしれない。
つまり、お前がここで立ち止まることは許されない」
「だからって…スグを見捨てるなんて…俺には…」
「だから、代わりに俺が行ってやる」
「……え?」
呆気に取られたような顔のキリト。
「はぁ…俺が会談場に行くって言ってんだ。
それならお前は先に進めるし、俺も後から追い付けば良い」
「ケン…」
「こういう非常時のために俺は付いてきているんだ。
アスナを助け出すのは勇者様だと相場は決まっているからな」
「…ありがとう」
よし、決定だな。
「さぁ、先に行ってろよ。俺もリーファの用事とやらをすぐに済ませて追い付くから」
「ああ!」
「またね、キリトくん!
それと、さっき呼び方スグに戻ってたよ」
リーファに言われ、顔が真っ赤になるキリト。それを捨て置いて俺とリーファは会談場へ向かった。
「彼処か!」
「そう!ってこんな大部隊で!?」
洞窟を抜け、空を飛び、向かった先は会談場。
到着した頃には赤色を象徴するサラマンダーの軍隊が件の場所へと向かうのが見えた。
「リーファ、先にいってるぞ」
俺はリーファ一言告げてスピードを上げた。
これは本来キリトの役目だった。
だが俺のイレギュラーを恐れる心の弱さでキリトの役を奪い取ったような物なのだ。
だこら俺は、キリトの代わりにこのサラマンダーを押さえなくてはならない!
俺は猛スピードでシルフ・ケットシー側とサラマンダー側との間に着地した。
「ちょっ、何者?」
「ウンディーネ…?」
シルフ・ケットシー側ではそう囁かれ、
「何だアイツは!」
「ウンディーネが何故こんなところに」
サラマンダー側ではそう囁かれる。
「双方、剣を引け!」
俺は声を張り上げて全プレイヤーに聞こえるように言った。
それでも緊迫した空気は納めることを知らず、敵対の視線が交差している。
「代表者は誰だ」
俺はサラマンダー側にそう聞いた。
そして部下達の間を通って前に出る無駄に厳つい顔のサラマンダー。
「ウンディーネが一人でこんなところに何の用だ?」
「俺はウンディーネとスプリガンの同盟大使として此処、シルフ・ケットシーの両同盟国と商談をしに来た者だ。
お前たちサラマンダーはこの四か国の同盟国に対し、その軍隊でPKを働くと言うのなら、
敵対行為として戦争すると捉えるぞ」
少し言葉が違っただろうか?
まぁそれらしいことは伝えたし、問題ないだろう。
「スプリガンとウンディーネが…?
同盟大使が護衛もつけず、ノコノコと此処までやって来るのか?」
「護衛なんて必要ない位に俺は強いからな。
一人で十分なのさ」
「ほう……ならば」
サラマンダーの男は背中から剣を抜き、俺に向かって突きつけた。
「俺の剣を30秒間耐えきったのなら、認めてやろう」
「気前が良いな。
俺も急ぎだ。この後からちっとばかし用事があるんでね」
俺は男と同じ空域に浮かび上がり、拳を構えた。
「ケン君!その人はユージーン将軍って言って全プレイヤー中最強って言われてるの!
だから…だから頑張って!」
リーファが声を張り上げて助言してくれる。
やっぱりこのプレイヤーがユージーンか。
原作に違いがなくて良かった。
「ケン…?…貴様、元SAOプレイヤーか?」
「…だったら何だ?」
「くく…はっはっはっはっは!
まさかこのような場所でSAO最強とやりあえるとは!」
……何でコイツ知ってるの?
俺のファンなの?つーか、そんなことで高笑いするとか、戦闘狂じゃないだろな…?
「しかし解せぬな。
SAOは剣の世界…なのに何故、貴殿は剣を抜かない?」
「俺はSAOでも拳だったんだよ。
まぁ、剣を使わせたかったら使わせてみろよ!」
「面白い!」
お互いは同時に飛び出し、攻撃を仕掛ける。
「おおお!」
「っらぁ!」
ユージーンの上段振り下ろしの剣に拳を乗せて弾く。
そのまま拳を突き出して顔面を殴る。
「ぬ…があぁ!」
怯まずに反撃に移るユージーンは、連撃のソードスキルを放つ。
「お!わっ!?ちぃ!」
四連撃目。
その横一閃を回避できないと感じた俺は、体を回転させるように腰の剣を抜いてガードする。
「っがぁ!?」
しまった!忘れてた!
