魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 第23話 「祝福の風」
リインフォース。それははやてが彼女に授け……彼女が次の魔導の器に授けてほしいと願った名前。
あの忘れもしない夜から、はやては騎士達と共に魔法世界に関わり、自分なりにできる道を模索している。一方俺は、ユニゾンデバイスの試作型であるセイバーのテストを主に行ってきた。
その甲斐もあって……無論、マリーさんやユーリの努力のほうが勝っているわけだが、ついに《祝福の風》の名を受け継いだデバイスが完成。今日、主であるはやての元に正式に譲渡されることになった。
「改めまして、マイスターはやて。リインフォースⅡです。これからよろしくお願いします」
笑顔で挨拶をしたツヴァイには、彼女――リインフォース・アインスの面影が確かに残っている。稼働時間で言えば、セイバーのほうが上ではあるのだが、年齢設定がヴィータくらいになっていることもあってか表情が豊かだ。
製作の終盤でははやて自身も関わっていたので、ツヴァイと顔を合わせるのは今回が初めてではない。しかし、ほとんど会話らしい会話をすることもなかった。そのため、これまでの想いが込み上げてきているのか、はやての目は潤んでいる。
「マイスターはやて、どうされたのですか!?」
「ううん、何でもあらへん……リインとこうして話せて嬉しいだけや」
セイバーのデータがあるのである程度の人の感情は理解できるのだろうが、人は痛みや悲しみではなく、嬉びを覚えたときでも涙を流す。そういう複雑な部分までは理解できていないらしい。まあセイバーもまだまだ理解できていない部分が多いので、生まれたばかりのツヴァイでは当然だと言えるだろう。
「お前も主はやてのほうへ行ったらどうだ?」
壁際で見ていた俺に話しかけてきたのは、はやての付き添いというか新しい家族の顔を見に来ていたシグナムだ。他のヴォルケンリッターも来ているのだが、シャマルだけは時間がないということですでに退室している。
「今回のメインははやてやお前達とあの子の対面なんだから、脇役はここでいいだろ」
「ふ、何が脇役だ。今日という日をこれだけ早く迎えられたのはお前の力があってこそだろう?」
「……もしかして」
「ああ。マリエルからお前が頑張ってくれたという話は私やシャマルには入っている」
……やれやれ、マリーさんもおしゃべりだな。まあシグナムの口ぶりからして、どういうことをしていたかまでは、はやての耳に入ってないんだろうけど。
ユニゾンデバイスのテストは融合事故の危険がある。それだけに実際にテストをしていたと知られると、心配をかけてしまうだろう。はやてからすれば、何も知らないよりは心配させろと言うのだろうがもう後悔しても遅い。
「しないとは思うが、マリエルを責めるようなことはするなよ」
「言われなくてもしないさ。いつかはバレそうなことだし、もしも何かあってたら……はやてだけでなく、お前達にまで怒られてたかもしれないんだから」
「そうだな……何でも話せとは言わないが、あまり心配をかけるようなことはするな。カートリッジシステムのテストならばまだしも融合騎……それも試作機となれば事故が起きてもおかしくないんだ。私やシャマル、ザフィーラはともかく、主はやてやヴィータはお前のことになると平静さを失いかねん」
そう言われると申し訳ないと思う一方で、大切に思ってくれているのだと嬉しく思った。しかし、俺からすれば
「分かった……って言いたいところだけど、デバイスのテストは俺の仕事なんだが。それに俺よりも現場に出てるお前達の方がよっぽど危ないだろ。お前達が強いのは知ってるけど……正直に言えば、毎日のように心配してるんだからな」
「む……そう言われると強くは言えなくなるな」
「強く言う必要もあるまい」
会話に入ってきたのは、人型になっているザフィーラ。狼型のほうを見ることが多いので、何となく違和感のようなものがある。身長や体型に差があるのが最大の理由かもしれないが。
「我らは互いを大切に思っている。そのことも互いに理解しているのだ。口外してはならない場合を除いて、簡単に説明するようにすればよかろう」
「そうだな。無口なザフィーラに言われちゃ仕方ない。……あぁそうだ。ザフィーラ、いつかでいいから体術とか防御系の魔法教えてくれよ」
「ん? それは別に構わんが……」
ザフィーラは肯定の意思を示したのだが、視線は俺から動いた。それを追った先に居たのはシグナム。どことなく機嫌が悪そうに見えるのは気のせいだろうか?
「なぜ私を見る?」
「いや、お前はショウに剣術を教えているだろう。それにショウが教えてくれと言ったとき、表情が多少だが変わった。愛弟子を取られたくないと思っているのではないかと思ってな」
「なっ……馬鹿なことを言うな。別に弟子とは思っていない。そもそも、ショウが誰から何を教わるのも自由だろう」
「そうか。なら良いのだが」
良いも何も……シグナムが俺を独り占めしたいみたいな感情を抱くわけないと思うんだが。
そんな思いを抱きながらシグナムに視線を送ると、こちらの動きを予期していたのか視線が重なった。彼女の顔はどこか不服そうに見える。
「ショウ、変な誤解はするなよ」
「いやしてないけど。シグナムがそういう感情を抱きそうなのは、はやてくらいだろうし」
「お前な……主が大切なのは認めるが、別に誰かに取られたくないなどとは思っていない」
「へぇ……」
「何だその反応は?」
「別に。ただはやてバカのシグナムが言ったから」
はやてバカという言葉が気に障ったのか、シグナムはむすっとした顔を浮かべて俺の頭に手を置いて、「バカなことを言うな」と言いたげにやや乱暴に撫でる。頭が揺れているため、撫でるという表現よりは揺すっているといったほうが正しいかもしれない。
「乱暴に頭撫でるなよ」
「その割には抵抗しないじゃないか」
「子供の力で大人に勝てるか。というか、大人が子供をいじめるなよ」
「私のことを友だと言ったのはお前だろう? 友に大人も子供もあるまい。それにいじめているつもりはないさ」
自分なりに可愛がっていると言いたげに、シグナムは俺の頭をポンポンと叩く。彼女の正確な年齢は分からないし、別に何歳だろうと気にはしないが、見た目年齢は20歳前後といったところだろう。俺を子供扱いしても主観・客観的におかしくないが……慣れてない身としては恥ずかしい。
このまま会話を続けてもシグナムなりに可愛がられると思った俺は、タイミングを見てはやて達のほうへと逃げた。末っ子扱いだったヴィータは自分よりも下が出来て嬉しいのか、積極的にツヴァイと話しているようだ。まだまだ人間らしさには欠ける部分があるツヴァイだが、年齢設定が近いこともあって会話は弾んでいる。
「おっ、ショウくん。はは、えらく可愛がられたみたいやな」
「された側からすれば可愛がられた覚えはないけどな」
「そないなこと言うてるけど、内心では多少なりとも喜んどるくせに。ショウくんはシグナムのこと好いとるのは見れば分かるし、シグナムみたいなのがタイプやろ?」
にやけ面のはやてに一発入れたくなったが、さすがに模擬戦でもないのに力を振るうのは躊躇われる。
――いきなり何言ってんだこいつは……あれか、このまえユーリに質問攻めされた分のお返しなのか。
あれだけ顔を真っ赤にすることがなかっただけに、気持ちとしては分からなくもないが……ユーリと会ったのは偶然というか運命だろう。同じ時間帯に翠屋に居たことと高町に誘われたことで実現したんだから……結局は高町やユーリが悪そうに思えるんだが。
「人柄が好きだってのは認めるけど、何でタイプとかの話になるんだよ。あっちは大人で俺は子供だぞ」
「ちっ、ちっ、ちっ。あんなショウくん、恋愛に歳の差は関係ない。それに男の子は年上のお姉さんが好きって何かで聞いたし」
あのなぁ……まあ言ってることは正しい気もするけど。でも冷静に考えてもみろよ。たとえ俺がお前の言うような好意をシグナムに抱いたとしても、シグナムは本気で相手はしないだろう。……性格を考えると、真剣に考えて返事をくれそうではあるが。
「はぁ……シグナムよりもお前にそういう気持ちを抱く可能性の方が高いだろうに」
「おっ、やっとお姉さんの魅力に気が付いたんか」
そう言いながらはやては、ムカつく笑みを浮かべながら指で突いてくる。内に芽生えている感情の度合いが、気のせいか前よりもレベルアップしているように思える。シュテルとの出会いで触発でもされたのだろうか。
「やめろ。ったく、何でお前はそうなんだ。もう少しディアーチェを見習えよ」
「ん……はは~ん、ショウくんは王さまに気があるんか。でも見た目はわたしと同じやし……あぁ、引っ張ってくれそうなのがええんやな」
「お前なぁ……だから何でそういう話になるんだよ?」
「そうか、そうか……ショウくんも成長しとるんやな。でも何か複雑な気分や……弟が違う姉を慕ってるみたいで」
……聞いてないし。というか、いつ俺がお前のことを姉として慕ってるって言ったよ。家族のように、とは言ったことがある気がするが、姉とは言ってないと思うぞ。
それにこのまえ、こいつはディアーチェに姉になってとか言ってたよな。そんな相手に嫉妬心を抱くなよ。そもそも俺が末っ子扱いか……まあディアーチェの誕生日知らないからどうなのか分からないけど。
「はぁ……お前も成長してるよ」
「そう? でも今のため息や言い方からして悪い意味にしか聞こえん」
「まあそうだからな。ただ……前よりも明るくなったというか、強くなったようにも思う。もう俺が身近にいなくても大丈夫……」