――――ユージーンの剣は俺の剣をすり抜けて俺の腹を切り裂いた。
「たった一太刀でレッドゾーンとは…低レベルなアバターと言うことか」
ユージーンはがっかりしたとでも言いたげに肩をすくめた。
「ALOにレベルは無いだろ。
大体、俺は此処でもSAOでも防御は紙なんだよ。
それより、もう30秒経っただろ。終われよ」
「最強を関する貴殿との打ち合いを途中で止めるのは忍びない。
最後まで斬り合ってもらう!」
「上等だ!」
再び激突する俺とユージーン。
あの剣の能力に当たったら最後だ。
「ふっ!とっ!はぁ!」
「せあああああ!」
ブンブンと剣を振り回すユージーン。
俺は回避に専念し、反撃の機会を探る。
そしてそれは直ぐにやってきた。
「どおりゃぁ!」
――――大振り。
ここぞとばかりに回避して懐に潜り込む。
「甘いぞ!」
ユージーンは勢いのままに回転し、追撃を放った。
「あんたがなぁ!」
切り上げるように降られた剣に沿うように掌を当てて反らす。
そのまま体制を低くして攻撃に移った。
「解放する!宿れ戦神!轟け怒号!」
ユージーンを蹴り飛ばし、追撃に連撃を叩き込む。
そして上空へと飛び上がり――――
「ぐおあああ!!」
「インフィニティア・ソウルゥゥ!」
急降下して蹴り飛ばす。
そのまま地面へとめり込ませて止めを指した。
ユージーンは俺が飛び退いたと同時に爆発して炎になった。
場は静まり返り、俺はリーファの元へ向かう。
そこでリーファの隣にいるシルフの領主が扇子を広げて歓声を上げた。
「見事!見事ー!」
「ナイスファイトだよー!」
それを機に、ケットシーやシルフの方から歓声が湧き上がった。
そしてサラマンダーの方からも「やるじゃねぇか!」や、「あのユージーンさんを倒すなんて」
と歓声が聞こえる。
久しぶりにこんな歓声もらったな。
シルフ領主のサクヤが炎となっているユージーンを蘇生させた。
起き上がったユージーンは肩を回したり首を曲げたりして調子を確認してから俺の方へと振り替える。
「凄まじい強さだった。
もし良ければまた、手合わせを願おう」
「おう、待っていよう」
それだけ言って飛び去っていくユージーンとサラマンダーの軍勢。
あれ?それだけ?疑わないのか?
そんな疑問を知らずして、サクヤとケットシー領主のアリシャが問いかける。
「ねぇ君、スプリガンとウンディーネの大使って、ホントなの?」
「まさか。威勢勢い虚言で吐いた嘘だよ。
まぁ、必要無かったみたいだがな」
すると反対側からアリシャが腕にしがみ付いて来た。
「ねぇ君ぃ、ケットシー領に来ない?色々とお礼したいしぃ、傭兵とかやってほしいなぁ」
ちょっ!近い近い近いっつーの!
当たってる!小さいけど柔らかいなにかが当たってるから!
「いや、これから大切な用事がありますんで、ご気持ちだけいただきます…」
と、やんわり断りの言葉を言ったそばから今度はサクヤが反対側から抱き付いてくる。
「なら…私と一緒にシルフ領まで来ない?一緒に酒でも飲み交わそうじゃないか」
ちょっ!デカイデカイ!
何がとは言わないが兎に角デカイ!
やめてー!ていうかなんでシルフまで戻らなきゃならんのだ!
「マジで勘弁してくれ」
そう言い掛けた時、後ろからゲシッと蹴られた。
リーファよ、何故そんな目で俺を見ている。
これはあれだ。女性に免疫のない俺の人生が悪いんだ。
だから俺は悪くない。
「あぁ、そうだ」
そう言って俺はメニューを操作し、所持金を100ユルド残して全額を渡す。
「これを使ってグランドクエストに備えてほしい。
これだけあれば大半は揃うだろ?」
「こ、こんなにっ!?君ホントに何者?」
「しがない元SAOプレイヤーだ。
リーファ、いくぞ!」
そう言って飛び上がる俺は、リーファの手を引いてアルンへと向かったのだった。
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