不意にはやてが抱きついてきたので、俺は言葉を詰まらせた。はやても魔法に関わり始めた以上、前のように泣きそうになるとは思えないが、ここ最近はふざけている姿ばかり見ていたので不安にもなる。
「お、おい……」
「……ありがとう」
「ありがとう?」
いったい何に対しての礼なのだろうか。振り返ってみても、これといったはやてから礼を言われるようなことをした覚えはないのだが。
「今わたしがこうしておれるんはショウくんのおかげや。辛いとき、苦しいときはいつも一緒に居ってくれた。わたしのために必死で戦ってくれた……そして、あの子のために危険を冒してまで頑張ってくれた」
「え……」
「何やその顔。デバイス関連のお仕事しとるとは聞いてたし、ユニゾンデバイスがどういうもなんかくらい調べるやん。それに長年の付き合いやろ。わたしが分からんとでも思ってたんか?」
「いや……まあ可能性としてはありえるな、とは思ってたけど。……怒ってないのか?」
「怒ってるというか思うところがあるのは確かやけど……仕事の一環やったろうし、わたしのためにって気持ちも嬉しいからなぁ。何よりこうして元気でおるんやから何も言わんよ」
はやては穏やかに笑ってから再度抱き締めてくる。
――やれやれ……この小さな狸には敵わないな。というか、普段もこんな感じで居てほしいんだけどな。ふざけるやつはあいつだけで充分だし。
などと考えていると、目の前に約30cmほどの女の子が浮遊していた。彼女は子供らしい笑みでこちらを見ている。
「ショウさんとマイスターはやては、とっても仲が良いのですね」
「当然だろ。いっつもこんな感じでイチャついてんだから」
「え、それ本当? ……いいなぁ」
ツヴァイの発言を合図に次々と声が上がっていく。振り返ってみると、シグナムやザフィーラまで静かな笑みを浮かべていた。
はやてと今のように触れ合うことがあるのは、ヴォルケンリッター達は知っている。マリーさんも知らない相手ではない。しかし、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。はやても素であったため、俺と同様の感情を抱いたらしく顔を赤くしている。
「ちょ、ちょっとそういう視線向けんとして。ショ、ショウくんが好きなんは……ヴィ、ヴィータなんやから!」
「はあ!? は、はやて、あたしになすりつけようとすんなよな!? あたしよりはシグナムだろ。乳魔神だしよ!」
「なっ……ヴィータ、お前は何を言っているんだ!」
ヴィータの好意は家族に近いものだが、彼女は強気な性格だが照れ屋な面もある。前に一緒に歩いていたとき、兄妹に間違われたことがあるがそのときも真っ赤になっていた。なので慌てるのも分かる。
シグナムが慌てているのは好意云々の話ではなく、ヴィータの口にした乳魔神という言葉が原因だろう。
「な、何って、シグナムの胸がでけぇのは事実だろうが!」
「胸の大きさは今の話に関係ないだろう!」
「おい、主の前だぞ。熱くなるな」
「ザフィーラは黙ってろ!」「ザフィーラは黙っていろ!」
逆ギレに等しい怒声を浴びせられたザフィーラは、俺にあとは託すと言わんばかりの視線を向けると黙ってしまった。確かに事の発端に関わっている身としてどうにかしなければとは思うが、今のふたりを止めるのは一苦労だ。だがしかし、やるしかあるまい。
「お、おい、ふたりとも落ち着け」
「うっせぇ! というか、ショウがはっきりしねぇのがいけねぇんだろ!」
「そうだ。お前が誰を好きか言えばいいだけだ!」
いやいやいや、落ち着いてよく考えろ。誰かしら言えば、確実にそいつと妙な空気になるぞ。といっても、無理やりにでも言わせそうな雰囲気だ。どうする……
「え、えっと……お、俺が好きなのは……」
俺が指差したのは……リインフォース・ツヴァイ。オロオロしていた彼女も、ふとこちらに気づき小首を傾げた。
「……え? リインですか?」
「う、うん」
俺の行動にしらけたような空気が流れ始めるが、そんなことは気にしていられない。大体俺からすれば、しらけること自体おかしいのだ。場の空気を落ち着かせたのだから感謝されてもいいだろう。
「嬉しいです。リインもショウさんのことは好きですよ。理論上、ショウさんとのユニゾンも問題ないそうなので、マイスターはやての許可があればいつでも力になります!」
流れ的に聞き流しそうになったが、今何気に重大なことを言ったよな。はやて用のはずだけど……セイバーのデータを元にしている部分があるから、俺にも適正があるのもおかしくはないか。
「あぁうん、多分ないとは思うけど、もしものときは頼むよ」
「はい!」
「いやぁ、ショウくんはモテモテだね~。あっ、ちゃんとファラやセイバーに言っておかないとダメだよ。じゃないと浮気だってことで面倒になるだろうし」
「マリーさん、面白がるのやめてもらえます? それと、それよりは可愛い妹が出来たってことで騒ぐと思うんですけど」
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